【書評】男の価値観に抗い自分の道を探す…「男の子になりたかった女の子になりたかった女の子」
編集部 矢板進
「男か女か」という区別は、元来から存在するものではなく、相対的なもので、「男」という言葉があるために、「男」とは違うものとして「女」という概念があり、「女」とは異なるものとして「男」という概念がある。現代社会がそれを区別する必要性がなければ、その区別はなくなる。
それは現実的には難しい話で、「そのような社会をつくろう」とか言うと、途方もない話になりそうだ。なので、少なくとも自分のいる周辺、それさえも困難ならば自分だけでも、そのような意識を忘れずに片隅にでも持っておきたい、と考えていたことがあった。
表題作「男の子になりたかった女の子になりたかった女の子」は、《男の子になりたかった女の子》ではない。男の子になりたかった女の子について「今いる場所に居心地の悪さを覚えている女の子、自分が永遠の『部外者』であることを直感している女の子」と定義している。さまざまな映画や文化に触れ、男の価値観にまみれた社会をしっかり見つめること。そしてそのなかから、女の価値観によるものに出会う。女たちの作品が、女たちが、つながっていく。そんな社会の変化をしっかりと見ろ、と自分に言う。そして男・女という狭間のなかで、自分でつくり上げてきた自分だけの目を信じろ、と。
この本は、11編の短編小説集になっている。さまざまな立場、シチュエーションの女性の実感のようなものが描かれていて、とても興味深い。なかには「斧語り」という小説もあって、これは「男らしさ」というものがテーマになっているようだ。女らしさ、あるいは社会がもつ女らしさの強要というのも、この小説集の大きなテーマになっている。
「男の子になりたかった女の子になりたかった女の子」
松田青子・著/中央公論新社/四六判・232㌻/初版・2021年4月/定価・1650円(税込)
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