デ・キリコは新ネタ作りまくっていた

デ・キリコ展に行ってきた。
めちゃくちゃ面白かった。びっくりした。くらった。かなりくらったといっても過言ではない。

カッコつけていうなら、私はデ・キリコと出会えた。
美術館に行くロケ番組とかで「私はゴッホと出会えた気がするのです…」とかいってる人を見て「こいつはなにを訳のわかんないことを言ってるんだ」と思ってたけど、今ならわかる、俺は今日デ・キリコと出会った。彼は上野にいた。

デ・キリコと飲みにいきたい。
一軒目酒場くらいなら奢る。全然メガハイボールとか頼んでいい。ジムビームじゃなくて角を頼んでも許す。神田旨カツを食べさせてあげたい。

というくらいの熱量があるので、せっかくなので今日行ってきたデ・キリコ展について書きたい。なんか久しぶりにちゃんと美術館を楽しんだ気がする。

一応、最初に書いておきますが、自分はそもそも美術の知識もないし、デ・キリコについても全く知りません。女の人だと思ってたら男でした。そのレベルです。
なのでこのあと書くことについては、実際の事柄とだいぶ違う部分があるかもしれません。勝手に自分が思ったこと書いてるだけですので、そう思って読んでください。

デ・キリコ展。

特に興味があったわけでもないんだけど、なんとなくインパクトのある絵がポスターになってたので気になってはいた。
今日は朝から何にも予定がなくて、ネタでも考えるか積んである本を読むか、ライブでも見に行こうかなと思ってた。
そんでたまたま調べてた時に、デ・キリコ展というやつがもうすぐ終わることを知って「終わるんなら見にいくか」と思って、開催されている東京都美術館に向かった。
こうやって電車に乗って美術館に行くと、なにもない1日が、「美術に触れた一日」みたいになって素敵な感じがするので良い。

「なんかいいネタ思いつかないかな」とか「当日券で入れなかったらサウナでも寄って帰ろう」とか、ぼーっと考えながら向かったのでなんの前情報も調べないまま東京都美術館についてしまった。
知ってるのはポスターの絵一枚のみ。でも「変な絵」ではあるので好みだった。
こういう世界観がある絵を描いてる人なら、見てて面白いから良い。知識がないので余計にそう思ってしまう。

当日券を買えたので入る。結構混んでた。
初期の作品から順番に展示されていた。「どういう人なのか」と書かれた文章を一緒に読んでいく。

まず最初は自画像がたくさん並んでいた。初期は自画像から始まる。
ブルーピリオドかなんかで見たけど(間違ってたらすいません)、美術で最初は自画像を練習するみたいなのを聞いたことがある。
そういえば、中学校の時も自画像を書かされた記憶がある。

つまりここのゾーンはなんとなく芸人でいうところの「養成所」みたいな感じなのかと思った。
なにを作ればいいかわからないなら、とにかく基本を頑張る。その中で良いものを作っていく。
とにかく初期のデ・キリコは自画像をいっぱい描いてた。
上手かったけど、面白くはなかった。

でもここからポスターに描かれていた「変な絵」を描くようになると思うと興味深い。
デ・キリコは当時どう思ってたんだ。「自画像、別に面白くはないな。でも他が思いつかん」とか思ってたのだろうか。
そう思ってたんだったら気が合う。
「面白いとは思わないけど、これをやった方がいいとされてるからやっとく」という時期は自分にもあった。そういう時こそちゃんと基本をできる方がいい、とされている。
それすら「うざいなあ」と思うけど反論する説得力を持ってないからできることを頑張るしかない。
って思ってませんでした??
デ・キリコさん!どうですか!??

そんなこんなで上手いけど特に面白くはない自画像コーナーを抜ける。
そして次のコーナーでデ・キリコは爆発した。
それがメインともいえる「形而上絵画」のコーナーである。

告知ポスターにあった「変な絵」に近い絵を書き始めるのだ。
どうしてこういう絵を描き始めたかという文章があった。小難しいことが描いてあったけど、要約すると「景色の見え方が急に変わって、すごい感覚になった」らしい。つまり急に覚醒したってことらしい。
「これだ!」っていうのを思いついたっぽい。

