31歳の引退セレモニー
年齢にこだわっているわけではないが、
たまたま前回の記事と対をなすようなイベントに参加してしまったので、
そのお話を少しばかり。
ベイスターズの中井大介氏の引退セレモニーを観た。
中井選手はジャイアンツで11年プレーをした後、
戦力外通告を受け横浜の地にやってきた。
いろんな守備位置をこなすユーティリティープレイヤーとして
ベイスターズでも3年間それなりの活躍もしたが、
ジャイアンツで4番を任された時期をピークにして、
その後の選手生活はけして華々しいものではなかった。
正直今回のセレモニーもチームの負け試合の後、
寒空のもと待たされた挙句行われ、
もう少しで音を上げて早々に退散するところであった。
が、帰らずによかったと心から思った。
マイクの前で彼が残したス引退スピーチは
私が今まで聞いた同様のメッセージの中でも
とりわけ心を揺さぶられるものだったのである。
「14年間の現役生活では、誇れる成績を残せることはできませんでしたが」
と自らを客観視しつつ
「すべての出会い、すべての経験のおかげで、人として成長できたことが、現役生活の最大の誇りです」と、
振り返った。
結びに自分を育ててくれた両親や、
妻と子への思いを声を詰まらせながら伝えた時、
球場は観客の嗚咽で包まれた。
もちろん今回のスピーチが彼の心の内すべてだったのかはわからない。
人には言えない無念さや後悔は
どこかにしまい込まれたままなのかもしれない。
だがそんな彼だからこそ、一つ一つの誠実な言葉の選び方に、
偽りのない感謝の念が込められていて、
人としてのあるべき姿を今更ながら思い知らされたのである。
翻って私はどうだったか。
会社に勤めた34年間、彼のように自分を客観視し、
限界を認め、
人に感謝の言葉を伝えられたか。
仕事がうまくいかないことを誰かのせいにしていなかったか。
イベントの最後に中井選手が息子さん(5歳くらいのかわいい盛り)と
手をつなぎながらグラウンドを1周する。
飛び跳ねながら楽しそうに手を引かれている息子さんを見て、
伝えたくなる。
「お父さんカッコイイね。誇らしいね。世界一のお父さんだね」
31歳と言えば普通の社会人でいえばまさにこれからが旬という年齢だが、
アスリートは「引退」というコトバをこの歳にして使うことになる。
私はようやく60歳を目前にしてサラリーマンを引退した。
そして今もこうして若者に教えられるのである。
もっともと尊いことは、
何をなし遂げたのか、ではなく、どう生きたのか、であることを。
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