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青春と修羅。 黒須 神保町

次郎くん。どうだ今の仕事は。

はい。何とかやっています。でも、やはり多数の人を相手にするのは僕にはなかなか難しいです。特に生徒と同僚、歳がバラバラで。

そうか。研究者としての君にも期待しているんだが、なかなかポストが空かなくてね。もう少し辛抱してもらうことになりそうだ。ただ、定期的に研究の報告も今まで通り続けてもらいたい。大変だがここが正念場かもしれん。

は、はぁ。

そう答えるしか無かった。院生の頃から世話になっている時任教授。彼は自分の夢を繋ぐ唯一の存在だった。ガッカリさせるわけにはいかない。しかし、講師の仕事に慣れるに連れ、そこに人間関係が発生してしまい、研究に対する集中を妨げる。

あの目崎という生徒から逃げたのは、彼女が鬱陶しいというより、自分の境遇と向き合わなくてはならなくなるからだ。

報告を終え、教授の研究室を後にし、専大通りを歩き、靖国通りを越えた小道にその店はある。

黒須。

神保町には多くのラーメン店があるが、その中でもキリリとした醤油スープと腰のある細麺、そして柔らかなチャーシュー。このバランスが絶妙なラーメンは数少ない。ここは、その貴重な名店の一つ。教授の研究室を訪ねた後は、ここに寄ることが多かった。

いらっしゃいませ。食券をどうぞ。

次郎はいつものようにチャーシュー麺を選ぶ。最近は教授のところに行くのも少し憂鬱になっている。そんな時はこのラーメンを無心に食べる。

今はただ、醜い修羅となるしかない。いつか決断できるときが来るのだろう。それを待つより他に今できることはない。来週はあの目崎とかいう生徒の話を聞くことになるのかもしれない。誰かの青春と、そして、まだ終われない自分の青春とを内混ぜにして。

お待たせしました。

来た。今日もこの一本芯の通ったラーメンのクリエイティブ。今の"俺"は、堪らなくなる。

ズルズルッ!

勢い良く啜る。

く、沁みる。

ありがとうございました〜。

店を出た次郎。夕陽は雲を赤に染め、空が紫に変わる。路の電燈は青く灯り始める。

その明滅は、せわしく、せわしく、たしかにともり続けるのだった。


神保町 黒須  神田神保町
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