自画像を淡々と描いてた頃と一気に画風が変わった。ベタっと塗った感じで、構図も普通とはちょっと違っている。

そしてまるで勝ちパターンを見つけたように、そこから同じような絵が何枚も何枚も続いていく。最初に塔の絵があったんだけど、全く同じような塔の絵をもう一回描いていた。かなりテンションが上がっているのが見て取れる。
「これはマジできた!」ってデ・キリコが言ってるのが絵から聞こえる。周りの後輩も「デ・キリコさん、絶対いけますよ!」って言ってると思う

オードリーさんがズレ漫才を思いついた時のエピソードを思い出した。若林さんが「売れちゃう!」と思った、っていうのを聞いたことがある。
デ・キリコの形而上絵画からはそれが伝わってくる気がした。

しかも「形而上絵画」というのはデ・キリコ本人が名付けたらしい。
恥ずかしげもなく自分で言っちゃう。テンション上がりすぎ。
かわいいなデ・キリコ。

そしてこの形而上絵画がどんどん変な絵になっていく。最初は外の景色っぽかったのが、だんだんめちゃくちゃな配置になってくる。
ノリに乗ってるのがすごくわかる。「俺はこれでいくんや!」という声が聞こえる。
見た感じでいうと、どんどんシュールな絵になっている。

こっちも「見たかったのはこれこれ!」という気持ちになっている。
この時期のデ・キリコの単独ライブはめちゃくちゃ面白いと思う。KOCも決勝にいくと思う。

そして「マヌカン」というものをモチーフに描き始めた。
マヌカンとはマネキンのことらしいんだけど、一言でいうと、どんどん奇妙な絵を描き始める。
例えば「自動人形」とか「預言者」とか、最高に尖った絵ばかり。

そしてついにここでポスターの絵が登場する。
ここであのネタ(絵)が来たか!という気持ちになる。
「形而上的なミューズたち」という、まあタイトルはよくわかんないんだけど、それでも代表作といえるものを作ったんだと思う。素晴らしい。
さあ、ここからデ・キリコはどうなるのか、ということで次のコーナーが始まる。

ここで次のコーナーが始まると様子が変わってくる。
また画風が変わるのだ。

素人なりに思ったのは、だんだん絵が「きれい」になっていく感じがした。
今まで「べターン!べターン!」とセンスで塗っていた色が、「ささささー」みたいな。ふわ~っとしたような。
なんか上手になっている感じがする。

文章を読んでみると、この辺りでデ・キリコは色々な古い技法を勉強し取り入れ始めたらしい。「古典絵画を学び始めた」と書いてあった。

つまり、バチバチにセンスでやっていたところから「昔のものはやっぱりすごい」と思い直し、また学び直して頑張っているのだ。
なんて謙虚なんだ。これは先輩にも好かれる。

単独ライブで客埋めまくってKOCも決勝行ったのに「やっぱ自分は舞台を学び直します」といって漫才協会に入るみたいなものだ。わかんないけど。

後輩が
「センス系のコント作んないんすか?」
と言っても、デ・キリコは
「いや、俺まだ足りないものがあると思うんだよね。古典の凄さに気づいたっていうか。そういうのもちゃんとやりたいと思って」
って話すのだ。ライブ終わりの鳥貴族で。

そこから今までの「変な絵」から古典っぽい感じの上手っぽい絵になっていった。

でも正直、俺は思った。
「面白くないな…」と。

せっかく期待してた変な絵をバチバチに書いてたのに、どんどん普通になってく気がして、「そんな感じかー」って思っていた。
でも展示は続いていく。このままデ・キリコはどうなっていくんだろう。
そう思って歩いているとフロアの突き当たりに、デ・キリコの年表が張り出されているのが目に入った。
そこに衝撃の文が書いてあった。

「この時代、デ・キリコは酷評されていた」

そうなんだ…。
詳しくは忘れちゃったけど、シュルレアリストと呼ばれる人たちから酷評され始めたらしい。
しかもそのシュルレアリストというのは、形而上絵画をやってた時に「すげえ!」っていってくれてた人たちなのだ。

シュールなネタが好きだったのに急に古めかしいネタを始めてしまった。
それはデ・キリコ的にはいろんな想いがあって始めたことなのに、今まで褒めてくれた人たちから手のひらを返されてしまった。

俺も思ってた。デ・キリコが古典っぽい絵を描き始めたコーナーあたりから「ふ~ん」と飛ばしながら見るようになっていた。
でも当時も実際に酷評されていたとは思わなかった。だって普通に上手かったから、それなりに評価されてるもんだと思ってた。

