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おっちゃん

かれこれ3年も配達のアルバイトを続けていると、変わった人、癖のある人と出会す機会が多い。始めた当初はそんな方々の対応にも不慣れだったせいか、出会う度にその日の出来事を鮮明に覚えていたが、3年も経つともうなんとも思わなくなってしまった。慣れてしまったのか、感覚が麻痺したのだろう。しかし、今日は久しく印象に残るおっちゃんと出会えた。

様々な容姿をした建物が建ち並ぶ住宅街の中でも一際目立つ風貌をした一軒家に配達に行った。玄関の前には本当に必要なのか首を傾げてしまう鉄の扉が待ち構えていた。あのマンションの裏口とかにあるやつ。まずはインターフォンを鳴らし、予定通り商品を受け渡すつもりだったが、そこで今回の主人公が登場したのだ。そう、変なおっちゃんとはここの家主だったのだ。(以下“お”)

僕「こんにちは〜。(バイト先名)です。」

お「........」

僕「こんにちは!(バイト先名)です!」

お「だからなんだよ」

僕「??あの、ご注文いただいた商品をお届けにあがりました」

お「金がないから払えない」

僕「あれ、ご注文なさらなかったですか?」

お「え?注文したのか?多分娘だ。今不在なんだよな。俺以外誰もいない。どこ行ったかも知らないし、いつ戻ってくんのかも知らん。」

困った。何にも知らない人が出てきてしまった。しかもなんか怒ってるし。
そりゃあ何も知らなければこの状況はどう考えても意味がわからない。まるで僕が昼食のセールスに来た奴じゃないか。ましてやお金がないと訴えかけてくるので、こちらも商品を渡すわけにはいかないし、最悪なことに注文した本人との連絡がつかない。この人は一体誰なんだ状態である。

僕「どうしましょうか、、、良い天気ですね」

お「ああ。多分注文したよ。」

僕「ですよね、どうしましょうか」

せめて一旦引き返してくれと突き放してほしい。必殺良い天気ですねも通用しない。

お「多分娘の昼飯だろう。俺は知らん。金もないし、俺は食わない。」

僕「そうですか、ではもう一度お店の方とに確認と、ご本人様にご連絡を入れさせていただくので失礼致します。」

お「おお、寒くなってきたな。」

今天気の話?必殺技のタイミング違うくない??

僕「はあ、そうですね、では。」

そう言い残しておっちゃんとはここで別れた。その後すぐに無事本人との連絡が取れ、落ち合うことができた。どうやら買い物に行っていたようだ。正直お金を置いていくかもう少し頼もしい人を置いていって欲しかった。まあ、結局商品渡せるし、僅かながら必殺技の効果も試せたし、そこまで困った話ではなかった。ホッとしながら商品を受け渡している最中に気付いた。おっちゃんがこちらを覗いているのだ。おっちゃん。こっちへおいで。本当になんも知らなかったかもしれないけどさ、なんであんな怒ったように「俺は食わん!」って、いいじゃん食べても!波平さんかよ!ツンデレかよ!小悪魔系ツインテールかよ!お金がないと威張るその態度も、本当は楽しみだったのだろうと思うと僕はなんだか愛おしく思えた。頭を撫でてやりたい。
いろんな生き方があるんだなと、久しぶりに出会した変わったおっちゃんから学べた気がした。

オーダーの内容が確実に2人前かそれ以上の物だったのを僕は忘れない。



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