岩盤浴のファラオ
人生で2回目?と思われる岩盤浴に行った。疑問符が付いているのは今回行ってみて似たようなところに来たことがあるぞ、ということを思ったからだった。今回岩盤浴に行ったのは古い友人二人。年に一度か二度会う頻度ではあるがそれを長いこと続けている。まだ若い頃、肉体に自由に鞭が打てた当時は遊園地に行ったり、肉フェスに行ったりしていた。しかし時の流れは残酷なもので体力ゲージを気にしながらその後の行動をするようになってしまった3人は少し背伸びした回らない寿司を昼食とした後、早々に岩盤浴へ行くことにした。私は岩盤浴には興味が無かったが二人は人並みに好きらしい。先に温泉で汗を流した後、作法もわからず、言われるままに岩盤浴に入っていった。室内は薄暗く、サウナほどではない湿度だが、それでもしっかりと汗が滲むような熱気をこもった部屋だった。壁や床を見てみるとつるりとした感触の石材が使われており、清潔感がありつつも岩盤浴という名を現すにふさわしい内装だった。友人の真似をしてタオルを敷いて横になる。隣の人がいても気にならないよう、顔のところには石の仕切りがあり、その気遣いに好感が持てた。そのまましばらく横になって感じたのは思っていたよりも居心地がいいことだった。私はサウナもお風呂も熱くて長居できない。岩盤浴も同じく、蒸し暑い空間でじっとしていることなんて耐えられないのではと。しかし薄暗い空間で誰も喋らずに滲み出てくる汗を感じながらただそこに寝そべる。そのうち時間の流れも気にならなくなる。ふと自分の腕を見ると全力疾走を幾度となく繰り返した後のように汗だらけになっている。拭ったあとにまた汗が少しずつ腕を覆っていく様をじっと見ている。こんなにも贅沢に時間を咀嚼しているのは久しぶりだった。
温泉エリアで汗を流した後飲食コーナーで酒を飲み飲み、つまみをパクパクしていた。岩盤浴に入っていた時間を思い返す。ボーッと考えていると岩盤浴の空間はファラオの墓室に似ているのでは?と思った。石で囲まれていて薄暗い。そしてそこに横たわる。気分は古の王族というわけか。しかし石に囲まれた暗室というとひんやりと冷たい印象を受ける。インターネットで調べてみると、世の中には色んなことに疑問を思う人がいるようで、Yahoo!知恵袋にピラミッド内部の室温について質問している人がいた。そしてその回答をしている人も。その人曰く、やはり石室内は冷たく涼しいらしい。しかし、もう少し他の回答を見てみると次のようなものもあった。「最近は観光客が頻繁に出入りするようになったため、外気の熱と湿度が石室内を満たすようになったためそれなりに蒸し暑い」へぇ。昔は偉い人の亡骸を眠らせている厳かな雰囲気が似合う石室。人をあまり寄せ付けないような冷たい室温が似合うだろう。一方で多くの人が興味本位で押し寄せる観光地に成り下がった石室はありがたみが減って意外と岩盤浴に似た雰囲気になっているのかもしれない。偉大なファラオも遥か未来の極東の人間にこんな不遜なことを考える奴がいるなど思いもしなかっただろう。死んだ後にファラオに会えたら岩盤浴を勧めてみよう、墓室に似ているかもだけど意外と気にいると思うよ。あと水分補給を忘れずにね。
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