もちろん評価してくれた人もいたかもしれない。
でも、あの時鳥貴族で飲んだ後輩たちはどうだったんだろう、あの時デ・キリコ単独ライブに来てたファンはどうだったんだろう。
その人たちが離れていくのは本当に辛い。
自分も「昔ライブ来てくれてた人、元気かな」なんて思ってしまうときがある。

デ・キリコはどんな気持ちだったんだろう。
やばい。ここら辺からデ・キリコの行く末が気になって仕方ない。

そして、この展示会は「この後どうなるんだ…!」のタイミングでエスカレーターに乗るのだ。
楽しませてくれるじゃねえか。
ドキドキしながらエスカレーターに乗った。
次のフロアでデ・キリコの出す答えが見れる、そう思いながら上昇していく。

そして次のフロアにデ・キリコの答えがあった。

「もっと古典っぽくなっていた」のだ。

か、かっけええ!!!!って思ってしまった。
カッコ良すぎる。

酷評なんて関係なかった。
文章を読んだら「より伝統的な技法を取り入れていき研究していった」というようなことが書かれていた。「シュルレアリストと険悪な関係になっていき、前衛的な芸術に厳しい態度をとっていた」みたいなことも書かれていた。

要するに「うるせえ!」である。
今までシュールの最先端みたいなことをやってきて。それが古典的になって色々言われて。
でもデ・キリコは関係なかった。「こっちはやりたいことやってんだ!」と言ってた。甘く見てた。それだけの絵をデ・キリコは描き続けてきたし、自分の変化を楽しんでいるのだ。

この時には絵とかどうでも良くなってた。デ・キリコのかっこよさ展だ。姿勢がすごい。
ここら辺からちょっと泣きそうになっていた。
勝手に「変化と酷評」みたいなストーリーを妄想してしまっていたので、そんなものを軽々超えてきた彼に感動していた。

そして、ついに晩年を迎える。
デ・キリコの最後の作品コーナーへ向かった。
そこですごいものを見た。感情が爆発した。

デ・キリコは晩年にもう一度
「形而上絵画」を描き始めたのだ。

デ・キリコさん!!!!!!!
あんたカッコ良すぎる!!!!!!

あの覚醒した若かりし頃、テンション上がりまくって描きまくっていた形而上絵画。
それをもう一度書き始めたのだ。
今までやってきた技法を取り入れながら。

そこには「新形而上絵画」と書かれていた。

超えたのだ。
あの自分が描いた形而上絵画を、いろんな道を歩んで、古典をたくさん吸収して、最後に超えてきたのだ。
形而上絵画の先をまた歩いているのだ。

これは…
「シン・エヴァンゲリオン」じゃねえか!!!
もう一度あの大ヒット作を作り直して超えたのだ。
デ・キリコは庵野秀明だった。シン形而上絵画を作ったのだ。

最後のコーナーに「オデュッセウスの帰還」という絵があった。
あの頃のような「変な絵」でありながら、古典技法を取り入れた頃に描いていた椅子。そして塗り方。
そして絵の中の壁に飾ってあるのが、形而上絵画の初期に描いていた絵なのである。熱すぎる。

ポストカード買っちゃった


意味はわからない。
でも「帰還」ということは「戻ってきたぜ!」ということなのだろう。
部屋の中の池で1人ボートに乗っている。
わからん。わからんけどこれがデ・キリコなのだ。

面白くない自画像から始まって、大ヒット作の形而上絵画。そこから古典技法を勉強し始めて、酷評されながらも「うるせえ!」といって描き続ける。
そして最後にもう一度、新形而上絵画として大ヒット作を描き直した。
そして人生を終えていった。

最後まで、新ネタを、勝負ネタを書き続けていた。
勝手に芸人として見ちゃってたけど、多分そんな感じなんだと思ってる。

デ・キリコは何度も同じモチーフを使ったり描き直したりするらしい。
なんかそこも芸人っぽい。他でウケたくだりをネタに入れ直したり、昔のネタをブラッシュアップしてみたり。

もし今、デ・キリコさんにネタの相談をするとしたらなんて言ってくれるだろう。
「知らんけど、やりたいことやれよ」とかいうタイプな気もする。そんくらいのパワーを感じた。

飲みに行きたいと思った画家は初めてだ。
その時は正直に「古典っぽいの描いてる時つまんないと思ってました。すいません!」と言いたい。

ポストカードを買ったから許してください。
あと一軒目酒場は塩焼きそばも美味いですよ。

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