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後出しで、書き出し祭りの作品を読んだ時に、思ったことをそっと書き留めるスレッド

 タイトルの通りです。祭り期間中に諸々の都合で読めなかった作品を、結果発表後に読んだ時に(つまり、後出しした時に)、思ったことを書き留めていくためのノートです。結果発表後なので、順位や作者が割れてる状態。時に会場上位のみの感想だったり、時に作者で追いかけて読んだ感想だったり。
 なので、純粋に祭りを盛り上げ、祭りに参加したとは言えない。それでも何か感想を残したい。そんな時に使っていこうと思っています。後出しで上位作品のみの感想だけだったりするので、このノートの目的の9割方は、自分の勉強用の書き留めとなります。あくまで自分用なので、作者様への忖度はしませんが、なぜ上位の好成績を残しているのかなど、基本、「良いとこ探し」をするスタンス。ですので、安心してお読みください。


書き出し祭りについて

 書き出し祭りについては、事務局様のXアカウント(@kakidashi_fes)にて、ご確認ください。端的に言えば、プロアマ合同、匿名で小説の書き出し4000文字の優劣を競うお祭りです。

第二十三回書き出し祭り

 第二十三回は、作者としての参加は見送り、読んで参加させていただく予定でしたが、エントリーしたかった別イベントの原稿締め切りが投票締め切り前日だったこともあり、ごく僅かしか、読めませんでした。そのため、投票の方も見送ってましたが、上位入賞作品はやっぱり気になる。ということで、分析がてら、上位作品(各会場上位3作品。総合順位はあくまで参考値)だけでも読んでおこうと思った次第。
 主催の肥前先生、事務局の皆様、参加者の皆様、お疲れさまでした。上位入賞の皆様、おめでとうございます。勝手ながら、執筆力向上のための肥やしにさせてくださいませ。

結果へのリンク(ショートカット)

 第23回 投票結果シート(書き出し祭り事務局様作成資料)

 作者名公開リスト(書き出し祭り事務局様作成資料)

1-01 最凶魔王の弟子になりまして

§ Data.
§ 順位:第一会場1位(総合2位)
§ 作者:まさかミケ猫

 不思議な魅力を感じる作品でした。
 「不思議な魅力」の一端は、「微妙なバランスで混ぜ合わせられた世界観」にあるのでは、と思いました。
 異世界なのに、「小学四年生」(普通に小学校があるんだ)。
 異世界なのに、「職員室」「担任」(本当に普通の小学校じゃねーか)。
 そして、和風要素と洋風要素の混在。名前も和洋混ぜこぜですし、担任の先生はエルフ種だけれど、主人公は魔族の角魔種と言いつつ、容姿の説明からは、どうも青鬼っぽい。
 さらに、技術レベルの混在。中世風かと思いきや、いきなり出てくる「ドローン」(笑)。
 ……などなど。作者様が狙って、絶妙なバランスで混ぜ混ぜしているのは明らかで、それによって、「見たことの無い、不思議な世界観」が構築されています。
 そして、もう一つの魅力は、「意外性」。勇者と魔王の密約により、世界を二分してそれぞれ統治することになった、までは容易に理解できましたが、まさか、「オス」と「メス」に分けられていたとは。でもって、「メス」が多く所属する魔王大陸は千年の間に隆盛を誇り、「オス」が多く所属する勇者大陸は衰退して……は、いなくて。なんと性転換の能力でカエルが繁殖していた!
 後半の畳みかけるような、意外性の連続が面白いです。
 主人公のキャラクターとしての魅力があまり見えてこない(終始受動的で、主人公自身の課題や目標が未だ見えない)にも関わらず、上位好成績となったのは、この「見たことの無い、不思議な世界観」と「意外性」が際立っていたからかな、って思いました。それが、冒頭で書いた「不思議な魅力」に繋がったのだと思います。こういう書き出しも良いなって思いました。面白かったです。



1-15 使い魔ネモは今日もあくび~千年魔女と現代ダンジョン~

§ Data.
§ 順位:第一会場2位(総合3位)
§ 作者:もけふにゃ子

 キャラクターの設定が上手いです。それも、単にこうで、こうで、こう。みたいな上辺だけの設定じゃない。

「ふふふ、セルピエンテの新しい王は、とんでもない美男子だと言うじゃないか。先々王には世話になったのだもの。惑わしに行ってやらねば」

本文より引用

 コウモリ型のホヤは見張りとして最適だし、ネモの次にイベリスとの付き合いも長い。けれどワニの姿をしたレタは違う。一番若くて、年老いた姿のイベリスしか知らないからだ。
 そう、若い姿のイベリスを見て驚く役をさせるために連れていく。

