冬の炊飯器

質問箱の方にこんな質問をいただいた。

回答を書いていたら思ったより長くなってしまい、「なんかうまいこと言わなきゃ」と欲が出てしまい、あれもこれも付け足すうちにどんどん長くなり、そのままでは質問箱らしくないような気がしたので、noteに引越しすることにした。質問箱の方にはこちらのリンクを貼っておこう。

なぜ炊飯器の釜を濡らさないのか。それは私が一人暮らしを始めたばかりの頃にさかのぼる。

当時は私も、炊飯器の底の水気を取ることはなかった。むしろビッチャビチャだった。生コメの入った炊飯器の内釜を蛇口の下へ置き、水道から水を入れる。シャカシャカとぐ。水を捨てる。また蛇口の下へ置く。先ほど捨てた水でシンクの中は水びたしなのだが、何ひとつ気にすることなく置く。何度かといだあと水分量をはかるときも、シンクの中に置いたまま。そしてそのまま炊飯器へとセットする。

はじめての一人暮らしで親に買ってもらった炊飯器は、世の中にある炊飯器の中でもっとも簡素で安いものだった。今もあんな安っぽい炊飯器があるんだろうか。スイッチを入れるとガーッと熱くなり、時間が来るとただスイッチが切れる。水の量は毎回ぴったりにしているが、毎回固すぎたり柔らかすぎたりして、一度も美味しく炊けたことはない。柔らかくても硬くても、底は焦げる。保温性はない。そして最大の特徴は「フタは乗っかっているだけ」ということだ。

炊飯器をセットして間も無く、バチバチっと大きな音がし始める。内釜の底についた水気が、急な発熱により蒸発する音だ。かなり大きな音だ。いつもうるさいと思っていた。それなのに「音が出ないように工夫しよう」という発想にはならないのが、私という人生だ。何か不具合があってもボンヤリと傍観し、原因を突き止めようとしない。知恵と工夫で乗り越えようともしない。「ご飯を炊くことは、バチバチいう音と過ごすこと」と当たり前のように感じていた。

その日もいつものように、バチバチゆわせながらご飯を炊いていた。そのアパートの台所はとても狭く、冷蔵庫を置いたらもういっぱいで何も置けない。なので炊飯器は炊けるまでは床の上、炊けたら食卓の上、食べ終わったらまた床の上を定位置としていた。冬だった。寒かった。いつもは開けっ放しにしている台所のガラス扉は、珍しく閉じられた。

と突然「バンっ！」と大きな音がした。驚いて振り向いた私は、何か大変なことが起こったことがわかった。半透明なはずのガラス扉が白く曇っていたからだ。おそるおそる扉を開けると、そこには大惨事があった。炊飯器が吹っ飛んでいたのだ。

いつもよりずっと炊飯器はビチャビチャに濡れていたんだろう。水蒸気爆発を起こしちゃったんだろう。炊飯器自体は超軽量で、フタは乗っかってるだけ。コメの放出を妨げるものは、何ひとつなかっただろう。

コメの状態は、ちょうどねっとり熱々で、飛び散ったものを片付けるには最悪のテクスチャだった。米粒は天井まで飛んでいた。冷蔵庫の扉や、ガスコンロにもへばりついていた。片付けるのがイヤでイヤで、もうこの家ごと燃やしてしまいたい気持ちでいっぱいだった。

そんなわけで、私は「炊飯器の内釜を濡れたままセットしない」ようになったのである。

がっちりフタがホールドされる炊飯器に変えてもう何十年もたつけれど、そこだけは気をつけている。たまにオットがセットしてバチバチっと音がすると、ちょっと尋常でないくらい怒ったりする。

【きのこたけのこ戦争ごはん】

「もう捨てよう」と思った炊飯器だったが、結局「まだ使える」が勝ち、その後も使っていた。妹が大学受験のため私のアパートに泊まった時も、活躍したのはこの炊飯器だった。受験当日にお弁当を持たせたこともある。その日帰宅した妹は「今日のテストの手ごたえ」を話すより先に「今日の炊き込みご飯がいかに美味しかったか」の話ばかりしていた。「落ちるな」と私は感じた。結果はどうだったのだろう。

その時作ったのは、しめじの炊き込みごはんだった。実家にはない味だったから、新鮮で美味しく感じたのかもしれない。当時はしめじをよく使ったが、今はきのこならなんでも使うし、隠し味に油揚げを見えないくらい細かく切ったのを入れることが多い。

そして最近では「きのこたけのこ戦争ごはん」にすることも多い。天然や生にこだわらなければ、きのこもたけのこも1年中手に入りやすいし、どう転んでもうまい。そしてはじめての人に出すときは「きのこの山」と「たけのこの里」のどちらを推すかで、論争もできる。ちなみに私はきのこ派である。

コメ1合に対し、醤油が大さじ1。甘いのが好きなら、砂糖かみりんを入れる。
きのことたけのこは好きなだけ。油揚げは好き好き。

きのこたけのこ戦争がしたければ、きのこは本シメジがいいかな。コツはそれくらいなもんだ。