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小峰ひずみ『悪口論 脅しと嘲笑に対抗する技術』書評ー生き様問う活動家の言葉

編集部 朴 偕泰

小峰ひずみ著/百万年書房/8月22日発売/248P/2400円+税  https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910053493

社会運動に行き詰まりを感じていた。新聞を作りながら、単発的な行動を企画し、どこか一箇所に現場を定めることもできず、全ての不条理を変えたいと駆け回っていた。息切れを感じて、自分のやりたいことを見つめ直すために今は旅に出ている。そんな時にこの本が出た。
 本書は運動家が書いた運動家のための本だ。対象年齢は、全世代である。私たち運動家はどこまで政治が変わっても、「これで自分の仕事は終わりだ」と満足することはないだろう。だから運動家であれば何歳でもこの本の言葉に胸が苦しくなり、励まされると思う。

笑い話で経験伝える

本書は著者の運動体験を中心に展開されている。大学内のバー運営や哲学対話の実践で対話の重要さを学び、大阪・釜ヶ崎の野宿者闘争に参加して怒るべき時に怒る必要性を感じ、組合運動で原則を言い続ける意味を知る。そして現在行なっている地元市議のボランティアと地域運動と続いていく。
 転んでは起き上がり、またつまずく著者の姿は、読む人にはどこかおかしく映るところもあるだろう。それこそが著者の狙いだ。活動家にとって、最良の学びとは失敗だ。
 本書の後半では、運動の体験談が常に武勇伝となっていることを批判する。なぜなら、武勇伝には「感情」が抜け落ちているからだ。過去の運動の話は私たちにとって、常に学びとなる。だがこの人だから、この国だから、この時代だからできた運動だと思わせるのであれば、私たちの行動になにも影響は生まれない。自分と同じ悩みや失敗を繰り返してきたところを見て、同じ人間だと思えなければならない。だから警察に囲まれる恐怖や、人を裏切り失望させたことも書くべきなのだ。

生き恥をかいて生きる

本書から2つの論点を抜き出す。一つ目は「恐怖と安堵」だ。学校内のクラブ活動に始まり、就職、結婚。私たちは常に将来の不安を人質に取られ、支配者に脅され隷属させられる。それを乗り越える手段として希望を求めてはいけないと著者は言う。必要なのは勇気だ。仲間と共に恐怖に耐える勇気。デモや集会はその「宣言」だ、と。
 今の若年層の脳内は、新自由主義に呑み込まれつつある。「負け組」となることを恐れ、なにも生み出していない投資家の言葉に熱心に耳を傾けて、体制が用意した世代間対立に踊らされる。これが自立した大人な訳がない。
 荒野で孤独に怯えている自分の弱さを直視し、それでも見せかけの理想郷へ逃げこむのではなく、立ったままですぐそこにある手を握る。力のこもった拳に力を感じて、握り返す。抗うとは、こういう行為の繰り返しを言う。
 二つ目は、「生き恥」だ。
本気で世の中を変えようと思い、それでも行き詰まりを感じた時、最後に行きつくのはテロや自決だろう。1人(だけ)の生涯でやれることを考えた時に、結局それが一番手っ取り早かったりもする。しかしほとんどの人は安重根や山上徹也にはなれない。いや、なることは容易なのだが、生への執着がそれを許さない。
 そこで自決やテロをできなかった「臆病者」という恥をかきながら生き続けることになる。活動家が生きる以上、「生きること」を恥じなければならない。時に資本主義に誘惑され、掲げた理想へ近づいては離れる生活をすることに、屈辱を感じなければならない。自己矛盾から目を背けず、それでもどこまでの熱量で怒り続けられるか、生を燃やし続けられるか。だから私たち活動家の生き様は、何よりも輝かしい。

勇気に応える

この本に書かれた言葉は、すべてが諸刃の剣となって著者にも突きつけられる。成功者になろうとしていないか、言葉だけになっていないか、死ぬ気でやっているのか。そうやって自分の首を絞めることになる。しかし著者は退路を断った。飼い主の手さえ噛み付く言葉を、野に放した。
 そんな著者の勇気に応えたい。私も自分の言葉で社会の堰を切り、時には自分が切られながらも生きていきたい。それ以外のものは見えてこない。自分に嘘のない生き方だから。与えられた「安堵」ではなく、掴み取った「安心」を噛み締めたい。さぁ、あなたはどうするのか。

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