本文より引用

 台詞や行動でキャラクターを掘り下げているところが、とても良いです。性格を地の文で語るより、遥かに説得力があり、魅力的に映ります。
 そんな魔女一行に待ち受ける危機。転生は成功したものの、全く身に覚えのない場所(現代の日本)で目を覚ましてしまいます。

「なにここ、魔素濃度が低すぎる……ほとんどないじゃない。これじゃ、魔力が回復するどころか抜けていくばかりだわ!」

本文より引用

 その危機が「時限付き」なのが、本当にもう、素晴らしい。時限付きの危機ほど、物語に彩りを添える仕掛けはないです。
 キャラクターの掘り下げ方、そのキャラクターが出くわす危機的状況。素晴らしい書き出しです。面白かったー。



1-03 さよなら、北極星の花唄(うた)

§ Data.
§ 順位:第一会場3位(総合8位)
§ 作者:蒼原悠

 これは凄い。
 自死で仲間を失ったバンドメンバーのなんとも表現しがたい喪失感や、やるせない気持ちがしっかりと描かれつつ、小さな奇跡(いや、生き返ってるんだから、小さくないんですがw)によって、本人が目の前に居ることの安堵と不安の混ざり合った違和感。そうした複雑な気持ちがめっちゃ丁寧に拾われてて、好感。
 加えて、自死を選ぶほどに追い詰められていた筈の、当の本人のあっけらかんとした雰囲気を醸していることのギャップ。

 前のめりなエミの瞳は、澄み切った星空のように華やかだ。きっと賛同を得られるものと信じて疑わない、エゴイズムの極北のような眼光に、あたしの胃はきりりと痛んだ。
 ずっと前から知っていた。
 エミはこういう子なのだと。
 でも、そんなものに憧れているなら、初めから自死など選んでほしくなかった。

本文より引用

 できれば、彼女の未練を晴らしてあげたい。だけど、その後には、再びの別れが待っている。あぁ、もう。せつねー。せつねーっす。
 そこへ持ってきて、店内にも関わらず、復活した身体でも十分に歌えるとメンバーを説得するために、歌いだす。合間で入る回想。
 舞台装置として、設定として、残されたメンバーの心情として、もう目一杯、切なさに全振りしながら、自死を選んだ当の本人の明るいキャラクターでバランスを取ってるあたり、ほんと凄い。
 「少し不思議」と「切ない」が化学反応起こしてて、めっちゃ好きです。面白かったぁ!



2-21 聖剣抜いたら偽王女(男の娘)になったので、国難を"うんとこどっこいしょ"します

§ Data.
§ 順位:第二会場1位(総合5位)
§ 作者:筋肉痛

 キーワード「うんとこどっこいしょ」。誰もが耳にしたことのある『大きなかぶ』の掛け声。大きなかぶの代わりに、この掛け声で聖剣を抜こうとするお話。
 で、「それでも剣は抜けません。」ってなるのは、近々王位継承の儀が予定されている王女さま。
 一方の主人公はというと……。

 スポッ。
 心地よいオノマトペ。
 抜身の聖剣。
 滴る冷や汗。

 ……抜けちゃったよ?

本文より引用

 いとも簡単に引き抜けちゃいます。引用部分の巧みさに感服。ここだけではなく、随所に感じるのですが、小気味良いテンポのある文体が作品にマッチしていて、読んでいて楽しいです。
 本作、一人称が選択されているのも作品の雰囲気にマッチしていて良いですね。
 タイトル前半を1話で回収しつつ、今後の物語の広がりについてもタイトル後半で感じさせ、しかも、詳細不明な「国難」にも関わらず、「うんとこどっこいしょ」と王女と二人三脚で解決しちゃう、その期待値がしっかり1話で感じられて、とても満足度の高い作品でした。
 あと、この世界には、間違いなく『大きなかぶ』のお話がある!(笑)
 面白かったです。



