名人戦2024 第1局のおやつとご飯を解説する
かつて対局前日、対戦相手の前で「わざと」ステーキを何枚も平らげて見せたという名人がいた。棋士の食事は戦いである。
1日目 午前のおやつ
藤井名人は「東京雲海クッキーサンド バター&レーズン フルーツ添え」とのこと。
東京雲海クッキーサンドは名人戦第1局の前日、対局場となるホテル椿山荘東京が発売した商品。
藤井名人が最初のおやつにこの商品を選択したことは、対局場であるホテル椿山荘への配慮が伺える。
最初のおやつでこの余裕はさすが名人。
おやつ選択から垣間見える、藤井名人の余裕には感服である。
一方の挑戦者、豊島九段はフルーツ盛り合わせをチョイス。
挑戦者として名人からあえて一歩下がったようなメニュー選択には頭が下がる思いしかない。
秘めた闘志はまだ秘めておく、おやつには出さない。
豊島九段の覚悟、闘志の醸成が垣間見えるメニュー選択だ。
1日目 昼食
藤井名人の昼食は 「黒毛和牛サーロインステーキ重 米茄子の鴨炊きとともに」というなんとも余韻が残るメニュー名。
藤井名人が「黒毛和牛サーロインステーキ重 米茄子の鴨炊きとともに・・・をお願いします」と言っている姿を想像すると少しニヤニヤしてしまう。きっと小声だろう。
失礼。
米茄子の鴨炊きは昭和天皇が食事をされた後「茄子のお料理がおいしかった」と言葉を残されたといわれもあるそうで。名人は天皇ではないが、最高位にふさわしいメニュー選択と言える。
一方、挑戦者豊島九段は「松花堂弁当 はつめじろ添え」とのこと。
将棋ファンにはおなじみの松花堂弁当。バランス良し、消化に良いものも多く、午後の眠気対策にもしやすいメニュー選択から、今回の対局にはかなり慎重な態度で臨む様子がうかがえる。
なおこのあと、2日目夕食休憩時点でも局面はまだまだ中盤。慎重な展開はこのあとずっと続くようだ。
1日目 午後のおやつ
藤井名人のチョイスは「桜とピスタチオのマーブルケーキ フルーツ添え」とのことで、至って普通。めちゃくちゃ普通。
と思いきや、リンゴジュースも添えられている。
フルーツ with フルーツ。
ここまで対局場への配慮を重ねてきただけに、「午後のおやつは食べたいものを選びました」を伏し目がちに語る藤井名人の姿が目に浮かぶ。
藤井名人は食べたいものを選んだ風だったが、豊島九段はここに来て「料亭『錦水』の桜のきんつば」を選んだ。
料亭『錦水』とは対局場ホテル椿山荘の料亭・・・この段階で対局場への配慮は名人から挑戦者に手番が渡ったように見える。
ただ右奥には「リンゴジュース」も見えるし、きんつばにリンゴジュース・・・脳を焼く将棋にはこれ以上無いおやつでもあり、ホテル椿山荘のメニュー構成はいつもにもまして素晴らしい・・・(メニューは対局場が複数用意して、対局者が選ぶことになっています)
2日目 午前のおやつ
藤井名人は「東京雲海プリン(抹茶) フルーツ添え」を選んだ模様。
対局場が展開するスイーツ「東京雲海」シリーズのプリンを選んだのは、少しだけ心配である。
やはり2日目の午前でプリンという「食べ物が喉を通らなくても悟られない」メニューを選ぶのは闘志に欠けるのではないかと、一抹の不安を覚えるのは私だけではないはずだ・・・。
ただ万が一私の推測が的中していたとしても・・・関係者は「対局場への配慮で、名人は東京雲海プリンを選んだな」と思わされるだろう。老獪か、はたまた「プリンが食べたかっただけ」なのか、名人のみぞ知る。
豊島九段は1日目と同じく、フルーツ盛り合わせを選択した。
名人戦第1局は藤井名人が先手となったが、名人の先手勝率は8割を超える。
2023年に至っては「先手番の勝率 9割6分」だ。
対局者としてはもはや絶望であろう。
しかし豊島九段が2日目もおやつを変えなかったことは、特筆に値する。
現状維持は衰退と言うが、2日目午前の局面でも互角の局面を維持していることは豊島九段には互角以上の意味があるのかも知れない。
おやつも現状維持で構わない。
2日目 昼食
藤井名人は冷たい天ぷらそばと椿茶(アイス)、豊島九段は「うな菊 あいのせ重」を選択している。
私はXにてこのようにポストした。
午後の眠気対策重視の藤井名人、スタミナ重視の豊島九段という構図。
互角の局面が続いている以上、挑戦者豊島九段のうな重チョイスから、長期戦と粘り倒す決意が垣間見える。
藤井名人は天ぷらそば。眠気対策重視のメニューは「このあとも一切の油断なく臨まなければ負ける」という名人の矜持、挑戦者への敬意とも取れる選択と言えそうだ。
夕食についてはまた書きます。ご清聴ありがとうございました。