小説内の人工言語「バンダ語」を練り込みたい
はじめに
自作小説「パラレルワールド探検記」には,パラレルワールド(ちょっと違うというよりは,我々がいるこの世界とは全く異なる世界.「異世界」と呼ぶ方が適切な可能性が高い世界)に存在する架空国家「バンダ」が存在する.
バンダの国は小説内では「島国であり、世界的な位置関係としては現実世界の日本に相当する国」としながらも「形状がひらがなの『う』のような形をしていたり、また隣国の朝鮮半島にあたるであろう半島が南側ではなく東側に突き出している」と述べられている.詳しくは設定されていないが,「気候もおそらく日本とは違う」可能性が高い.
今回考えることは,この国で話されている言語である「バンダ語」の言語である(国の地理や気候も考察の要素になるかもしれないが,今回は言語について考える).
音韻
母音
小説内に出てきたバンダ語について,出てきた地名を列挙すると以下のようになる.これらの地名はある程度「この言語にはこの発音があるorない」などはなんとなく想定して作成しているが,バンダ語として自然な地名だということを意識してつけたわけではないことを前提としておく
日本語には5つの母音があり,ここに述べられた地名にはその5個の母音が含まれるが,このことからバンダ語は日本語と同じ5母音であると直ちに結論づけることはできない.例えば,韓国語の「어(eo)」と「오(o)」はカタカナで書けば基本的には共に「オ(o)」となってしまう(場合によってはそれぞれ「ア」「ウ」に聞こえる可能性もあるが……)ように,実際の母音は5より多いかもしれない.その一方で,「ink」がカタカナで「インク(inku)」となるように,母音がない部分に補っている母音があるため,実際には5母音より少ないかもしれない.またこれらが打ち消してちょうど5母音になるものの,日本語とは構成する母音が大きく異なるかもしれない.
小説内には以下の記述がある.
コンジョーバがKonjaobaと綴られるのは,最初は「歴史的な綴りが現代まで残っている」と設定されていた.しかし,日本と似たような歴史を辿っているとすれば,この綴りの差が現代まで残っているのは(決してあり得ない話ではないものの)少しばかり不自然である.そこで,「ao」の綴りを残しているのは「ooと書いてある場合とは発音が違うから」という設定が取り入れられた(実際には,中世日本語の開合の差のようなものだと想定されている)。
実際は標準語で6母音(首都圏方言では7母音)と設定された.しかし,そのうちの1つ(首都圏方言では2つ)の母音は長母音でしか現れない.カタカナでは6つ以上の母音を自然に表すことができないため,カタカナでは表記されない母音の違いがバンダ語にも存在すると結論づけられる.
子音・アクセント
次に,子音・アクセントについて考える.引き続き,先ほどの地名リストを引用する.
日本語の子音として抽出できるのは「b, d, m, t, k, r, z, s, y, b, N, j, g, h/f」であるが,例によってカタカナで表現しきれない子音が存在する可能性がある.実際,小説内で「アリト」は「Aritho」として表記されており,発音は「tyo(無理に表すと,テョ)」である(が,日本語の表記として自然になるようにトとした)と想定されていた.
小説執筆当時,バンダ語の音韻で想定されていたのは「子音がつかないeは語頭でエ,語中ではイェ」「ヤ行の発音がイェを除き存在しない」「エマアは元々Ema'aであり,'はかつてhの有声音を表していた」「日本語に比べ,子音がアクセントに影響を与えやすい」という点である.「aa」でも「a'a」でも,バンダ語では音声自体は同じである.しかし,アクセントが異なり,前者は「LH-」,後者は「HL-」である(日本語首都圏方言の場合,前者は端,後者は箸と同じアクセントである).
バンダ語のアクセントは小説内の以下の文章からも読み取れる.
この文章から,バンダ語の発音・アクセント体系がどのようなものかを完全に推測することはできない.しかし,設定するための手がかりにはなる.上で述べたデケギを例にとって考える.日本語の首都圏方言話者に「デケギ」という文字列を架空の地名として見せて読み上げさせた場合,おそらく初見で「卵」と同じアクセントで読む人は少ないと思う.自分であれば「視界」と同じアクセントで読む.
tと対立する音声としてthが存在すると仮定した場合,kに対応する音声としてkhが存在すると考えることも少なくとも不自然ではない.また,bに対応する音声としてpやphが存在すると仮定することも(アラビア語や日本語のように「bがあるがpがない」言語があるとは言え)不自然であるとは言えない.
ここで,khは現在「Huygens(ホイヘンス)」のgと同じ発音であり,Hとは異なると考えられている.これは僕個人の感覚ではあるが,Huygensを「ホイケンス」とカタカナで表してもそこまで外れているとは思わない.上で述べた「子音がアクセントに影響を与えやすい」を考え,「(朝鮮語のように)hが入る音素が高くなりやすい」という設定を加え,「デケギ」は音素的には「Dekhegi」であると設定された.
結論
今回の記事の内容は「小説で書いた内容」と「小説を書いたときに自分の中になんとなく浮かんでいた内容」から「バンダ語の音韻がどのようなものであるか」を考察したものである.残念ながら,小説の内容から文法を考察することはできないが,今後は文法がどのようなものであるかを今までのTweetからまとめてみたい.