2-17 嘘つき勇者の帰還

§ Data.
§ 順位:第二会場2位(総合9位)
§ 作者:なつき

 どこか懐かしい語り口の「ファンタジー」でした。鍵カッコで括ったのは、昨今のウェブ小説で言うところの「ファンタジー」とはどこか一線を画していて、四十年程前、私がまだ中学生の頃に読み漁っていた「幻想文学」に趣きが似ています。
 丁寧に緻密に、その細部まで描き出す具象的な言葉が並ぶのに、組みあがった文体は抽象的で霧に包まれている。そんな印象です。なので、物語そのものも、半ば読者に委ねられていて、人によって解釈が違ったりしそうですし、それが許容される作品なのかなって思います。そういう作品、しばらく読んでなかったな、って気付かされました。
 さて、この物語の主人公は、手の甲に『翼ある太陽』のアザが刻まれた少年です。このアザは、聖剣ティストルの精霊から「勇者」と呼ばれるに値する力を得た代償のようなもののようです。力を行使可能であることの証であり、その代償を背負う運命を負うことの証、呪いでもある……。
 彼は、艱難辛苦を乗り越えて、聖剣ティストルの元に「帰還」します。聖剣ティストル以外の誰もが信じない思い出話を引っ提げて。恐らくそれは、彼を「勇者」と呼ぶに相応しい偉業であり、その偉業を為すために得た力の代償故に、誰からも信じてもらえない状態にあるのでしょう。
 なので、「歴史に残らない」し、「嘘つき」呼ばわりされてしまう。少年自身と聖剣ティストルだけが知る真実。そんな物語について、2話以降で語られる、とそう受け止めました。
 実は、こちらの作品、これまで私が信じてきた、書き出しにおけるセオリーには当てはまらない部分が多い作品でした。ですが、その魅力は微塵も陰りがありません。
 だとすると、この作品を読んで投票した皆さんも、私同様、懐かしい「幻想文学」の香りをかぎ取ったから、なんじゃないかなって思います。バーコードやICチップでの読み取りが全盛となる以前、巻末のポケットに入っている貸し出しカードに自分の名前を記入して本を借りていた頃に、文学少年や文学少女だった皆さんが、読みたかったファンタジー。それがここにあるのかもって思いました。とても素敵な作品でした。



2-03 魔王城直前で魔王軍に寝返りましたが、ゆるしてくださいますよね、勇者様?

§ Data.
§ 順位:第二会場3位(総合10位)
§ 作者:槙村まき様

 ファースト10(書き出しに書かれていると加点要素となる大事な情報)が、必要十分に盛り込まれている作品だなって思いました。

 ファースト10については、こちらの動画が分かりやすいと思います。
 さらに詳しく知りたいって方は、フィルムアート社刊『「書き出し」で釣りあげろ』などを参考にされてください。

 さて、こちらの作品。まず、主人公について、とても明確で、敵対関係もきちんと示されます。世界設定も容易に把握でき、1話目からいきなり主人公の価値観をひっくり返すような出来事が起こります。そしてその問題解決のための道筋と目指す目標も示され、主人公は決意をもって新たな一歩を踏みだす……ここまでが全て1話目に詰め込まれています。
 か・ん・ぺ・き。
 これで面白くないわけないやん、というお手本のような書き出しです。
 完璧すぎるので、つい欲をかいてしまうのが、私の悪い癖なんですが。
 魔王と聖女がタッグを組んだら、チート級に強そうで、勇者への復讐なんて、簡単に成し遂げられそうに感じてしまいます。でも、きっとそうではない筈。「勇者への復讐(=最終目標)」とは別に、直近の克服すべき課題が立ち塞がっていると思います。それについてもチラッと、1話の中で感じられると良かったかなって思いました。
 ごめんなさい。無茶を言いました。自分も書き出し祭りには、何度も参加させていただいたので、四千字という文字数制限がいかに、ラスボスか、認識しています。自分は、ファースト10などと言いながら、いつも半分くらいした詰めこめないです。ですので、これだけの情報を必要十分に盛り込んでおられる本作、素晴らしいと思います。
 面白かったです。



3-01 片ロール令嬢のドリルは伊達じゃない

§ Data.
§ 順位:第三会場1位(総合4位)
§ 作者:早見羽流

 この作品。まさに、設定の勝利って感じの作品でした。

 ──ドリル。

『縦ロール』とも言われるそれは貴族令嬢にのみ許された頭の左右にぶら下がる円錐が特徴の髪型であり、令嬢の価値を決めるもの。ドリルが大きければいいという訳でもない。形、色合い、毛並み、全てを兼ね備えたドリルこそが至上。貴族令嬢の中で最高に優れたドリルは『神のドリル』と呼ばれ、『神のドリル』を持つ者は王家に嫁ぐ権利を与えられる。
 顔立ちや体型や教養、家柄問わず、ドリルによってのみ令嬢の人生が決定してしまう。それがこの国の習わしだった。

