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嘘はいかんよ、嘘は
高校のころ、虚数という概念を聞いた。何のためにこんな概念だけの計算をしなければならないのかと疑問に思っていた。卒業してずいぶん経ってから、工学などの実用場面で、複雑な計算を虚数を使うことで楽に解けるということを知り、目からウロコだった。
虚数は英語で "imaginary number" というそう。概念的な数ということだろう。「虚」は空っぽ、むなしい、実を伴わないといった意味があるそうだ。実際には存在しない空虚な数ということか。詩的な香りがする。
空っぽの「虚」に口がつくと「嘘」である。中身が空っぽの、事実でないことを口にすると嘘になる。
「嘘」=最近の言葉ではフェイクニュースだろうか。
医療分野では心ある医師の方々の地道な情報発信が身を結びつつあり、ネットで検索したときに正しい医療情報を示すページが現れやすくなってきているらしい。それでも書籍の販売ランキング上位の多くが(真っ当な医師から見れば)インチキ医療本だったりするなど、まだまだ格闘すべき問題が多いのだとか。
僕の関わる分野の農業や食品に関しては、どうだろう。科学的に十分な根拠のない言説が多いことは変わらない気がする。冒頭の言葉はさすがに度を超えているけど、「〇〇は食べるな」のような刺激的な言説はしばしば目につく。そして、その多くは内容が似通っている。数少ない「誰かが言った」情報がコピーされ、そのまま拡散されているということだろう。そういった情報をたどると根拠が曖昧だったり、ほんのわずかな事例を都合よく解釈していることが多い。こういう情報が氾濫していることに、心底滅入る。
エセ科学もそれなりに理屈付けしてあったり、「〜という報告がある」などと学術的な権威を匂わせたりもする。困ったことに「医師」や「大学教授」が語っているからといって正しいとは限らない場合がある。研究者と一口に言っても研究分野は高度に細分化されているため、「専門家」であっても自分の専門以外は素人だったりするのである。
その気になって探せば、きちんと正しい説明をしているサイトもある。そういう取り組みには頭が下がる。きちんと「違う」ということを、根拠を持って説明するのは、たいそう骨が折れるから。
また、単にその事象だけを主張するのが目的でない場合もある。市場原理、グローバル化に反対し、尊厳ある人間らしく生きたいとする哲学、世界観。これらは嫌いではないし、共感するところはある。
が、嘘はいかん。嘘の積み重ねは信用を無くす。
「科学リテラシー」って言葉になるんでしょうか。そういうことのために発信していかなければならないのかな。しばし考え中。