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D&Dリプレイ 地獄の戦場アヴェルヌス(1) - ディアの記録

D&D5e ヤマタイカDM「地獄の戦場アヴェルヌス」第1回セッション、ディア視点のリプレイです。ネタバレを含みます。ご注意ください。
・ディア:ティーフリング、ローグ
・ディレク:ドラゴンボーン、ファイター
・リラ:フォレスト・ノーム、ドルイド
・フリント:ヒル・ドワーフ、ウィザード
・シシリア:ヒューマン、クレリック

燃える拳団の即席パーティー

愛すべき悪徳の街、バルダーズ・ゲート。あたしはこの街で生まれ育ち、悪徳にまみれて生きてきた。治安維持を担う『燃える拳団』は数日前まで敵だった。だけど今のあたしは燃える拳団に雇われた正義の冒険者。これまでも服を着替えるように身分を変えながら生きてきたけど、今回は我ながら思い切った。『ギルド』絡みの汚い仕事をしてきた悪い仲間と縁を切って、燃える拳団の徴募に応じたのだ。バルダーズ・ゲートの治安を守る仕事。犯罪者として追われる立場から追う立場に。言ってみれば同じ業界の裏と表だ。向いてないわけがない。ついでにあたしを裏切ったあのクソエルフを見つけられるかもしれないしね。

治安維持の仕事にもいろいろある。あたしは少しでもいいネタにありつけるように英雄レイブンガード大公の遠縁という設定で新しい身分を用意した。お偉いさんの関係者になるのはよく使う手口。だけど当のレイブンガード大公が消息不明になっているとは想定外だった。

エルタレルが突然消え失せたとか、そのせいで避難民が殺到しているとかは噂で耳にしていた。けれど和平交渉のためエルタレルを訪れていた大公が巻き込まれたなんて、燃える拳団の連中から聞くまで知る由もなかった。この状況で大公の縁者だという設定は際どいかもしれない。しばらく言いふらすのはやめておこう。

他にも冒険者として雇われた者が集められ、あたしを含めて5人の即席パーティーとして編成された。さっそく東にあるバジリスク門に向かい、ゾッジ隊長から詳しい指示を仰ぐようにとの指令を受けた。刈り上げ頭に眼帯を着けた隊長の姿は見ればすぐに分かるだろうとも。

成り行きで一緒になった仲間と共にバジリスク門に向かう。種族も身なりもバラバラなメンバー。何かと毛嫌いされるティーフリングのあたしとしてはその方がありがたい。それぞれ何が出来るのかも分かっていないが、冒険者として燃える拳団に雇われる程だ。みな腕に覚えはあるのだろう。いろんなタイプの人間がいた方がパーティーとしては強いしおもしろい。理屈は分からないが、これまでの経験から学んだことだ。たぶんお互いの欠けてるところを補い合えるんだろう。あたしたちみたいな、はみだし者で欠けてる部分が多い輩は特に。

まず目を引くのはガタイの大きなドラゴンボーン、ディレク。彼はあたしと同じバルダーズゲート市民のにおいがする。いかにも傭兵稼業の偉丈夫だけど、話してみると案外気安い。立派な盾として使えそうだ。隙を見て媚びを売っておこう。ドラゴンボーンは鱗が硬いから抱き心地はアレだけど、まあ今回は関係ない。

リラはちっちゃいノームの女の子。いや、ノームは元々小さいから子供じゃないのかも。田舎っぽくてかわいらしい。市外から来たのだろう。持ち物から見るにドルイドのようだ。垢ぬけてないし、悪い奴らにすぐ騙されそうだから燃える拳団に来たのはいい判断かもね。小動物みたいで守ってあげたくなる。

フリントはドワーフの職人、だと思う。体は丈夫そうだし指にできたタコも職人ならではだ。でも鎧は着てないし呪文書のようなものを大事に抱えてる。魔法使いかもしれない。どちらにも見える。ミステリアスな男はいい。どんな過去を背負ってるのか、一枚ずつ秘密を剥いて明らかにしたくなる。