本文より引用

 目の付け所が良すぎる。その上、『神のドリル」(笑)
 まるで由緒正しき宝剣を崇めるように、トンデモな価値観に縛られた世界を構築してるのが、とても面白いです。
 その上、『神のドリル』にもっとも近いと言われる主人公の姉のドリルが損なわれてしまうという大事件。数日後には、数年に一度王家にドリルを披露する『御前披露会』が開かれるというタイミングで。
 そんな事件の中、浮上する容疑者が3名。さらに、姉は、片ドリルの主人公に姉の名代として『御前披露会』に出席するよう持ち掛ける。
 この先、ドリルを巡る陰謀の渦中を泳がねばならない主人公。その上、姉のドリルを損なった犯人捜し。ドリルを軸に貴族令嬢たちの思惑錯綜する権力争いの物語としても、また、犯人捜しのミステリーとしても楽しめるってわけですよ。「ドリル」で! 「ドリル」なのに!
 まさに、この「ドリルは伊達じゃない」。
 めっちゃ面白かったです。高順位なのも納得の作品でした。



3-19 【速報】十年後の世界から来た俺が、何故か「美少女」で「勇者」だった件!

§ Data.
§ 順位:第三会場2位(総合7位)
§ 作者:柚子猫

 一人暮らしを始めたばかりの主人公の部屋の玄関先に、グッズを集めて部屋に飾る程推しているゲームのヒロインそっくりな美少女が突然現れます。
 想像してみましょう。艦これのリベッチオとか、サミュエル・B・ロバーツとか、あるいは、ウマ娘のライスシャワーとかが、玄関先に現れて、「私はジンパパ、十年後の世界から来た勇者なんです!」とか言うわけでしょう?
(ジンパパの癖なんてどうでも良いでしょうが、一応キャラ紹介ページへのリンクを貼っておきます)

 さて。もし、私にそんな事が起きたら。果たしてその美少女の言葉を信じるか?
 まぁ、9割9分「んなわけ、あるかーい」ってなりますよね。でも、そうは思いつつも、残りの1分で「いや、そういう事もあったりするんかもなぁ」って思っちゃいますよね! だって推しキャラですよ? 自分の好みドストライクなわけですし。性癖にぶっ刺さってるわけですし。軽々に信じちゃいそうになるの、仕方ないと思います! さらに。
 ――騙されてようと、騙されていまいと、構うものか! この奇跡のような瞬間を手放さないことが肝要! って、なるのは必至。運命なのです。主人公くん。騙されちゃっても、仕方ないって。聖女様が許さなくても、私の煩悩が許してる。
 で、その聖女様。何やら、こちらも妄想をこじらせて、会う前から勇者様に幻想過多な思い入れをお持ちな様子。で、そんな勇者様が会ってみると、まんまと魔王に篭絡されちゃって、世界の混乱を引き寄せちゃってるもんだから、好意が180度反転、殺意に昇華されてしまう……。
 くぅ! 面白い!
 あと、タイトルに付いてる【速報】も良い味出してると思います。どこの誰がどちら方面に向かって、「速報」打ってんのwww
 楽しくて、面白い書き出しでした。いやぁ、楽しいです。これ。




3-13 紫紺の瞳は闇を視る 化け込み記者・長月千代子の大正あやかし事件録

§ Data.
§ 順位:第三会場3位(総合15位)
§ 作者:悠井すみれ

 タイトルだけで、読みたくなってしまう、吸引力満点の作品です。「大正」「あやかし」「事件簿」の3つのキーワードで、3ストライク決まって「ターキー」です。もしくは、3ゴール決まって「ハットトリック」です。
 ところで。「化け込み婦人記者」っていう、潜入取材を行う婦人記者ってのは、実際にあったんですね。知りませんでした。

 そんな潜入取材を行う化け込み記者に、あやかしを絡めて、これでつまらなかろう筈がない。設定からして、もう面白い。
 加えて、わずか四千文字の冒頭なのに、化け込み記者として潜入した家の令嬢が後妻に殺されてしまった事件を触りだけでなく、見事に解決し、さらに主人公の特殊技能の由縁に触れて、今後、何かとバディを組むことになりそうな人の良い刑事さんも登場する、完璧な書き出し。
 ジャンル、題材に新鮮味があって、加えて、作品冒頭としての書き出しが完璧で。私が今回読ませていただいた12作品の書き出し冒頭の中では、一番好きなお話でした。どのくらい好きかと言うと。「書店で帯の煽り見て、購入したくなる」レベルでした(この表現で、果たして伝わるのか?)。とにかく、とても、面白かったです。



