ビットコインの始まりを改めて整理する。
背景・目的
背景
近年、ビットコインを始めとして、ビットコイン以外の仮想通貨とされるアルトコインの市場や技術的進化の成長がすごい。2024年3月には1BTCあたり1000万円を超える金額ともなった。元祖・仮想通貨とも言われるこのビットコインは一般的にサトシ・ナカモトという正体不明の人物または組織によって提案されたとされている。2008年10月31日18時10分(UTC)にCryptographyという暗号学のメーリングリストに「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」と題した論文を投稿したことから始まるとされている。この論文について解説記事はさまざまあるため、内容については簡単にしか触れないが、このろんぶんの内容は意外にも画期的でありながら、新技術的なものではないことも知られている。ビットコインのシステム(ブロックチェーン技術ともいう)が始まる背景について、改めて、この記事では整理をしていきたい。
目的
本記事では一般的にビットコインの始まりとされているホワイトペーパーの「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」の簡単な概要の理解及びサイファーパンクなどの社会的背景を改めて整理することによる社会的、思想的なビットコインのシステムの誕生を理解することを目的とする。
本記事の構成
以下に本記事の構成について示す。
ホワイトペーパー
この論文の内容のポイントをまとめる。
Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(原文)
Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(日本語訳)
この論文は、導入(Introduction)から結論(Conclusion)まで12章の構成で書かれている。それぞれの章で書かれていることについては、様々なページがあったり、chatGPTに聞けば端的に回答しもらえるので、そちらを参照してほしい。ここでは、論文で書かれていることの中から少しピックアップをして見てみようと思う。
前提として、この論文は1文目にあるように**「P2Pネットワークの使用による、二重支払い問題の解決策を提案」**をするものである。支払いをする上で何が起こるのかを考えながら読んでほしい。通常の円を使った支払いで考えてみる。現在の貨幣(円やドルなどの法定通貨)では、物と物の媒介として使用されるものとなっている(交換過程論については割愛)。物々交換というのは、正直ハードルが高い。
貨幣というものがなぜ「貨幣」として存在できるのかというと、以下のような性悪説的な部分や価値の尺度として用いられるためである。
魚と野菜の交換した後では、食べたらなくなるため、物的な証拠がなくなると嘘がつき放題
マグロと大根が同じ価値といえるのかどうかの定義や基準が必要
売買はいわゆる取引の一種だが、その証拠として貨幣があると実物が存在し、物的証拠になることもあり得ることもできる。しかしながら、ビットコインでは、実物が存在しない。実物は存在しないが、取引の履歴が残り、そこに悪者が入って悪戯できないようにしたいということが論文が目指した提案だ。その方法として様々なものを組み合わせたブロックチェーン技術が提案され、検証されたといえる。
二重支払いを防ぐシステムの提案として、論じられており、それを実現するために支える技術としては、以下の内容が挙げられるとされている。
Peer-to-Peerネットワーク(P2Pと略されることも多い)
公開鍵暗号方式
暗号学的ハッシュ
それぞれについては、別記事に掘り下げるが、これらの技術は、2008年の時点でもうすでに存在している学問と技術であった。Peer-to-Peerネットワークを使用したサービスで有名なもので言えば、Skypeが代表的なものだろう。Skypeは2004年7月27日に初版としてリリースされている。ビットコインより先である。公開鍵暗号方式の始まりとされているのは、1976年に発表された「デフィー・ヘルマン鍵共有」という方法が始まりとされている。ハッシュ関数に様々な種類はあるが、論文上にあるSHA-256はSHA-2という種類の中の1つである。このSHA-2は2001年に提案されたものである。
このようにして、どの技術においても単体でそれぞれ存在し、研究、改善されてきたものであり、これらは特段、特別なものではなかった。しかし、これらを組み合わせることで二重支払い問題を解決したシステムを開発したことに意味がある。
サイファーパンク運動
サイファーパンク運動は社会や政治を変化させる手段として強力な暗号技術の広範囲な利用を推進する活動家たちによる1980年代末から始まった活動だ。この運動では、主に以下のような内容のプロジェクトが動いていた。
サイファーパンク運動のもっとも重要な思想は、暗号技術を用いてセキュリティの向上やプライバシーの確保を目的とした活動を主な内容としている。要点を求める。
プライバシーの重視:個人の通信や取引のプライバシーを保護するために暗号技術を利用。
中央集権への不信:政府や大企業などの中央集権的な権力に対する不信感から、分散型システムを支持。
自由な情報流通:情報が自由に流通し、誰もがアクセスできるようにすることを目指す。