シシリアはお堅いヒューマンのクレリック。純粋な信仰心が顔に出るのでクレリックはすぐ分かる。彼女は神も人もすべて信じてますって感じだ。大事に育てられたんだろう。まあクレリックは人のために尽くしたがるのが多いし、魔法は役に立つので仲良くなって損はない。こういう聖女様がどうしようもなく堕落していく様を見たことがあるけど、あれはゾクゾクした。彼女は神様にどんな試練を与えられるのか見ものだ。

そして繊細で美しいティーフリングのあたし。たいていの男女はあたしの魅力に目が眩むってもんよ。美しさって罪だね。若い頃は銅色の肌もねじれた角も嫌いだったけど、大人になってからはこの外見に魅了されるやつも少なくないと気づいた。今では立派な武器だ。これまで数多のパーティーを組んできたけど、今回も皆にはめいっぱい働いてもらって、あたしは楽をさせてもらうつもり。みんなもあたしの役に立ててハッピーだから得しかないね。

ゾッジ隊長からの指令

バジリスク門に到着した。多くの石像が見下ろす市外に繋がる門だ。門前でひと騒ぎ起きている。燃える拳団の小隊に商人らしき人々が詰め寄っているようだ。「仕入れに出かけないと商売にならない」とか「外の主人に会わせてくれ」とか声高に主張している。押し問答を続ける団員と商人に業を煮やしたのか、眼帯を着けた一人の男が歩み寄ると、おもむろに商人を殴りつけた。一瞬、静かになった後、他の商人が横暴だと非難するが彼もまた殴られてひっくり返った。収まりがつかなくなったのか、眼帯の男は次々と市民を殴りつけている。

バルダーズゲートの日常的な光景。燃える拳団は治安を守る部隊ではあるが、その活動に障害があればだいたい暴力で解決する。どっちが治安を乱しているのか分からないこともしばしば。基本的には関わらないのが一番だ。しかしどう見てもあの眼帯の男が探しているゾッジ隊長だ。あまり騒ぎが大きくなるとあたしの仕事がやりづらくなってしまう。とぼけた振りをして後ろから声を掛けた。

あたしたちが燃える拳団に雇われた冒険者の一団であることを伝えると、隊長は殴る手を止め、礼儀正しく応対してくれた。意外な常識人。このギャップ、ちょっと好みかも。隊長はあたしたちを召集した件について説明を始めた。また騒ぎになるとめんどくさいので、隊長の後ろで様子を窺っている商人たちに、早く向こうに行くように目で合図をした。ペコペコとお辞儀しながら去っていく商人たち。まったく要領が悪いやつら。

ゾッジ隊長の話によると、燃える拳団は今とても忙しいらしい。エルタレルの消失。そこに居合わせ消息不明となったレイブンガード大公。バルダーズゲートに流入する大量の避難民。隊長によればこれはヘルライダーの謀略によるもので、やつらの工作員が市内に潜入しているに決まっているとか。とにかく門の封鎖とヘルライダーの捜索だけで手一杯だという。

そんな混乱に乗じて別の問題も発生しており、あたしたちへの依頼はその別件の方だという。無差別殺人事件の捜査。以前から何かと騒ぎを起こしてきた死せる三者の信徒たちが、連日のように殺人事件を起こしているそうだ。その犯人を見つけしだい殺して欲しいというのが主な内容。期限は10日間。邪魔が入るようなら排除してもお咎めなしだという。燃える拳団の記章も支給され、これを見せれば多少のことは不問になる。上層地域への立ち入りも自由にできる。これは面白い。燃える拳団の後ろ盾でやりたい放題できるってことじゃないか。ワクワクしてきた。報酬は1人あたり200gp。しかも捜査とは別にヘルライダーを捕縛したら1人につき50gpの追加報酬もくれるらしい。さすが太っ腹。ここに来て正解だったかも。

死せる三者とはベイン、ベハル、マークールのこと。その信者たちは何でもありのこの街でも特にヤバイ連中だ。隊長によればやつらにはそれぞれ身なりと殺し方に特徴があるという。

