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【シリーズ 維新の会が壊した大阪の人権教育②】貧困層の子どもたちに寄り添う本当の教師に

編集部 河住 和美

 大阪狭山市在住の小芝英俊さん(66)は、41年間大阪市の小学校教員を務めてきた。昨年春に定年退職後、頼まれて再任用で働く。2000年から8年教えた市立М小学校は、市内の最貧困地区にある。
 М小の着任時に関わったJ君は軽い障害があり、4年生で支援学級に在籍していた。母に捨てられ、居酒屋を経営する祖母に育てられた。粗暴でも愛嬌があり、夜は徘徊してたびたび警察に保護された。
 先生たちは何かと彼を気遣い、担任ではない小芝さんもよくキャッチボールをして遊んだ。「学校の中だけでも、愛されていると感じてほしかった」。しかし翌年5月の土曜日、彼は清掃業者の男性に誘われてゴミ収集に行き、清掃車の後ろから飛び降りたところを、誤ってバックした車に轢かれて亡くなった。
 彼の祖母はその後店をたたみ、行方はわからない。他の親族や母親を探しても見つからない。しかし小芝さんは、彼のことを忘れた日は1日もなかった。

ーー会社立ち上げたW君 早逝したS君


 W君は5、6年と受け持った。6年で父を亡くし、中学1年で母が自殺。その後は元同級生R君の母が、スナックを経営しながらふたりを育てた。高校卒業後から消息がわからず、再会した時は20代後半。カラオケの会社に勤務していた。
 その後不動産会社に転職したW君は、その経験を基に叔父と共同で今年6月、不動産会社を立ち上げた。貧しさと戦ってきた彼を知る小芝さんは、「あの子が会社を作るなんてねえ」と目を細めた。
 М小以来、W君の親友だったS君は、子ども時代から心臓病を患い、3年前に亡くなった。小芝さんもW君も、毎年S君の墓参りを欠かさない。S君の母(58)は、W君が自分の長男を「S君の生まれ変わりだと思う」と言ってくれたと明かし、今に至るまでふたりの友情を育んでくれた小芝さんには「感謝しかありません」と涙ぐんだ。
 昨年、W君ら卒業生がミニ同窓会「Мファミリー」を立ち上げた。小芝さんと教え子数人がときどき地域の店に集まり、盛り上がる。今はコロナ禍で休止中だが、ラインで連絡を取りあっている。
 小芝さんは早くに父親を亡くし、つらい思いをした。貧困や差別を生み出す社会を変えたいと学生時代から社会運動に取り組み、教師となった。「子どもたちとの関わりは、卒業後もずっと続くんです」。取材した日も「教え子がSOSを出してきたので」と、1時間で切り上げた。親に虐待されて育った女性の不安定な心と暮らしを、ずっと支えてきた。
 来春には再任用教員を辞める予定だ。「それからが本当の教師です」。雑務に追われて思うに任せなかった「教え子の家を訪ね歩くこと」に専念する。すぐにでも会いたい何人かの顔が浮かぶのだろう。その目は輝いていた。
 大阪市は8年前、М小校区を含む西成区に経済特区構想を立ち上げ、今年度も9億円もの予算を投入して、外国人向けホテルを誘致。
 一方で、同区の不登校児支援を行う「子ども生活学びサポート」事業には、わずか6600万円しか充てていない。各校1人のサポーター配置でできることは、どれだけあるのか。小芝先生のようなサポーターが熱意をもって子どもに寄り添ってほしいと思う。


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