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とある、下北沢での夜のこと

 2024/11/08 下北沢にあるライブハウス「下北沢ろくでもない夜」で、The Vapesさん主催のライブ"Hello Underground"があった。

 The Vapesさんについてはすでに書いたことがあるが、実はこの日、自分にとって重要なアーティストであるたまきさんの、約5年ぶりとなるライブがあった。今日はそのライブのことと、そこに登場した2人のアーティストさんについて書こうと思う。

 「下北沢ろくでもない夜」は本当にこぢんまりとした所で、入り口を入るとすぐバーと物販スペース。そこに今日のオープニングアクトを務めるたまきさんがいらっしゃった。ミュージシャンとオーディエンスとして、こうやって接するのも当然久しぶり。いいライブになるといいなと願いながら、ご挨拶だけさせていただいた。その後ろ姿を見ていたら、ふと思ったこと。

たまきさん、こんなに小さかったっけ? 

 もちろん小柄なのは知っていたけど、今日あらためてお目にかかって、すごく小さく見えた。そういえば最初にたまきさんを聴いたストリートライブも、高校生?って思ったことを思い出した。自分はその日、なぜか妙な緊張感があって、説明するのが難しいのだが、やっぱりたまきさんの久しぶりのライブ、大丈夫かなって、勝手に心配していた気持ちはあって、ひょっとするとそんな自分の気持ちが反映していたのかも知れない。

 Nanaさんのギター1本だけをバックに歌うアコースティックライブ。2人だけで作る世界。曲が始まった。ステージにあがると全然印象が違って、もう小柄だとかはまったく感じない。

 そして自分はカメラを構えながら、ずっと不思議な感情がグルグルと頭の中を駆け巡っていた。ああ、そうだった。こうだったよね、たまきさんの生歌は。いい歌声だな、という気持ち。でも前よりずっとライブ感のある荒々しささえ感じる歌声(考えてみるとたまきさんのアコギのみのライブは初めてだった)。

 以前と変わらずちょっとダークな詩の世界。NanaさんやThe Vapesさん、そしてたまきさんを知っている皆さんも多かったであろう会場の空気感。そして、もう一度、ライブで歌声を聴けたというその嬉しさと、戻ってきてくれてありがとうという感謝の気持ち。Nanaさんの曲のカバーも含めての演奏、説明することは難しいのだが、ただただ、自分はたまきさんの再始動を見届けて、ここにいられてよかったと思った。

 活動再開後、初リリースのCDも購入。ジャケがかっこいい。

 活動の先の見通しとか、まだまだこれからいろんなことを考えなきゃいけないと思うし、不安もあると思う。でもシンガーが歌いたいという気持ちと、オーディエンスの聴きたいという気持ちがそこにある。今はそれでいいよねって思った。 

 今日の出演者の中で印象的だったのは、The Vapesさんの、ひとつ前のSUPER ROCK'N'ROLLERS さん。初めて聴いたのだが、この問答無用に自分の音をドンと出せる感覚、年季の入り方が違う。カッコよく演奏するって見た目じゃ無い。カッコイイ音を出すから見た目もカッコよくなる。それを証明してるバンド。こういうドライブ感ってたまらん。シビれた。またひとつ、最高なロックバンドに出会えた。

 そして。本日の主役、 The Vapes さんのライブのこと。もちろん、ものすごく楽しみだった。入り口はたまきさんだったけど、今はライブが楽しみなアーティストの1人。

 いやー、やっぱすげー。カッコよすぎる。

 SUPER ROCK'N'ROLLERSさんの、あんなカッコイイ演奏の後だけど、さてさて・・・なんてちょっと思ったけど、そんな心配いらなかった。もうね、パフォーマンスの腕っぷしの強さというか、客がいようがいまいが、私たちは私たちの音楽をやるんだっていう腹の据わり方が違う。本当の意味でサイコーにとんがってた。

 とんがってるって表現すると、みなさん誤解されるんだけど、本当のとんがってるって、誰にも流されない強さのことだと自分は思っていて、今のThe Vapesさんの演奏には、それがある。自分が初めてライブで聴いた頃は「若いっていいね」っていう感想が似合っていた演奏だったかもしれない。でも今は違う。やりたい音楽をとことん突き詰めてきた人たちが手にできる音。もっと聴かせてほしいとオーディエンスに思わせる音を聴かせてくれる。バンドの成熟は諸刃の剣でもあるが、数々の修羅場(?)をくぐってきたライブバンドとして「強靱さ」に興奮した。

 今回のアルバム"Hello Underground"は、The Vapesの音楽、そしてその表現方法や生き方がよく出ているタイトルであり、内容だったと思う。そしてそれはフロントマンであるNanaさんの歩みを象徴しているのかもしれない。以前のライブの時に、Nanaさんのボーカルの魅力としてこんなことを書いた。
「今回はそれが演奏とガッチリ噛み合っていたし、そこに余裕が感じられた。」
「今日のNanaさんのパフォーマンスはいつものパワーに加えて、「もっとやっちまえ!」と聞いている人を引きこんでしまうような魅力があったと思う。」
 今回のライブで自分の書いた感覚が間違ってなかったとあらためて感じた。「私たちの音楽を聴いてほしい」と「みんな楽しもうぜ」のバランスがすごくいいから、パフォーマンスに身を委ねられる。

 お二人の接点は高校時代だそうだ。もちろん自分はあくまでオーディエンスとしてしか接点はないが、Nanaさんには、ここまでたまきさんの良き友として支えていただいていることには自分は感謝しかないし、そのことだけでもすごく人として尊敬している。今回のライブやたまきさんのレコーディングへの参加も、そんな友情のひとつの印なのかもしれない。そしてそうやって友を助けることと、人前で演奏することは、Nanaさんにとって、きっと同義なんだろうなって気がしてならないのだ。そうじゃなければあの「スーサイドライブ」がオーディエンスにもたらす高揚感は説明できない。もうあの歌はThe Vapesの曲であり、ファンの曲になりつつある。今回のライブイベントの最後を飾るにふさわしいアンセムだったと思う。

 今日はレコ発のライブでもあったそうで、さっそくこちらも購入。ドラムの五十嵐さんに販売していただいた。
「このバンド、ドラムがバツグンに素晴らしくて好きだ(これは第一印象から変わらない)」なんて書くぐらい、The Vapesのドラムいいですよね!なんて、ご本人にはとても恥ずかしくて言えないが、ちょっと嬉しかった。

 私たちが楽しんできた音楽は、数多くの素晴らしいアーティストたちによって生みだされた。シーナ&ロケッツ、BUCK-TICK、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやフー・ファイターズ、ロビー・ロバートソン・・・ここに名前をあげた方々の共通点、わかる方も多いだろう。ここ数年でこの世を去ったアーティストだ。二度と新たな演奏を聴くことは叶わない。きっとこれからも残された音楽をずっと愛し続けるけど、それじゃいつまでも哀惜の想いからは解放されない。だから。これからを生きるアーティストもしっかりと応援したいと思うし、このお2人は、そんな楽しさを味わうことができるアーティストだと思う。それに高校時代に知り合ってから、志向する音楽性、歩んできた道も違うけど、でもよき友としてこれからもお互いに刺激を与えながら、それぞれの道を進んでいく。そんなドラマのような物語も実に嬉しいし、その後を想像するのも楽しいと思う。

 そんなことを思いながら下北沢を後にした。ろくでもない夜なんかじゃない。少しだけひんやりとした、でもとても清々しい、いい夜だった。

注:アーティストさんの写真は全て筆者撮影。撮影許可をいただいております。

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