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五十音のレコード





あいうえお
かきくけこ
さしすせそ
たちつてと
なにぬねの
はひふへほ
まみむめも
やいゆえよ
らりるれろ
わ を ん



五十音 黒鉄煎餅 その円盤に
スクラッチにビート 擦りに音節 差し染めば
音言葉成り 言葉物語り 物語音還り
漆黒の皿とて 色様々の 絵皿なり



あいうえおえ
かきくけぅここ
さささささしすせそ
たちつつちぃつつつてとてとてとてとてとてととととぅととと
なぁになになににににににぬぅねのねぃねののの
はははははははひはひふへほほへ
まみみむめむめももめぃもももももも
やいゆえよやいゆえよ
ららららりるらりるりるりるるるるるるるれりろれろ
わぁをんをんわぁをんをんをんわぁをんをん



「五七五調は、肉体化さえされて居る。
 歩きながら口ずさんでいる
センテンス、ふと気づいて指折り数えてみると、
きっと、五七五調である。
ーーハラガヘッテハ、イクサガデキヌ。
ちゃんと形がととのって居る。
(太宰治「古典竜頭蛇尾」より)



あいうえおえかき くけぅここ
さささささ しすせそたちつつ ちぃつつつ
てとてとてとて とてとてととと
とぅととと なぁになになに ににににに
ぬぅねのねぃね のののはは
ははははは
ひはひふへほほへ まみみむめ
むめももめぃも ももももも
やいゆえよ やいゆえよ
ららららりるら りるりるり
るるるるるるる れりろれろ
わぁをんをん わぁをんをんをん わぁをんをん



「漢字は文字の数が多く、字形が複雑な代わりに、これほど表情に富み、奥行きが深い上に、筆写の美しさまで備えた文字は他にない。」
(旺文社「漢字典 第二版」”編者のことば”より)



愛飢え お絵描き 苦境孤児
サササササ 死す世相断ちつつ 血ぃ通通通
手と手と手と手… と手とて塗塗塗
尊父と なあになになに 兄莞爾
縫う姉の檸音 仏顔の母
「ははははは」
緋は皮膚へ頬へ 魔魅見む目
夢梅桃も迷妄 喪喪喪喪盲
「やい言えよ。やい結えよ。」
ララララ淪落 淋漓瑠璃
縷縷縷涙縷縷涙 玲瓏玲瓏
「わぁをんをん。わぁをんをんをん。
 わぁをんをん。」
ー 絵に描いた聖家族 ー








五十音の古びたレコード。
今回はスクラッチもビートも
ちと重くなりすぎた。

※ サササササ:絵筆、紙面上走る音
※ 莞爾:にっこり笑うさま
※ 縫う姉の檸音:家族に割って入ってくる
  姉のレモン色の声
※ 仏(のの):ほとけさま
※ 迷妄:道理を知らないために持つ間違った
     考え、心の迷い
※ 淪落:身を持ち崩すこと
※ 淋漓:汗などがしたたり落ちること
※ 縷:糸のように細く長くつづいているもの
※ 玲瓏:玉などが触れ合って、いい音をたてる
     形容。また、そのような声・音


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