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楳図かずお先生のこと

 20代の駆け出しの雑誌ライターの頃に、楳図かずお先生を取材したことがある。この時が人生初めての漫画家の仕事場訪問だった。高田馬場あたりのマンションだったと思う。扉を開ける。開けて思わずたじろいだ。
 眼の前には楳図先生が満面の笑みで立っている。その後だ。仕事場が見える。アシスタントさんの机が3つ4つ並んでいる。机と机の間にアシスタントさんが3,4人、死体のように転がっていた。大げさでなく死臭がした。
先生は「いやぁ3日徹夜なんですよ~」とテンション高く笑って迎え入れてくれた。

 どんな取材だったかは忘れたが、駆け出しのライターに任せるくらいだからたいして頁数もない内容だ。カメラマンも同行しなかったから、撮影もない。言ってはなんだが、取材する方もされる方も、適当にまとめらればすむ内容だった。それなにの先生はテンション高く取材とは無関係なロックの話をさんざ語って止まらない。

「先生、もう取材は十分ですから、早く寝た方がいいですよ」と、内心思って恐縮した。そして小一時間も話をして、帰り際のドアの前だ。
「お疲れ様。これ、持って行って」と、満面の笑顔で頂き物だろう段ボール箱から梨を(ミカンだったか)取り出して渡してくれる。
 最初は一個、右手で受ける。次にもう一個、左手で受ける。両手が塞がってもう一個。腕を組んで3つ目を腕と胸で挟むと、その上にもう一個、そしてもう一個とどんどん山積みに重ねてくれる。
その格好のまま途方にくれて階段を下りた記憶はある。
私、あの果物をどうやって持ち帰ったのだろう……。

冒頭の画像は「ぐあし」=「左手を広げたパーの状態で、中指と小指だけを折り曲げる」と、生成AIに言って作らせた「ぐあし」ポーズ。
先生、漫画は当分AIには負けませんから安心してください。
たくさんの素晴らしい作品をありがとうございました。
「さばらじゃ!」


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