一昨日のこと。

誰も望んでいないわたくしの自己紹介を数回に分けて(1回目はすでに公開済)書いていく気満々だったのですが、一昨日、自分では消化しきれない出来事が起きましたので先にこれを書きます。


私はシフトが一緒の時、必ず乗せて帰る仲間がいるのだけど、その夜はザーザー降ってて行き交う車のライトが路面に反射するから「老眼鏡+2.5」使用中の私には余計に辛かった。

車線はないものの、2台が余裕ですれ違えるほどの道の路肩に車を止め、いつものように心理カウンセラー2級の資格を持つ由巳姐さんの「生き方ワンポイントアドバイス」に耳を傾ける。

高齢男性がよろよろと車道へ出てきたのは、由巳姐さんが「感謝はモノで返すのではなく、言葉で」という話を始めた時だったと思う。

私たちの乗った車のライトに照らされているから、20mほど先にいる男性の動きもはっきりと見えた。

土砂降りなのに傘も差さず、年季の入ったショッピングカートを右手で引きずり、左手にはグリーンの取手のトートバッグを持って、超スローペースでよたよたと横断していく。

ここはオフィス街だから、夜間は人も車もほとんど通らない。

あまりに足取りがおぼつかないので酔っ払いだと確信した。

ようやく渡り切り、私たちのほうへ向きを変えた瞬間、その高齢男性はバランスを崩して側溝に倒れ込んでしまった。


動いてはいるけれど、中々起き上がらない。

(このまま無視して移動するわけにもいかんしなぁ)

由巳姐に「あの人、なかなか起き上がらないですけど行ったほうがいいですかね?」と訊いてはみたものの、正直(勘弁してくれよ)という気分だった。

そうね…と由巳姐が答えてから数十秒経ったところで、私たちは車を降り、取り敢えず倒れた男性のもとへ向かった。


私たちだって夜までフルで働いてご飯もまだだし、ちょっとはゆっくりしたいんよ。特に今日は雨脚が強いから傘差してても濡れるし。


まず由巳姐が「大丈夫ですか?救急車呼びましょうか?110番します?立てますか?」と声を掛けたが、おっさんは呂律の回らない口調で「呼ばんでよか」と返してきた。

でも一向に起き上がる気配はない。

私も「起き上がれますか?起き上がれないなら救急車呼びますよ」と何度か言ったように思うけど、よく覚えてない。

その直後のおっさんの言葉が強烈過ぎたから。


「起こしてくれんね?」

「救急車やら呼ばんでいいけん、ちょっと俺ば起こしてくれんね」


おっさんは側溝にひっくり返ったままの姿勢で、目をかっ開いて私たちを見ている。


由巳姐と私の動きが止まった。

だるまさんがころんだの時のように。

おっさんの着ていたセーターは何箇所もほつれ、少ない髪はべったり頭皮に張り付き、雨の雫が顔を伝い結構なシャイニング感を醸し出していた。

私たちは躊躇った。


私は常々「福祉に携わりたい」と公言している人間で、それは由巳姐も知っている。由巳姐もまた、前職は障害者福祉に携わっていたはずだ。

しかし由巳姐は過体重の私とは違って線が細い…


「今から起こすけん、しっかり私の腕ば掴んどって下さいよ!!今から手首持つけん、私の手首も離したらいかんですよ!!」


こいつ、福祉福祉言いよる割に介添えもできんのか、と姐さんに思われたくない一心で言っただけ。

ずぶ濡れのおっさんは

怖い。

怖くてたまらなかったけど、人体を縦にすることに神経を集中させ、夢中でおっさんを引っ張り上げた。


おっさんより私の手首が太かったんじゃなかろうか。

それでも大の男をひと息で立ち上がらせるとは、私なかなかやるやん。


「じゃあ手ぇ離しますよ!また倒れないように壁でしっかり体支えて下さいよ!!」


そう叫んでおっさんの右手をビルの壁に付かせた。

おっさんは「ありがとう。助かった」と酔っ払いみたいな口調で礼を言った。

が、おっさんの左手が私の手首を掴んだまま離れない!!

怖い。離せや!!

転がったままのショッピングカートを必死で手繰り寄せると、ジジイの左手を無理やり振りほどき、カートの取手を握らせた。

続きます

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