4-07 それいけ聖犬フェンリル!〜うちのしず江(14)はシーズーです〜

§ Data.
§ 順位:第四会場1位(総合1位)
§ 作者:ちょもんぬ

 愛情をもって家族として接する老犬飼いの犬派読者はもとより、もふもふなお話が大好物な方面にぶっ刺さる、素敵な書き出しのお話でした。
 召喚(落下)描写にしっかりと尺を取っているのが面白いです。その最中に、主人公の感情や愛犬の描写が巧みに盛り込まれ、飽きさせず、主人公と愛犬の関係性が見えてくるのが上手いですね。
 そして、主人公たちを召喚した神官たちに、老犬なので、伝説の言い伝えのような展開は望むべくもないと説明するくだり。最初は聞く耳もたない感じで押し付けてきた彼らが、主人公の説明に戸惑いを覚え、言葉をなくします。
 とどめは、主人公の最後の独白。「どうすんだこの空気」。
 2話以降、どんな展開になるのか、打開の道があるのか、そして、召喚の主目的である「魔王を倒す」使命をまっとうできるのか。まったく見えません(笑) まさに、「どうすんだ」状態。なのに、そんな空気自体を存分に楽しんでくれ給え、っていう作者様からの提案を素直に、「はい、楽しませていただきます!」って言いたくなる、この雰囲気。
 こちらの作品も、一人称で主人公の独白多めなのが、功を奏してますね。めっちゃ面白かったです。



4-12 アリス、甘やかに微睡いて。

§ Data.
§ 順位:第四会場2位(総合6位)
§ 作者:ラビきち

 「微睡いて」でつまづく私。「微睡(まどろ)いて」? 「微睡(びすい)いて」? 「微睡(まどろみ)いて」? あるいは、「微睡(doze)いて」?
 ――ここは、正解が導けず。観念して、あとで作者様にお聞きすることにします。

 さて、本文。素敵。すばら。こういうの好き。大好き。
 魔女が人間を消し去った世界で、人工物として作られた少女のお話。純真さ、無垢さといった少女性を「アリス」という名前に込めているのも、彼女の創造者にして保護者である博士の表面上の善性と秘めた悪性の二面性を「ジキル」という名前に込めているのも。とても面白いです。
 ちなみに、『不思議の国のアリス』の作者は、イギリスの作家、ルイス・キャロルが1865年に出版した作品。『ジキル博士とハイド氏』は、同じくイギリスの作家、ロバート・ルイス・スティーヴンソンが1886年に出版した作品。どちらもイギリスの作品で、ルイスの共通点があるのも面白いです。
 「色」が効果的に使われているのも素敵です。「白いアリス」がジキル博士と共に、「赤いアリス」や「緑のアリス」に会いにいく。
 寓話的でありながら、風刺的。少女はこの旅路の末に何を得て、何を失い、どんな色になっているのか。そんな興味を掻き立てられる書き出しでした。


4-03 喫茶『古灯』は深夜零時から

§ Data.
§ 順位:第四会場3位(総合13位)
§ 作者:カブの記録

 たちこめる珈琲の香りが現(うつつ)世とあの世の境目を曖昧にする。そんな雰囲気たっぷりな喫茶店。良いですよね。
 そして、普段なら死者の集うその店に迷い込んだ一人の少女。彼女は死者ではなく、恐らくは死別したと思われる父への憧憬を引きずってて、なぜかこの店を見つけてしまう。
 そんな彼女が飲んだ珈琲は、元来生きる者が嗜むべき飲み物ではなかったために、肉体と魂が分離してしまうというアクシデント。
 死者との会話を通して、ほろ苦く、切ない雰囲気のお話としても、アクシデントを解決するちょっとしたコメディ要素も。どちらも楽しめそうな塩梅の書き出しがとても素敵でした。
 面白かったです。



 私自身、何度も書き出し祭りに参加させていただき、色々読ませていただいてきたので、わかります。高順位となった作品だけが全てではなく、面白い作品は、まだまだ沢山ある、と。以上、各会場3位までをみてきましたが、いずれ劣らぬ面白さ。4位以降も優劣付けがたいのは、間違いない。ですが、今の自分に割けるリソースの中で、学びを得るために「効率」を重視した結果、このような形の感想となりました。ご了承ください。
 尚、「ジンパパの癖(へき)は把握している。私の作品、絶対に刺さるから、読め!」とか、「お前の感想からしか得られない栄養が、今の私には必要なんだ!」という熱いご依頼には、出来る限りお応えしたいと思っています。

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