十五回目の結婚記念日

高瀬 甚太

 夢を見て、うなされ、夜半に起きた。ここ数日、薫子は、眠れない夜を過ごすことが多くなっていた。隣で眠る夫の晃は、そんな薫子のことなどお構いなしに熟睡している。
 四十歳が間近に迫って、身体に変調を来しているのが原因の一つかも知れない。仕事のストレスがそれに拍車をかけた――。
 「結婚記念日がもうすぐだが、今年はどうする?」
 遅く目覚めた晃が、朝食の食卓に着くなり薫子に声をかけた。
 「十五年回目の結婚記念日だ。今年は盛大にやろうや」
 ズキズキと痛む頭を抱えながら、薫子は夫の朝食の世話をする。
 「去年は失敗したなあ。金が高かったわりに不味かった」
 毎年のように結婚記念日を行ってくれる夫の心遣いに感謝していないわけではなかった。だが、晃は薫子の意見を取り上げたことは一度もない。そんな小さな不満のくすぶりが、薫子の日常を一向に楽しくさせなかった。
 「別にどちらでもいいですよ。どうせ、あなたが決めるんでしょ」
 投げやりな薫子の言葉に晃が反発した。
 「だからいつでも俺はお前に相談しているじゃないか。今年はどうするって?」
 確かに晃は形の上では薫子に相談をしている。だが、最後には薫子の希望を無視して自分の意見を通す。それなら初めから相談などしなければいいのに――。思わず愚痴が口をついて出た。
 晃を送り出した後、薫子は、片づけを済ませて仕事に出かける。毎朝のように気分が優れないのは、晃とのちょっとした諍いだけが原因ではない。薫子の中で、数年前から体内の奥底でくすぶり続けている不完全燃焼の何かがあった。その正体がわからないまま、その物体は年々肥大化しているような気がするのだ。ある友人はそれを欲求不満ではないかと言い、ある友人は心の病ではないかと言ったが、どちらにしても、数年前は感じたことのなかったものだ。それが今になって、どうして? 薫子には思い当たるものが何もなかった。

 薫子は、結婚する以前から現在の編集プロダクションに勤務していた。中堅の編集プロダクションで人員も二十人と、この業界では人数が多かったが、薫子はそこでチーフを任されている。
 編集の仕事は学生時代から好きだった。卒業する際、就職をするなら出版、編集関係と決めていた。東京への就職を考えていたこともあったが、晃と知り合い、卒業後すぐに結婚したため、東京行きを断念し、大阪の編集プロダクションに就職した。
 東京の出版社での活躍を夢見ていた薫子は、当初、大阪での編集プロダクションの仕事になかなか馴染むことができなかった。まず、第一に、編集プロダクションはすべて頼まれ仕事で、当初、思い描いていた企画の仕事がほとんどなかった。それが不満だった。また、関西の編集プロダクションでは、仕事が旅行関係と就職関係に限られる。そのことも不満だったが、しかし、それが直接のストレスというわけではなかった。ストレスを感じる最大の要因は、夫である晃の存在だった。
 
 その日、薫子は午前十一時に、取材班と打ち合わせをすることになっていた。旅行専門の出版社から依頼を受けたもので、従来の県別、地域別のガイドではなく、テーマ別にまとめる画期的なガイドブックということで、薫子は久々に燃えていた。
 取材班は全員で七名いた。そのうちカメラマンが三名でライターが四名、全員、外部の人間で、その人たちはみな期間を決めた契約制になっている。取材期間は三カ月、その間に取材を終えて、すべての原稿をまとめなければならない。そんな過酷なスケジュールの管理の責任を任されていたのが薫子だった。
 ライターは、二十代後半から三十代の女性を揃え、カメラマンは一人が二十代の女性で、他の二人はどちらも三十代の男性だった。
