彼女は親友、時々ライバル。 二代目えん寺 中野
ねぇ、景子、最近忙しいの?
え、うん、まぁね。
ふーん。何で?何で?
いや、まぁ、ね。
え、もしかして、男?まさかねぇ、景子男子なんて全然興味無さそうだし。あんたさ、鉄の魔女って言われてるの知ってる?
え?そんなこと言われてるの?
あれ、知らなかったんだ。多分景子に振られた男子が言ってるんだよきっと。
ふーん。
まるで興味がわかない。
ねぇ、佳子。あなたはどうするの将来?
え、どうしたの急に。まぁとりあえず大学には行こうかな。特にやりたいこともないから、ハッピー女子大生ライフを送るの。
ふーん…。
ねぇ、なんかさ、誰かが言ってたんだけど…
私を伺ってくる佳子。恐らくバレている。核心を突きたくてウズウズしている。私は話題を変えた。
ねぇ佳子。ラーメン食べようよ。
へ?
中野って、ラーメン屋さんたくさんあるんだよ。
え、景子、普段ラーメン屋なんて行くの?
行かない。急に思いたったの。
言いながらGoogleでラーメン屋を検索し、「えん寺」というベジポタつけ麺で有名なお店が駅のすぐそばにあった。
私の顔を見てワクワク顔の佳子。
駅を南に向かい、アーケードよりも一本東にある小道に入ると、ラーメン屋が3軒も並んでいる。競合にならないのかと伺ったが、どこもそこそこ混んでいる。相乗効果か。マーケティング戦略でも学ぼうかしら。なんだか既に大学生になったような気がした。
ここだわ。入りましょう。
うん。
入った瞬間に券売機。なんだかわからないけど、ベジポタ辛つけ麺を押した。佳子は普通のベジポタつけ麺を押した。空いてる席に並んで座る。
あつもり、ひやもり?
え?何?
しばらくして、麺が熱いか冷たいかのことだと気づいた。なんてぶっきらぼうな。しかし、他の客は気にするところは一切ない。これがラーメン屋か。
アツモリで。二つとも。
佳子の分も勝手に頼む。
胚芽麺かモッチリ麺か?
え?まだあるの?
胚芽で。もう一つはもっちりで。
どちらも頼んでおけばイイでしょ。
佳子は行方を見守っている。
かしこまりましたー。
ようやく注文が終わった。これがラーメン屋の世界か。硬派だわ。
ねぇ、景子。なんだかチラチラ見られてるよ私たち。
ふん、わかっている。こんなピチピチの可愛い女子高生が場違いなラーメン屋にいたら、レベルの低い雄どもは見ないわけにはいかないのだろう。憐れな。
見させときなさい。彼らにとっては僥倖ね。
もう、景子はほんと自分の容姿端麗さがわかってるのね。そんけーする。
あら佳子、あなたも可愛いわよ。私とはタイプが違うだけ。
あら、まさか鉄の魔女に褒められるなんて、麺が鉄になってたりしないでしょうね?ふふ。
お待ちどう様です。
くだらないやりとりの間につけ麺が運ばれてきた。すごいボリューム。胚芽麺ももっちり麺も美味しそう。そして、この濃そうなつけ汁がまた野獣的だ。佳子はもっちり麺に眼が輝いている。
ズルズルッ、ズルズルッ♬
私達は勢いよく麺を吸い込んだ。
辛つけ麺だけに、つけ汁の後味が辛い。首筋から汗が出てくる。
ズルズルッ、ズルズルズルッ♫
佳子は大人しそうに見えて豪快且つ決断力がある。私は、彼女を尊敬している。迷わない強さがある。私にはない強さだ、私には…
ひやー、美味しいー♪なんか豚骨のドロドロがもっちりつけ麺にうまく絡められて意外と重くないというか、つけ汁もドロドロなんだけど爽やかというか。結構いけちゃう私。
ズルズルッ、ズルズルッ♪
ご馳走様!!
首筋から流れる美しい汗を、周りの下級種族たちに見せつけながら店を出る妖精のような二人の女子高生。私たちは今最も高値がつく時代に入ったことを自覚した。
いやー、景子美味しかったね。お腹いっぱいだけど。
でしょ、入ってよかったでしょ。ふふん。
うん。で、これもあの人の影響なの?
え…
やはりバレている。
これまた有名な話になりつつあるよね。本人たち以外は。目立つの景子が。みんなヤキモチ妬いてるよ。函館先生に。
自分でない人間から、函館先生という単語を聞くと、なんだかドキリとしてしまう。
え、なんで。
しらばっくれないでよ。同じクラスでなくたって知ってるのよ。あなたが大声であの先生を呼び止めて、それで呼び出していたこと。
函館先生はそろそろ魔王って呼ばれるかもね。ふふ。まぁ、同級生には私も惹かれないから景子の気持ちもわかるけどね。
そっか、だから進路のことなんか聞くんだね。早く大人になりたいのか?このこの。
うるさい!行くわよ。
はいはい、まぁ暖かく景子の行方を見守ってあげるよ。
そんなんじゃないから。
はーい。
(強がってると、誰かに盗られちゃうかもよ。あの人の魅力は、景子じゃなくたって、みんな気づいてるんだから。)
次郎がいつものように中野駅で乗り換えの電車を待っていると、反対側のホームに見たことのある女子高生が二人、歩いてくるのが見えた。そして同じ時次郎の電車が入ってくる。
ベストタイミング。気づかれずに済んだな。しかしなぜ中野に?この辺はうまいラーメン屋がひしめくエリアだ。それはいいが、次は久しぶりに中野で食べるのも悪くないな。
次郎は高速で流れていく列車の窓から、中野駅の人混みを見た。
この駅にも昔は良く来たな…
学生時代の青い記憶が一瞬蘇り、そして景色と同じように高速で背後に流れていった。