記録のような記憶のような[浅生鴨さんトークイベント2022.10.2札幌]
出来事を記録しておくなら早いほうが良い。後になるほど輪郭があいまいになり再構成された「記憶」に変わる。そう思いつつずいぶん時間が経ってしまった。
記録が記憶に変わり、本当にあった出来事や言葉なのか怪しい部分があるかもしれない。それを信じるも信じないもあなた次第。どうせ言葉はすべて嘘なのだ。
(進行&説明:浅生鴨さん)
・(開始前の雑談)北広島って困りますよね。以前、東久留米に用事があって、九州に行くつもりで準備したら東京だったということがあって。
・(店内を歩く人に)新刊のイベントです!、面白いですよ!、いかがですかぁ!(会場笑い)
(ここから本編)
・本書を読んでいないひとが多いと思います。読んでいる人(挙手)も結構いるけど、読んでいないものとしてすすめます。
(スライドショーでプロフィールなどを紹介)
・ある企業が広報業務を請け負える人を探していて、ある方が僕をその企業に紹介してくれたことがあります。その際に、僕(鴨氏)の経歴がいろいろ「盛られて」紹介されたことがあります。
・どの仕事も頼まれたからやってきました。今回の本もきっかけは受注されたからです。発注したダイヤモンド社の編集者今野さんも来ています。
・嘘と聞くと悪い印象を持ちますが、実は私たちはいつも嘘をついています。そのことを実際に体験してもらうために、ワークショップ形式で演習してみましょう。
(ワークショップ)
・知らない人とペアになり、これから示すお題について、互いに1分(または30秒)ずつ話をしてください。
・さて、ここまででお互いのことをわかってきたと思います。
・では質問です。ペアの相手がこの会場に何時に到着したか言えますか?
・そんな話はしていませんよね。人は話すときに出来事を圧縮してしまい、すべてを話すことはないんです。では次に話してもらうテーマです。
では、次にこちら。
・どうでしょうか。良いところと悪いところ、立場によってどちらでも言えてしまうことが体感できたのではないでしょうか。同じ出来事であっても、自分に都合の良い見方でいくらでも説明出来てしまうものです。
・では、次の演習です。次の言葉が示す絵を描いてください。
・王様を右に書いた人(挙手多数)。左に書いた人(挙手少数)。それ以外の人(今野さんひとり)、あんたかい。
・描いた絵は、人によって全く構図が違いますよね。その構図は、実は何かで見たことのある映像の影響を受けています。決して自分ひとりで考えたと言うことはなく、自分の「考え」は何かの影響を受けていて、オリジナルな思考ではないのです。
・人の悩みはたいてい人間関係と言われます。人は知らず知らず嘘をついていて、嘘でしかつながれないものです。嘘を通じてしか、わかりあうことはできないといってよいのです。
・すべては嘘なんだとわかった上でつきあうことが、人間関係を良好にするコツです。そういうことを書いた本です。
(会場から質問のコーナー) ※は私の心の呟き。
・(質問者)嘘はいけないとのイメージを持っていましたが、良い嘘もあることがわかりました。これまでのご経験で、人に喜ばれた嘘はどんなものがありますか?
(鴨)小説『伴走者』は、いろんな人に読んでもらえて、喜んでいただいた人が多かったですね。
(質問者)一番好きな嘘はなんですか?
(鴨)えっと、難しいな、そうだな、人を守るための嘘は好きです。例えば、相手が子供ならそれが嘘だと知られたら絶対ダメなんです。
・(質問者)プロフィールが気になります。油田について教えてください。
(鴨)油田は維持費が結構かかるし、申告等の手続きもえらい面倒で、たいへんなので手放しました。石油王ではないです。
・(質問者)日中の文学フリマでは儲かりましたか。何が売れたら嬉しいですか。
(鴨)○○円くらい(※先日某書店にて配信されたカート買いの額に近いかも)。売れて嬉しいのはココロギミック。1冊が無駄にぶ厚いので減らさないとカバンが重くて。(※作ったのアンタや)
・(質問者)鴨さんの紹介する本が良い本ばかりで、いつも参考に読書を楽しんでいます。良い本を選ぶコツはありますか?
(鴨)読む!(キッパリ) ひたすら読む! 買って読む! たくさん読んで良かったものだけ紹介しているのです。紹介した本の裏側には、そうでない本が屍のように累々と横たわっているのです。
・(質問者)我々はその上澄みをいただいていたのですね?
(鴨)そのとおり! ひたすら買って読むこと。 そのうち読まなくても表紙を見ただけで面白い本かどうかわかってきます。わかります! 格闘技の達人が戦わなくても勝敗がわかるように、将棋の名人が読まなくても指すべき手がわかるように。まずは買って読め。買うことが大事。
・(質問者)買います!
・(質問者)本の内容について質問があります。表紙に「浅生鴨」とありますが、本の中では「草河文世」とあります。どちらが本当の著者なのですか?
(鴨)「草河文世」というひとが書いた、という体で浅生鴨が書きました。著者は浅生鴨です。ちなみに、あとがきに「草河文世」のふりがながあります、これをさかさに読んでください。
・(質問者)えっと、ぜんぶ、が、う、、そ、、、ああっ!!!
(会場盛りあがる)
(鴨)もうひとつ、あとがきに書いた日付が載っています。それが何曜日か、後で調べてみるとおもしろいです。
・(質問者)わかりました!ありがとうございます!
(※素晴らしい質問でした!)
(拍手で終了。サイン会へ。)
参加した方の「記憶」はおそらく皆違う。これは、私の中の「真実」を差し出して、誰かと交換しようとする行為である。それが『ぼくらは嘘でつながっている。』を読んだ者の正しい姿勢なのだ。
知らんけど。
浅生鴨さん、ダイヤモンド社の今野さん、そしてなにより三省堂書店札幌店の工藤さんの上司およびスタッフの皆さんと工藤さん、素敵なイベントをありがとうございました。
※ワークショップで描いた絵、みなさんどんな様子だったのだろう。私のはこんな感じ。
最近読んだ『三体』の影響をモロに受けていて、自分のオリジナルな考えなどないことを痛感しました。え?こんなシーンありませんでしたっけ?
同じ本を読んでも、イメージする映像はそれぞれ違うんだろうな。