楽器が来ました
前回までのあらすじ
メルカリで弾いたことも見たこともない楽器に一目惚れし、さまざまな葛藤があったものの、一大決心して、およそ一年分の食費に相当する金額を投じる……。
来ました。手厚く緩衝材に包まれて。
そりゃまあ買ったものが届くのは当たり前かもしれませんけれど、こんな美しいものが手に入るというのは当たり前ではないですね。なんたる僥倖。恵まれています。
開封の儀を執り行うに際して写真記録でも残そうかと思ったのですが、カメラに構う余裕がありませんでした。
それにしても美しい。ため息が出るほど美しいです。聞くのに良い音を出すための形を追究すると見るにも良い形になるんですね。ほっそりとして優雅な姿です。触るとひんやりとして、木の硬い感触。材が密な感じです。そして見た目よりも重い。まるで生き物のようです。ううう。なんて官能的なんだ。
古いものなので補修の跡があるとの説明を受けていて、それでも別にいいと思っていたのですが、やはりわたしの見識は正しかった。それすら、いやそれも魅力の一部です。人の手から人の手に渡ってきた、渡るだけでなく実際に使われてきたしるしですから。どれだけの人々がこの楽器に関わってきたのか。今までどこで、どんな音を奏でてきたのか。想像するだに、古物への愛と音楽への愛が高まります。なんて美しいんだ。とんでもないものを手に入れちまったな。
ここまでは楽器を抱いて撫で回している変態なのですが、出品者さんが弦を張ってくださったので、(あと調弦笛は持っているので)さっそく調弦して爪弾いてみました(ほんとうは撥で弾くもので、同梱してくださっているのですが、正しい持ち方が分からないため)
(弦を指ではじく)
あああなんだこの音は、かっこよすぎる。特に太い弦の音がよすぎる。興奮しすぎて呼吸が変になりそうです。落ち着け。やだ落ち着きたくない。まじで。これは。何なんだ。五感すべてに快いこれは一体何だ。琵琶ですよ。そう、琵琶です。琵琶と聞いて人が想像するであろう音──文字にすると「ベェーン」って感じでしょうか──のなか(だいたい「ェー」のあたり)に含まれている、テレビやスマホのスピーカーでは切り捨てられる部分。やばいな。アドレナリンだかドーパミンだかが出まくっているのを感じます。なんてこった。とんでもないものを手に入れてしまいました。
(正気に戻るために楽器をいったん置き、コップ一杯の水を飲む)
実はこれから夜勤に出ないといけないんですが、もう仕事にならないなあこれは。出る前から帰りたいもんな。
あと、琵琶を触ったあと箱三味線を持ったら軽くて柔らかくてびっくりしました。君は君で好きだよ。いつまでも友だちでいような。
箱三味線君の話もまた今度しようと思います。
全くとんでもないものを手に入れてしまいました。
2024/05/15