歴史書籍感想1「平安貴族の心得」
平安貴族の心得
「御遺誡」でみる権力者たちの実像
倉本一宏著 朝日新書
本の内容
はじめに 御遺誡とは何か
第1章 嵯峨天皇と『嵯峨遺誡』
第2章 宇多天皇と『寛平御遺誡』
第3章 菅原道真と『菅家遺誡』
第4章 醍醐天皇と『延喜御遺誡』
第5章 藤原師輔と『九条右丞相遺誡』
おわりに 御遺誡からみる平安時代
ー皇統の確立と摂関家の成立
日本古代政治史・古記録学が専門の倉本先生の著書は、専門外の私にとっても非常にわかりやすく、気になるたびに手にして教えを乞う書籍である。
いつもの書店で積まれていたので即購入。
上下巻の海外ミステリーを読み終えた次にこの本を読み始めた。
この本では5人の人物の御遺誡(遺誡)が詳しく紹介される。
3人の天皇と1人の文人貴族・九条流摂関家の祖で藤原道長の祖父である。
嵯峨天皇は平安時代初期の天皇で、宇多天皇と醍醐天皇は親子である。菅原道真は宇多・醍醐両天皇に仕えたが、大宰府に左遷され失意の内に亡くなり、怨霊になって都を震撼させたことは有名である。
さてこの遺誡の中で『菅家遺誡』だけが残りのものと異なる。
倉本氏が第3章の序盤と最後で書いているようにこの遺誡は後世の仮託書であるとされ、中世や江戸時代の思想の影響を多分に受けたものであることは明らかであるという。
菅原道真は優れた文人貴族であった。彼が大宰府に左遷させられたのは藤原時平の讒言によると今まで言われていたが、道真が外戚の地位につこうとしていたとも考えられるので、そのことによる周囲の彼への反発が直接的な左遷の原因だったのではないだろうか。
菅家のその後の動向を見ても道真の遺誡が本人のものとして伝わっていたかどうか疑問はかなり生じる。
本物であればいいなと思うのはもはや学問ではないか。
おわりにで倉本氏はこう書いている。
嫡流になることによってどうするべきか、どうしてはいけないのかを自身の子や孫に伝えることが重要だったわけで、それはすなわち家の継承ということにつながる。
後世に家を伝えるという意味で平安時代に御遺誡が書かれて今の時代に残っている。
あらためて古記録が伝えられたことの価値を感じ、たくさんのことを教えられた倉本氏のこの著書は、常に何か思うときに手にする最適な本であったと思う。
これ以降の時代にも家訓などが出てくるが、その最初期のものが本書で紹介された御遺誡であったことを頭に入れて、後世の記録を読んでいきたいと思う。
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