 全員が顔を揃えるのはこの日が初めてで、社の会議室に全員が集まった。
 薫子は、全体の大まかなスケジュールを説明し、それぞれの担当について説明した。一通り説明を終えて、打ち合わせを終わりかけたた時、一人のカメラマンがスックと立ち上がり、薫子の前に立った。
 「お久しぶりです」
 体格がよく髭を蓄えたカメラマンは、焼けた肌に白い歯を浮き立たせて、笑顔を見せた。
 薫子はカメラマンの名前を確認した。『後藤英二』となっている。
 「学生時代、一緒によく遊びましたね。後藤です」
 「あ……!」
 薫子はそこでようやく気が付き、声を上げた。
 「後藤くん」
 後藤は大きく頷き、薫子を見つめた。がっしりとした体格、顔面に散らばる無精ひげ、学生時代とは大きく異なる風貌のせいで薫子は後藤だということがすぐにはわからなかった。
 「晃は元気にしていますか?」
 「ええ、元気にしているわ。本当に久しぶりね」
 「今回はお世話になります。頑張りますのでよろしく」
 それだけ言うと、後藤は他のメンバーと共に会議室を出て行った。
 薫子が後藤と会うのは大学を卒業して以来初めてのことだ。あまりにも突然のことで、そのショックの余韻が尾を引いた。
 
 学生時代、薫子は、晃や後藤と共に行動することが多かった。三人で一緒に酒を呑み、歌を歌い、旅に出た。あの頃は本当に楽しかった。
晃と後藤の間に薫子が割り込んだ形になったが、三人は仲がよかった。その仲は永遠に続くと思われたほどだ。ギクシャクし始めたのは、卒業を前にした夏の頃からだった。
 その夏、薫子は晃に唐突にプロポーズされた。後藤が離れたのはそのすぐ後だ。晃が自分を好きなことは以前から薄々感じていたが、それは後藤も同じではなかったかと、薫子はずっと思ってきた。しかし、後藤は積極的な態度を一度も示さなかった。
 薫子は、晃への返事をためらった。自分が本当に晃を愛しているか、それとも後藤を愛しているのか、判断がつかなかった。
 薫子の心を決定づけたのは、ある事件があってからのことだ。
 晃に誘われて居酒屋へ呑みに行くことになった薫子は、久後藤も誘おうと提案し、晃が後藤を呼んだ。後藤は少しためらったが、少し遅れて居酒屋にやって来た。
 その夜、薫は久しぶりに楽しい夜を過ごし、上機嫌で二人と別れた。送って行くという晃の申し出を断り、少し酔いを醒まして帰りたいからといって、居酒屋を出た。自宅までそう遠い距離ではなかったことが薫子を油断させた。ほろ酔い気分の薫子は、近道をしようと思い立ち、普段はあまり通らない公園に足を向けた。昼間でも暗い、うっそうとした木々の茂った公園は、深夜一時という時間帯ということもあって静寂に満ちていた。公園の中ほどまで歩いたところで、薫子は突然、背後から襲われ、口をタオルのようなもので封じられた。驚いて後ろを振り返ろうとするが、万力のような力で抑え付けられ、簡単に草むらに転がされた。叫ぼうとするが、タオルで口を塞がれ、恐怖心もあって言葉が出なかった。覆いかぶさって来る男の強い体臭を嗅いだ途端に薫子は気を失った。
 薄れていく記憶の中で、薫子がかすかに覚えているのは、誰かが走って来て、暴漢を蹴り飛ばし、助けてくれたことだ。薫子を助けた男は、薫子を肩に担ぐと、家まで送り、玄関のチャイムをピンポーンと鳴らした。母親がドアを開けると、薫子がドアに寄りかかるように立っていて、「大丈夫ですか?」という晃の声を聞いたような気がした。
 うっすらとした意識の中で薫子は、自分を救ってくれたのは晃だと思い感謝した。その感謝の気持ちが晃との結婚に踏み切らせた。
