アイツは雪をしらない
始業して間もない時間帯、付近の道路で乗用車が路外に落ちた。
幹線から外れた、路肩の目印となる標識が少ない田舎道である。朝から絶え間なく雪が降っており、視界は悪く、たまった雪で道幅は狭くなっていた。
幸い、運転手にけがはなく、車にも破損はみられないようだったが、自力で道路に戻せる状態ではなかった。途方に暮れていた運転手に声をかけ、レッカー車が来るまでの間、事務所で休んでもらった。
運転手は地元の方ではなく、札幌近郊から北部の街まで移動するところだったという。高速道路が通行止めとなり、はじめてこの道を通ったとのこと。
幹線から外れたこんな道をなぜ?と尋ねると、グーグルマップの指示に従ったそうだ。
グーグルマップめ。アイツならやりかねん。
アイツは、時間や距離が最短となるルートを抽出してくる。しかし、経験のある方も多いと思うが、彼の「おすすめ」は決して走りやすい道ばかりではない。「え?ここを進むの?」とビックリするような道を示す場合が少なくないのだ。
視界の悪い雪の日に移動するなら、多少時間がかかっても、信号機が多くても、幹線道路が安全だ。郊外と比べて圧倒的に除雪の頻度が高く、街灯や路肩標識も充実している。
しかし、アイツはそんな気遣いをしない。
アイツは、雪を、冬道を知らないのだ。
それから1~2時間の間に、さらに数台が似たような場所で動かなくなっていた。おそらく近所の車ではない。
雪を知らないアイツが、安易に誘導してしまったのだろうか。
雪が積もってから路外逸脱をしばしば見かける。過去にもここで勤務していた(20数年前)が、当時はこれほど頻繁ではなかった気がする。
すべてがアイツの仕業かどうかは知らないけど、雪を知らない人が作ったシステムを、信用しきってはいけないのかもしれない。
そ、それとも、まさか、あえて誘い込んでいる意思があるのだとしたら。雪女がシステムに潜んでいるとしたら。