切手ブームの象徴だった、あの美人のこと
“『過去』『見返り』『増えるツンデレ』という3つのお題を使って、ひとつの作品を作り上げてください。”
note記事でこんな募集要項(#第3回心灯杯)をお見かけした。
「見返り」で真っ先に連想したのは「見返り美人」。江戸時代の絵師、菱川師宣の作である。
私がこの絵を知ったのは切手だった。物心ついたかどうかという頃、年上の従兄弟の影響で切手を集めだした。過去の話で恐縮である。
切手雑誌なのかカタログなのか忘れたが、当時すでにプレミア切手として「見返り美人」が載っていたのを、なぜかよく憶えている。あと「月に雁」も。
幼い私にはその時の状況や価値がよくわかっていなかったのだが、どうもその頃、空前の切手ブームだったようだ。確かに、いろんなシリーズの切手がセットで通販されていたのを憶えている。
さて、「見返り美人」である。
当時からうすうす思っていたが、、、、美人って何だろう。
井上章一の『美人論』を読んでも、美人の定義はひとつも出てこなかった。
明治の頃は美人薄命、病弱こそが美人のイメージだったらしい。そういえば夏目漱石の『それから』や『門』のヒロインは病弱だ。まさに美人を想起させる設定なのだろう。
そもそも、男性が女性に惚れている自覚をするのはどんなときか。漱石は、三角関係がそのひとつの契機であることをはじめて描いてみせた、というようなことが新潮文庫の柄谷公人氏の解説に書いてあった。身に覚えがある。
他には、容易に手に入れられない場合というのもあるだろう。いくら誘っても冷たくあしらわれる。そんなところに惹かれる男性も多いのではないか。冷たいだけなら愛想も尽きるが、時折みせる優しい笑顔に参ってしまう。ツンデレという言葉が当てはまるだろうか。これも身に覚えがある。
「見返り美人」はどうか。こんなポーズがとれるなんて病弱そうには見えないし、三角関係が連想される構図ではない。しかし横顔しか見えないとはどういうことか。もしかしたら、後ろにチラッと視線を移しただけでコチラを軽くあしらっているのではないだろうか。
そう考えだすと、もう「ツンデレ」にしか見えなくなってきた。「ツン」だけかもしれないが、それだけであれば「美人」とは名付けないだろう。
「見返り美人」切手は、ブームが起る前の1948年に発行されている。調べてみたが、切手週間の記念切手第1号で、しかも日本の切手では最大サイズとのこと。マニアに人気が出るのは当然だ。
5円切手として発行。希少価値が高く、未使用の5枚綴りシートであれば、10万円もの額が期待できるらしい。25円が後に10万円ですか。
いやはやすごいなと思ったら、「見返り美人」ってどうもこれだけではないようだ。
1991年の切手週間に復刻版が発行されている。
おお!カラーになっているw
プレミア感は低下したけど往年のファンには嬉しいニュースだったろう。
そして、1996年に再復刻、、、、え?!
やたら増殖しとるやんけ! 「月に雁」までつけちゃって、、、。
増殖するツンデレだ。
「見返り美人」とは言いながら、本当に美人かどうかは、誰も知らない知られちゃいけない。
なお、ある程度年齢を重ねてくると、きっかけが劇的だからといって上手くいくものではないことがわかってくる。出会い方よりも、その後長く一緒にいられるかが大事だ。
そう、美人は主観だ。連れ添ったひとが結果的に心身ともに美人なのだ。身に覚えがある、ト、イウコトニ、シテ、オイテ、ホシイ。
※三題噺だなんて落語好きにはたまらない。落語になってはいませんが。面白そうなので、こちらに乗っかってみました。
※募集主・さや香さま、はじめまして。有料設定ルールに恥じらいがあるので、エキシビジョン扱いでお願いします。勝手をお許しくださいませ。