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サロペットをつくる


サロペットばかりを作っている。

はじめて作ったのは、三年ほど前だったか、黒の無地で目のつまったコットンで作ってみたら、思いのほか便利でよかった。

最近ではサロペットがじわじわ流行りつつあるようで、あらゆる型紙が世の中に出回っているけれども、わたしが作ったのは、「ぐりとぐら」が身につけているようなすとんとした形のものである。
ゴムもギャザーもいれていないので、どこにもなんの締まりもなく、脇のあたりから風が抜けて涼しいのがよい。夏はTシャツを合わせる。中にタートルセーターなどを着れば、冬も使える。ただ長靴と合わせると、魚屋さんのようないでたちになってしまうので、それが難点といえば難点ではあるけれど。魚屋さんに一瞬でなれるというのは、それはそれで愉快である。

なんといっても、サロペットのよいところは、自転車に乗りやすいということなのだ。これに尽きる。自転車にばかり乗っている。自転車を愛している。

自転車は、魔法のほうきに一番近い乗り物であると思っている。わたしのはスピードはさほど出ない。でも曲がるときに遠心力を感じるというのも、晴れた日は首の後ろが熱くなるのも、子どもを載せてえいえいと坂道を上るのも、わたし、生きてる、という感じがするのだった。生きているから自転車に乗っているのだ、自転車に乗るということは生きているということだと大げさに思えるのがよい。そのおともに、サロペットは大変役立つ。

二本目のサロペットは両脇にポケットをつけてみた。外にぺたんとはりつけるやつではなくて、ちゃんと隠れるポケット。自転車の鍵を、ちょっと入れておく、などに大変便利であった。これはリバティのローンでつくった。涼しい。涼しいうえに軽い。軽いので足を動かすと、さらさらと揺れて嬉しい。

三本目はコットンのギンガムチェックで作った。気を抜いていたのか、またしても右筒と右筒を作りかけてしまった。ギンガムチェックはフレンチポップを気取れる。フレンチポップが何なのかはよくわからないが、フレンチとかポップとかおしゃれでうきうきした言葉の響きが、それだけでよい。

袖つきのサロペットも作った。襟元がカシュクールになっているのだが、家族には「忍者のようだ」と言われてしまった。なんと言われてもよい。

サロペットは便利だしかわいい。ぐりとぐらの仲間になったようで楽しい。手洗いにたつたびに、いちいち肩から脱がなくてはいけないというちょっとした手間も含めて、この非日常感がよい。

そういえば、ちょっと昔、セールでど派手なリバティを買った。
紺地に象だの蝶だの薔薇だのが黄色やオレンジでついていて、買ったときには「それ、何作るの」と家族がどんびいていたが、なんとお洒落な生地だとわたしは満足だった。が、たしかに何を作ればいいのかよくわからなかった。何をつくっても、生地に負けてしまうような気がした。それなら裏地にすればいいのだろうか。いや、それはもったいない。

それでやっぱりサロペットにした。
普段づかいではなくて、ここぞという時のためのサロペットにしたかったので、仕立てを生業にしている友達にお願いしたら、細部の柄合わせまで完璧の超絶オシャレなサロペットになって返ってきた。

ここぞという時に着用しては、「パリコレの新作だよ」などとおおぼらをふいている。やはり家族は静かにひいているようだが、柄もの好きの友達の間では大変評判がいい。

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