 だが、後になって考えてみると、晃は背こそ高いが非力な男だ。結婚して気付いたことだが、重たいものを持つのが苦手で、そんな彼が自分を肩に担いで家まで運んだとは思えなくなった。また、暴漢を蹴り倒すほどの馬力があるとも思えず、晃に尋ねたことがあった。
 「あの時、私を助けてくれたのは晃よね」
 晃は頷いたが、その時、晃は薫子の目を見なかった。もし、晃が助けたのでなければ誰が自分を助けたのか、通りがかりの人であるはずがなかった。通りがかりの人が薫子の家を知っているはずがない。もしかしたら――、と考えたのが後藤だった。
 しかし、後藤とはそれ以来、まったくといっていいほど、接触がなくなった。卒業してさらに音信不通になった。
 十五年が過ぎて、目の前に現れた後藤を見て、薫子が動揺しないはずけはなかった。後藤がカメラをやっていることは、大学時代から知っていた。三人で遊ぶ時、カメラを構えるのは常に後藤だった――。
 スタッフの連絡先に目を通し、後藤の携帯のアドレスを控えた薫子は、多分、結婚しているだろうから、家庭に波風を立ててはいけない。そう思い、数日後、取材連絡という名目で、電話をし、後藤に会ってみようと考えた。
自宅に帰ると、すでに晃は帰っていた。出勤時間の遅い薫子は、その分、帰宅時間も遅い。居間に寝転がって、晃はテレビを観ていた。
 「お腹が空いた。何でもいいから早く作ってくれ」
 薫子は、急いで食事の支度を始めた。料理を作りながら、薫子は、後藤に会ったことを話そうか、話すまいか迷った。晃と後藤は、学生時代、あれほど仲がよかったのに、卒業してからはずっと音信不通になっていた。後藤に会ったといえば、どんな反応を示すだろうか、と思ったが、結局、薫子は晃にそのことを言わなかった。
 「相変わらず店屋物の惣菜ばかりだな。たまには手作りというのを食べたいよ」
 テーブルに並べた料理を見て、嘆くような顔をして言った晃の言葉に憤慨したからだ。
 このところ、薫子は、晃の言葉の一つひとつに不愉快な思いをすることが多くなっていた。以前なら笑ってすませたことも、最近ではそれができなくなっている。そんなものが溜まりに溜まって体の奥にそれが沈殿しているのではないか――。この頃、薫子はそう思うことがよくあった。
 その夜、薫子は久しぶりに安眠した。夢を見ることもなく、うなされることもなかった。起床した時、体が軽いことにも驚かされた。後藤に会ったことがよかったのだろうか。そんなことを思い、薫子は一人含み笑いをした。
 「結婚記念日だけどさあ、思い切って日帰りバス旅行にでも行くか」
 朝食を食べながら晃が言った。晃は今日、有休をとっていた。それでも決まった時間に起き、朝食をとる。
 「北陸の方へ行くグルメバス旅行というのがあるんだが、結構評判がいいらしい。新鮮な魚が食べ放題というのも魅力だし、バスだといちいち乗り換えをしなくて便利だしなあ」
 晃は家のことを何もしない。掃除も洗濯も炊事もすべて薫子にまかせっきりだ。休みの日も、パチンコ屋へ行くか、地方競馬に行くか、自分勝手な一日を過ごす。たまには、風呂洗いやトイレ掃除を手伝ってくれと頼むのだが、そんな時、晃は決まって薫子に、
 「家のことをするのがしんどければ、仕事を辞めればいいじゃないか。」
と言う。薫子が仕事を辞められないことを知って言うのだ。
子供ができなかったことも、薫子に責任があると、晃は言う。二度、妊娠したことがあるが、二度とも仕事中に流産した。以来、妊娠の兆候は一度もなかった。というよりも、二度目の流産以来、晃との間に一度もセックスはなかった。
 「予約を急がないといけないから、決めるぞ。北陸グルメバス旅行だ。楽しみにしておけよ」
 薫子がイエスともノーとも言わないまま、晃は一人で得心して、