DigiCashでは匿名性であったり、PGPではデジタル署名(暗号化技術を使用)が使用されている。リバティ・ネットでは分散型ネットワークの思想を持っていることやあえて情報を非公開しながらも正当性を証明することなど様々な観点で動いてきた。現在に至ってもこういった運動は存在する。このような形で、Peer-to-Peerネットワークや公開鍵暗号方式、暗号学、デジタル署名などを用いて、システムとして構築されたものがビットコインである。
デジタルゲームとビットコイン経済圏の思想
マルチゲームの中でのコイン
マルチゲーム内のコインは、ゲームのエコシステム内で使用される仮想通貨です。これらのコインは通常、以下のような特徴を持っている言える。
中央集権的管理:ゲーム開発会社や運営が発行し、管理します。コインの流通量や使用条件は、中央管理者によって決定される。
特定の用途:ゲーム内のアイテム購入、キャラクターの強化、特別なイベントへの参加など、ゲーム内の特定のアクションに使用される。
限定された経済圏:コインはそのゲーム内でのみ価値を持ち、外部の経済とは独立しています。ゲーム外での取引や価値の移転は通常できない。
インフレーション管理:運営者が新しいコインを発行することで、インフレーションをコントロールし、ゲーム内の経済バランスを保つ。
アカウントBANの影響:ゲーム運営者が規約違反や不正行為を理由にアカウントをBAN(アカウント停止)すると、そのアカウントが保有するコインやアイテムは全て失われる。ユーザーはコインやアイテムへのアクセスを完全に失い、再取得も不可能。
ビットコイン
一方、ビットコインはデジタル通貨であり、以下の特徴を持っていると言える。
分散型管理:ビットコインは中央管理者を持たず、ネットワーク全体で管理されます。トランザクションの検証や新しいビットコインの発行は、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)アルゴリズムに基づくマイニングによって行われる。
ユニバーサルな用途:ビットコインは、特定の用途に限定されず、広範な取引や価値の保存手段として使用される。国境を越えた取引や商品・サービスの購入にも利用可能。
グローバルな経済圏:ビットコインはグローバルなデジタル通貨であり、どこでも価値を持ち、取引できる。インターネットがある場所ならどこでも使用可能。
デフレーション管理:ビットコインの総発行量は2100万BTCに制限されており、インフレーションのリスクが少ないように設計。マイニングによる新規発行量は時間とともに減少する。
アカウントBANの影響:ビットコインは特定の中央管理者が存在しないため、アカウントBANという概念がない。ユーザーが自分の秘密鍵を管理している限り、ビットコインへのアクセスは誰にも制限されない。これは、個人の資産が外部の決定によって凍結されたり没収されたりするリスクがないことを意味する。
こうして、比較を行うと経済ごっこをしている2種類でも全く異なり、優位的なところはそれぞれある。そして、もっとも根底にあるのは、インフラ設計と信頼という側面での観点として重要なことだ。この観点で見ることについて、少しの実例から考察をしてみる。
インフラストラクチャーとは「下支えする」というような形の意味で、道路・鉄道・港湾・ダム・上下水道・インターネット接続(ブロードバンドインターネット接続を含む)など産業基盤の社会資本、および学校・病院・公園・社会福祉施設等の生活関連の社会資本など、民間の物理的な改善で構成され、 一般に「社会生活条件を可能にし、持続させ、または高めるのに不可欠な商品およびサービスを提供する相互に関連するシステムの物理的構成要素」としても定義されてきたようだ。
このインフラとして見るべきの第一要素は、「持続的であるか」ということだ。ここに通称、垢BANや倒産、サービス停止といった項目をみなければならない。インフラは持続的でなければならない。そして、その持続性が信頼へとつながる。一般的なTradFi(Traditinal Finance)では財閥解体から始まる中央銀行や地方銀行、日本銀行がすべてを握っており、信頼というものがされている。その信頼されている銀行のATMで出金できない事例もあるが、根本的に利用者が使えなくなってしまうような仕組みは果たして持続的となるのだろうか?銀行という巨大なものに対して今や日本においては特段、何も思わない人たちも多いが、リーマンショックやオイルショックなどにより、銀行ですらも潰れていることがある。その信頼している組織がなくなってしまった場合に、「お金」という概念のものが返ってこない、消えてしまう可能性が出てくる。
しかし、そういった面でビットコインをはじめとしたブロックチェーン技術を用いたシステムはP2Pネットワークをはじめとした技術によって、分散化され、どこかが落ちたとしてもシステム全体が落ちることは基本的にはない。暗号資産交換業者といったところのCeFi的なところを経由するのであれば別の話だが、プログラムを組み、自分でブロックチェーンに直接アクセスできるのであれば、こういった信頼は不必要になる。これがトラストレスの概念の根本的な考え方の流れだ。
こうして「インフラ」と「信頼」についても暗号技術を用いて考えようとしたサイファーパンク運動から生まれ、ホワイトペーパーまで繋がったものとなる。