50の手習、サックスを吹く 第2話
体を動かすことが好きだ。
若い頃からテニス、ゴルフ、スキーとスポーツばかりやってきた。しかもどれも結構本気でやってきたのだ。私を知る人間は例外なく私のことをスポーツ野郎と思っている。そんな私が突然「サックス吹きたい」と嫁さんに言ってもにわかに信じてもらえない。さすが私の嫁さんだ。よく分かってらっしゃる。
私は「やりたい」と思っても、その衝動を一度寝かせるようにしている。これは飽きっぽい性格がゆえ、自分の本気度を探るためだ。本気度が低ければ、一度思っても「あ、やっぱやらなくて正解」と後に思うことがままあるのだ。ということで、「サックス吹きたい」という思いも一度寝かされる事になる。だが、いつしか聞く音楽もサックスメインの曲が増えていく。
サックスを始める1年前スイスに出張した。そのとき同僚のマサと高速道路を走りながら何故か音楽談義となった。マサの話はいつも面白いのだが、その日は彼が学生時代にお寺の坊さんに習っていたフラメンコギターの話になった。東京の大学に通っていたマサはギターを習うため、群馬県に住むその坊さんにわざわざ習いに通っていたのだ。学生時代の彼はプロを目指していたらしく、最近思い出したかのようにガットギターを買って再び弾き始めたそうだ。
「昔のようには弾けませんが、楽しいですよ」
と、マサが言う。で、ここからは私の話をし始めた。最近かっこいいと思う曲があり、そのサックスパートがとにかくカッコいいのだ。そうやってiPhoneに入っているその曲をかけた。
”Theme from Lupin Ⅲ 78' by 大野雄二”
大野雄二さんの名曲、”ルパン3世のテーマ”である。普通ルパンをかけたらツッコミどころ満載のはずだが、マサは何事も真面目に受け応えをする。その彼が言った。
「Jiroさんもサックス始めればいいじゃないですか?」
で、話は続いていく。
「アキヨさん知ってますよね?うちの事務所にパートで来ている女性。あの子、プロのサックス奏者なんですよ。何なら始めるにあたり色々と聞いてみたらどうですか?」
さっそくフランスの事務所に電話すると、アキヨさんが流暢なフランス語で電話口に出るが、マサからの電話と分かるとすぐに日本語になった。
「Jiroさん、サックス始めるんですか!?」
電話口のアキヨさん、何故か嬉しそうである。自分の演奏してる楽器に興味を持ってくれたことに喜んでいるのだろう。しかもアラフィフのおっさんが(笑)。そんな彼女と話をしてく中で楽器を選ぶ上で大事なことを教わった。それは「最初から高い楽器を買え」だった。理由は、安い楽器を買うと飽きてしまうことが多いこと、また高い楽器を最初から買っておけば辞めるに辞められないでしょ?ということだった。後半部分は冗談半分で言っていたと思うが、高い楽器を買えば大切に扱うし、しっかり練習するということのだろう。
というわけで、サックスを始めるのであればいきなり高価な楽器を購入し、辞めるに辞められない状況を作る、という前提条件だけは決まってしまったのである。
つづく