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ヤンバルの森に残された    米軍事廃棄物を除去せよ チョウ類研究者 宮城秋乃さんの闘い

 日本政府、米軍が廃棄物除去を行わないことに抗議して、北部訓練場跡地から出た廃棄物を北部訓練場メインゲート前のイエローライン(基地と基地の外の境界線)内に置いたことは犯罪なのか? 今年6月、宮城秋乃さん(42)は威力業務妨害、廃棄物処理法違反、道交法違反の容疑で家宅捜索を受け、パソコンや携帯などを押収された。8月3日には同容疑で厳重処分の意見付きで書類送検された。その日から4日間にわたり取り調べが続いた。米軍が残した廃棄物の除去を要求する闘いに毅然と取り組む宮城さんの今の思いを取材した。                        (聞き手 編集部・河住)

 宮城さんは、沖縄の浜比嘉島出身。子どもの頃から昆虫が大好きで、ヤンバルの森で過ごすことが多かった。2007年ごろ、蝶の研究者に出会い、在野の蝶研究の道へ。2017年12月、フィールドワークの際、北部訓練場跡地で軍事廃棄物を発見し、2020年10月から米軍への返還運動を始める。2020年、権力と闘い人権擁護活動を行う人々に贈られる「第32回多田謠子反権力人権賞」を受賞した。
 宮城さんが主に活動するヤンバルの森は、2016年に返還された北部訓練場跡地を含む広大な場所だ。森にはヤンバルクイナやヤンバルテナガコガネなど世界でここにしか生息しない希少な動物や植物が生息し、今年7月には世界自然遺産にも登録された。跡地利用特措法(2012年施行)に規定されている返還前に「支障除去(廃棄物や汚染土壌などの除去)する」という日本政府の義務は、ほとんど守られていない。宮城さんが森を歩くと、今でも不発弾や野戦食の袋などがたくさん見つかるという。
 中でも危険なのはPCB(変圧器などに使用されていた工業用油)、BHC類やDDT類(どちらも殺虫剤に含まれる)、放射性同位元素コバルト60を含んだ電子部品なども見つかっている。BHC類、DDT類は現在国内での製造や輸入が禁止されている有毒物質で、生物体内に蓄積しやすい発ガン性物質だ。化学汚染や不発弾による事故などで、これら有害物質が森の生物や沖縄住民の健康被害を引き起こす可能性がある。
 米軍が出したゴミをなぜ自分たちで片付けないのか?―そんな思いから宮城さんは、今年4月7日、拾い集めた軍事廃棄物をゴミ袋から出して米軍基地ゲート前に置いた。それにより軍関係者の車両数台が基地内に約1時間半入れなかったことが、威力業務妨害だと言われた。また、4月4日にゲート前に米軍廃棄物の入ったゴミ袋3つを置いたことが廃棄物処理法違反とされ、3月7日に米軍車両の前に立ちはだかりゴミを持ち帰るよう訴えた行為は、道路交通法違反とされた。

 北部訓練場の返還に際し、日本政府が「支障除去」にかけた期間はたった1年。危険な廃棄物がまだ残っているとして、2019年8月、国会議員数名とともに宮城さんは環境省、防衛省、外務省に対して政府交渉を行った。だが、同省は「すでに『支障除去』は終わっている」として取り合わなかった。西普天間住宅地の返還時には、2015年から3年かけて除去作業を行ったのに、なぜ北部は1年でできたのか。
 西普天間住宅地は約51へクタールの市街地にあり、米軍の住宅として使用されてきた。これに対して北部訓練場は約4000ヘクタールあり、森林地帯だ。1年で「支障除去」ができるとは思えない。世界自然遺産の登録のために期間を縮めたのではないかと宮城さんは推測する。
 世界遺産登録された場所には、ユネスコから保全費用や修復費用などが政府に支払われる。登録には専門家の意見書や申請に伴い、希少性や必然性を証明する論文の提出など手間と費用がかかる。実質的には富裕国が世界遺産登録を増やすことで、多くの補助金をもらうという仕組みができあがっている。日本政府が世界遺産登録を急いだ理由には利権が見え隠れするように、私には思われる。
「これまで政府交渉で合法的に訴えても聞いてもらえなかった。実力行使で訴えれば法的に罰せられる。ヤンバルの森の環境を破壊した米軍やそれを隠蔽しようとした日本政府の責任は重い。それなのになぜ、私だけが罪に問われるのか?」―宮城さんは今後、のぞみ法律事務所の金高望弁護士と相談の上、闘っていく予定だ。
 米軍の残留物による自然環境への影響は未知数だ。沖縄の自然を愛し、ヤンバルの森を見つめてきた宮城さんには、郷土の森を壊されることは堪えられないことだろう。宮城さんへの取材を通して、その純粋な思いと森の生き物への愛が伝わってきた。

 

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