ベイン信者は右手に黒い手袋や小手などを身につけ犯行に及ぶが、基本的には殺しはしない。恐怖によって人を支配することを好む。

ベハル信者は血を連想するような赤いハンカチなどを身につける。恐怖を与えることを好むため、見たものにも恐怖をばらまくような凄惨な現場が多いとか。

マークール信者はドクロをモチーフとしたフレイルを好むようだ。そのため撲殺が多いようだがアンデッド研究のために死体を持ち去ることも多いらしい。

これまでに20人近くの死体が発見されているが、見つからないものも含めればその3倍は被害者がいると思われる。被害者は主に下層地域の者たち。ただし上層地域でも数名の行方不明者がおり、関連が疑われている。昨日だけでも3人の被害者が別の場所、異なる手口で発見された。そちらは拳団が正式に捜査しているようなので、あたしたちは別の方向から捜査を進めることになった。

まずはゾッジ隊長子飼いの情報屋、タリナという女から情報を仕入れるようにとの指示だ。彼女は顔に大きな刺青のあるヒューマンで、『ギルド』に所属する密偵だという。エルフの歌亭に行けば接触できるらしい。パーティーの皆を連れてさっそく向かった。

情報屋タリナ

エルフの歌亭は下層地域の有名な酒場だ。どこからともなくエルフの歌声が響く、少々ロマンチックな店。いつもは大変な繁盛ぶりだが、今日は客の入りが少ないように感じる。スイングドアをくぐると用心棒が1人。ハーフオークの女が不愛想に突っ立っている。ディレクはその用心棒に挨拶すると何事か言葉を交わしている。傭兵稼業の顔なじみってやつかな。

あたしはカウンターに座り、まずはエールを一杯いただく。これから何をするにせよ店主への義理みたいなもんだ。フリントが物欲しそうにじっと見てくるがもしかして一杯飲む金もないのか?まさかね。飲みながら店主に最近の噂などを聞く。門の封鎖と燃える拳団の横暴ながさ入れのせいで街の活気は失われているという。バザールの客足もさっぱりで商売人たちは苦労しているらしい。店内にも商売人らしき人物がやけ酒を喰らっている。死せる三者の信徒たちが暗躍している噂も流れている。何十人も殺されていればそれはそうだろう。

店内を見回してもタリナらしい人物は見当たらない。身なりを伝えて尋ねると2階でバルダーの骨をやっている最中だという。ギャンブルとしては定番のサイコロ遊び。あたしも少しはやるが好みのシノギではない。ギャンブル好きなやつはガラが悪いからね。勝っても危ないことが多々ある。それよりガラのいい金持ちから安全に搾り取る方が賢いってもんさ。

パーティーの皆に事情を伝えて2階へ上がる。いかにもガラの悪いならず者が2人、反則だノーカンだと言って女に詰め寄っている。女の顔には大きな刺青。こいつがタリナで間違いなさそうだ。タリナは「騙された方が悪いんだろ、間抜けども」などと煽っている。いきりたった男たちが「このイカサマ師め!」と叫んで武器を抜いた。タリナに死なれたらいきなり仕事が行き詰ってしまう。「やめておけ、我々は燃える拳団だ!」と得意げに記章を見せつけてあたしたちも武器を抜いた。

リラが真っ先に呪文を唱える。蔦がならず者たちの足元から生え広がり、その1人を絡めとった。もう1人のならず者はメイスを振り回してタリナを殴りつけている。威勢がよかった割にタリナは戦い慣れていないのか、焦った顔で逃げ腰になっている。だったら煽らなきゃいいものを。タリナは慌てて手近な扉を開き、室内へと逃げ込んだ。誰かが中にいたらしく「ギョギョッ」と驚く声が聞こえる。なんだあの声?あたしは物陰に隠れつつ戦っているので室内の様子は分からない。ディレクはタリナを守るように扉の前に立ち塞がる。リラは唸り声を上げながら大きなクマに変身しならず者に襲い掛かった。あの小さなリラが獰猛なクマになるギャップがすごくいい。でもちょっと大きすぎるな。クマの陰になったならず者を狙って矢を放つが大きく外してしまった。「ちょっとクマちゃん、お尻が大きいんじゃない?!」と声を掛けると恥ずかしそうにしていた。かわいい。フリントとシシリアも魔法で応戦している。やはりフリントは魔法使いらしい。そうこうしてならず者を1人倒すと、もう1人は戦意を失って命乞いを始めた。こちらも余計な戦闘で消耗したくない。見逃すことにして無様な後ろ姿を見送った。