 「もう少し寝るよ」
 と言い残して部屋に戻った。
 薫子が家を出る午前十時、部屋を覗くと、晃はいびきをかいて眠っていた。その寝姿を見ると、薫はいつもげんなりしてしまう。どうしてこんな人と結婚したのだろう――。そう思ってしまうのだ。
 出社してすぐに薫子は、別の企画の打ち合わせに入る。毎日が分刻みで動かなければならないほど、薫子の日常は多忙を極めた。後藤のことも仕事に追われる間にすっかり忘れた。
 夕方になって、少し間が空いた。遅い昼食を取るために近くの蕎麦屋に足を運んだ。天ぷらそばを注文し、買ったばかりの雑誌に目を通していると、グラフィックページの一枚の写真に目を取られた。
 有名作家の旅紀行だが、写真が素晴らしかった。晴れた空の下、農作業を続ける老人の表情、日向で遊ぶ幼い子供たちの生き生きとした表情、夕暮れの町の行商人の後姿――。一人ひとりの人間への思いやりが鮮やかに表現された素晴らしい写真だった。一体、だれが撮ったのだろうかと思い、撮影者を確認すると、有名作家の名前の下に、後藤の名前があった。
 写真を眺めているだけで、後藤の温かで思いやりのある心が伝わってくるような、そんな写真だった。そういえば彼は学生時代から常にそうだったと薫子は思う。晃と三人で旅をしたり食事をする時、どんな時でも彼は常に薫子や晃を前に立てて、自分は後ろに回っていた。あの頃は気付かなかったものが、今はよく見えた――。
 晃のことだ。後藤が薫子を好きだと知って、先回りして後藤に言ったに違いない。その時、たとえ後藤が薫子に好意を抱いていたとしても、後藤のことだ。身を引いただろう。あの暴漢事件の時もそうだ。心配した後藤が薫子を追いかけてきて、助けてくれたに違いない。なぜ、そのことに気が付かなかったのだろうか。後藤の性格を考えれば、簡単にそれがわかったはずなのに――。
 薫子を助けた後藤は、すぐさま戻って、晃に言ったに違いない。「薫子の家に早く行け。薫子は大変な目に遭いかけた」と。
 それを薫子は勘違いした。考えてみれば、それがすべての元凶だった。もしかしたら自分にとって、もっともふさわしい人を、その時、選び損ねたのかも知れないと薫子は改めて思った。
 蕎麦を食べ、一息ついた。このやるせない気持ちは何だろう。席を立ち、外に出ると、薫子は携帯を手に後藤のアドレスをプッシュした。

 薫子が再び後藤に会ったのは、翌日の午後だった。電話で、「会えますか?」と聞くと、後藤は「大丈夫です」と答えた。そしてこの日の時間を決めた。
 会社にやって来た後藤を案内するようにして、薫子は近くの喫茶店に入った。
 「『旅紀行』の写真、見たわ。素晴らしかった」
 「ありがとう」
 「いい写真を撮るのね。驚いたわ」
 「たまたまです」
 そう言って後藤は笑った。屈託のない後藤の笑顔が薫子には眩しかった。 三十代半ばを過ぎて、これほど爽やかな笑顔を振りまく人って、一体、どんな人生を歩んできたのだろうか。そう思い、薫子は後藤に聞いた。
 「卒業前から、何度か後藤くんに連絡をしたことがあったんだけど通じなかった。どうしていたの?」
 コーヒーを口にした後藤は、笑顔を浮かべて答えた。
 「学生時代は、薫子ちゃんたちと思う存分、青春を楽しめた。本当に楽しかったよ。でも、卒業が近づいた頃からいろいろあってね。真剣に周囲のことを考えないといけなくなった。それできみたちに不義理をしてしまった」
 「周囲のことって?」
