アイライクChopin
アルタ・マルゲリッチだったか、マルタ・アルゲリッチだか、ナブラチロワだか、すぐにこんがらがってしまう程度の浅いクラシックファンである。
クラシックを聴くようになったひとつのきっかけは、『のだめカンタービレ』(以下『のだめ』)であった。主人公が弾くピアノ曲、モーツアルト、シューベルト、ラヴェル、バッハ、ヴェートーヴェン、そしてショパンは、『のだめ』を契機に聴き出したものが少なくない。よくある事例だろう。
この週末、NHKのショパンコンクールに関する特番を続けて見ていた。もう『のだめ』抜きでもじゅうぶんクラシックを楽しめるようになったのだと、我がことを思ったりするが、それはどうでも良い。
この世界的なコンクールは、その名が示すとおりショパンの楽曲だけで審査が行われる。桑田佳祐コンテストとか、マイケル歌謡祭とか、コピーバンドだけでコンテストをやるようなものだ。なんだかクラシックの伝統と影響の範囲に気が遠くなる。話を戻そう。
コンクールの1~3次審査はピアノのソロ演奏で、決勝はオーケストラと一緒に演奏する「協奏曲」形式である。ショパンの協奏曲は1番と2番しかなく、コンクールでは圧倒的に1番を選択する出場者が多いようだ。この曲は華やかで、若々しい。若者(出場資格は30以下)のコンクールのフィナーレとして実にふさわしい。ショパンに詳しい人は2番の方が良いとおっしゃる方も多いようだが、私は1番の仰々しさや「若気の至り」感も含めて大好きだ。
この曲を初めて知ったのもやはり『のだめ』である。物語の最終盤で、無名のピアニスト(主人公)が、大物指揮者に引き立てられてステージに立つ。そのときの演目が協奏曲第1番である。ここに至る展開とその後のストーリーがまたすごいのであるが、ここでは触れない。とても重要な曲である。
『のだめ』を入り口に、クラシック曲をよく聴くようになった。知識のない私は「レコード藝術」誌の推薦盤から入っていたが、同じ曲でも演者によってこんなに違うのかと驚かされたものだ。
ショパンのピアノ協奏曲第1番は、名ピアニストが多くの録音を残している。なかでも有名なのは、アルタ・マルゲリッチだろう。名前はこれで間違いないはずだ。
演奏がとにかく華やかで、軽やかで、力強くて、なんたって早くて、こころ躍るすごい演奏だ。本当にすごいとすごいしか言えなくなるのはお許し願いたい。『のだめ』のモデルのひとつでもあるんじゃないだろうかと、妄想している。
ほかに、私の愛聴盤としては、ポリーニ、ツィメルマンがあり、どれも好きだ。
そんな、数あるショパン協奏曲1番の中で、飛び抜けて異質で、洒落ていて、面白いのがサンソン・フランソワである。
なんというか、いろいろと自由で、オケの演奏と合っていないようで、ちゃんと辻褄があうのが不思議でならない。たぶん、コンクールでやっちゃダメなヤツなんじゃないだろうか。でもなんか、すごく、いいのだ。
同じフランソワによる演奏については、『のだめ』作者がラヴェルの『ピアノ協奏曲』を聴いていると、語っている。
ビビッときた。フランソワのショパンも、知らないはずはないだろう。
書きながら、ショパンを聴いている。
ショパンの名を知ったのはおそらく小学校の音楽室だった。ショパンのスペルは、ガゼボの「I like Chopin」で知った。驚いた。もしアルファベットの情報が先だったら「アイ ライク チョピン」と言ってしまっていただろう。どうでも良いですか。そうですか。