避難していた他の客がやれやれといった様子で席に戻り、また噂話を肴に飲み始めた。あたしたちもタリナと同じテーブルを囲んで座る。タリナは助けられたお礼だと言って一杯ずつおごってくれた。助けたついでに無差別殺人事件について情報があれば教えてくれと尋ねると、タダでは教えられないと抜かしやがった。「情報が欲しければバルダーの骨で勝負しな」などと言ってヘラヘラしている。どうせイカサマする気なんだろ。イカサマ勝負なら負ける気はしないが、わざわざ相手の土俵で戦うのも馬鹿らしい。どうしたもんかと考えていると巨漢のディレクが身を乗り出し「いい加減にしろ」とタリナに凄んで見せた。タリナは気圧されて「冗談だよ、旦那」と引きつった笑いを浮かべている。弱いくせによく煽るね。おもしろい女。一緒に組みたくはないけど。

燃える拳団のゾッジ隊長からの紹介で来たことを伝えると「なんだよ、そういうことか」と言って話す気になったらしい。その時、隅の席にいた黒づくめの人物が妙な舌打ちをした。盗賊の符牒。当然あたしにも意味は分かる。タリナに向かって「我々ギルドを売る気か?」と問いかけ、警戒しているようだ。なるほどギルドのお仲間ってわけだ。タリナも符牒で「違うちがう、ギルドの話はしない。ゾッジに恩を売るだけだよ」と返事をした。とりあえず敵対はしないようなので、あたしは符牒に気づかないふりをしてやり過ごした。

その時、店内にエルフの歌声が響き始めた。他の席の客が「いつもの歌とは違うな」と言って驚いている。エルフ語は分からないので、あたしには何が違うのか分かるわけもない。仲間の顔を見回すが、全員頭の上に疑問符が飛んでいる。仕方ない、どんな歌だったのか後でハーフエルフの店主にでも聞いてみよう。

タリナに死せる三者について尋ねる。ちょうどギルドの仕事がらみで調べてたところだと言って話し始めたその時、階下で騒いでいる音が聞こえてきた。階段から様子を覗きに行くと海賊たちが大声を出している。「おい、タリナを出せ。ここにいるんだろ!俺たちの金を奪いやがって、イカサマ師め」と喚く。タリナは顔が引きつっている。大丈夫かね、この女。あたしは「これは貸しだからな」とタリナに声をかけて階段を下りた。

海賊は7~8人。颯爽と現れたあたしに釘付けになっている。美しいって罪だね。一目でボスと分かる男に向かって得意の演技でかましてやる。「おいおい、あんたらタリナの知り合いかい?こっちがあの女の居場所を教えて欲しいくらいさ。イカサマで巻き上げやがって」と吐き捨てながら、ちらりと海賊の顔を見る。海賊の男はニヤニヤ笑って「タリナがここに居ることは分かってんだ。さっさと出しやがれ!」と言い放つ。見透かされてるか?ハッタリか?微妙なところだ。すると周りで様子を見ていた客が「タリナなら2階にいたぞ」「そうだそうだ」などと言い出した。くそっ、こいつらタリナに恨みでもあるのか?……ありそうだな。タリナからはまだ何も聞き出せていない。ここは暴力で追い払うしかなそうだ。そう素早く判断してあたしは踵を返し、奥の扉に飛び込んだ。話し合いなら前に出るが、戦闘ならもっと得意な仲間たちに前線に出てもらおう。それが役割分担ってやつでしょ。

乱闘になってディレクが海賊たちの攻撃を引き受けてくれている。あたしは扉の陰から弓で応戦する。海賊の一人がワインの瓶を手に取り、テーブルに叩きつけると即席の武器にして振り回し始めた。それを見た店主は顔を真っ赤にして「店の物を壊しやがったな。スクーナ、ガッシャン、仕事だ!」と叫んだ。入り口の横で傍観していた用心棒のスクーナはすぐに反応すると次々と海賊を斬り伏せていく。あのハーフオーク強いじゃないか。あいつを雇った方がいいんじゃないか?そしてなんと、入り口の脇に飾ってあった鎧もガシャガシャと動き出し、海賊に対峙している。クマに変身したままのリラも突進し海賊に牙を突き立てている。

用心棒たちのおかげで旗色はよさそうだ。けどあのイカサマ女のために何度も戦わされるのが納得いかない。後で知ってることを全部しゃべってもらうからな。待ってなよ。

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