 「ぼくの家は複雑でね。父母が別居して暮らしていたんだが、いよいよ離婚するということが決まった途端、母が病気になって入院した。一時は、母の世話をするために大学を中退しようと思ったぐらいだが、不思議なことに父が戻って来てね。母の看病をしてくれたんだ。おかげでぼくは中退をしなくて済んだ。でも、母の病気が良くなると、再び離婚話が復活して、結局、二人は離婚をした。二人がなぜ、離婚しないといけなかったのか、その時のぼくにはわからなかった。――でもね、しばらくしてそれがわかったんだ。親父には長年の愛人がいたんだ。その愛人との間に子供もいた。
 父と別れた後、母がしみじみと言ったよ。『私は夫を心から愛してきた。でも、私より夫を愛した人がいた。私は退かざるを得なくなったの』。夫婦ってそんなものじゃないだろうと、ぼくはその時、母に怒ったよ。でも、そのうち、ぼくも母の言葉を実感することになった。ぼくも心の底から人を愛したことがあった、でも、自分の友人がその人を愛していることを知り、ぼくもまた、母のように退いた」
 薫子の胸の中を熱いものが流れた、その熱いものはなかなか消えなかった。喉の奥からこぼれ出そうになる言葉を押し潰すようにして、薫子は後藤に聞いた。
 「後藤くん、どうしても聞いてみたいことがあったんだけど――」
 「……」
 「最後に三人で一緒に呑んだ日があったでしょ。あの時、私、あなた方と別れて一人で歩いて家に帰った。そして公園で暴漢に襲われた。その時、私、夫の晃が助けてくれたものだとばかり思っていた。でも、本当はそうじゃないんでしょ。本当は――」
 「ごめん。あまりにも昔のことだから忘れてしまった。でも、そんな昔のことをいつまでも考えるより、きみにはもっと大切なことがあるんじゃないか。過去はどうにもならないけれど、現在と未来は努力次第でどうにでもなる。そうだろう?」
 後藤は残ったコーヒーを一気に飲むと、ゆっくりと立ちあがり、薫子に言った。
 「長い間、独身で来たけれど、ぼくにもようやく伴侶ができたよ。来月から一緒に暮らすことになった。薫子、きみの若い頃にそっくりなんだ」

 ――家に戻ると、晃が珍しく料理を作っていた。拙い包丁さばきで玉ねぎを切っている。
 「何を作るの? 台所を汚さないでほしいわ」
 晃は、涙をポロポロこぼしながら、
 「たまには美味しいカレーでも作ってやろうと思ったが、駄目だ。後を頼む」
 とタオルで目を拭きながら言う。
 鍋の中でジャガイモがぐつぐつと音を立てて煮えたぎっている。カレー粉を混ぜて、玉ねぎを入れ、肉を入れて煮込めばどうにか食べられるだろう。そう思って玉ねぎを見ると、ひどい切り方だ。これではいけない。そう思って、急いで服を着替え、エプロンをして玉ねぎを切り直した。振り返ると、晃は寝転がってテレビを観ている。どうしようもない男だ。そう思うが、今までのような腹立ちはなかった。ずっと心の中で鬱積したものが、今はすっかり消えてしまった、そんな感じだ。
 体の奥底でくすぶり続けていた不完全燃焼の正体が、後藤に会ったことではっきりとわかった気がした。薫子は、晃に声をかけた。
 「食事の用意をするから、皿を出して」
 いつもならすぐには返事をしない晃が、この日に限って、「はいはい」と素直に立ち上がり、テーブルの上に食器を並べ始めた。
 「グルメバスツアー、予約しといたからな。仕事で行けないなんて言わないでくれよ」
 食器を並べながら晃が言った。
 「わかったわ。その代り、あなたが旅費を出してくださいね」
 「はい、はい」
 面倒臭そうな晃の返事を聞きながら、薫子は、この現実にもうしばらく真摯に向き合ってみよう、そう思った。過去よりも現在だ。そして未来の方がもっと大切だ、そう思ったからだ。
<了>


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