Dmail Network: Decentralized EMail for the Web 3 Generation
ご存じでない方も多いかもしれませんが、ファックスの前身である電気印刷電信機が特許を取得したのは1843年のことです。その数十年後、レナード・クラインロック(下段写真)が、「コンピューターは互いに話し合う運命にあるという確信に駆られた」と発言しています。その結果、電話のように簡単に使えるネットワークができあがり、1969年には、単語としては不完全でしたが「Lo」の2文字が初めて「Eメール」として送信されました。
現在では、以下のような数多くの電子メールサービスプロバイダーが存在しています。
□メインストリーム
GoogleのGmail
MicrosoftのOutlook
AppleのiCloud Mail
□プライバシー重視型
Protonmail
Tutanoto
これらに共通しているのは、それぞれが自社の管理下にあるサーバーでホストされているということです(例えば、Protonmailはスイスの、Google/Microsoft/Appleなどは世界中にあるサーバーでホストされています)。
にもかかわらず、これらの企業は長年にわたってかなりの数のユーザーを獲得することに成功しており、Gmailは「全世界で約15億人のアクティブユーザー」を抱えています。つまり、15億人のGmailユーザーは、Gmailが稼働している限り、潜在的なプライバシー問題を気にすることなく、毎日(あるいはそれに近い状態で)楽しくメールを送受信しているということになります。
では、それらが不具合を起こしているわけでないのであれば、なぜ改善をする必要があるのでしょうか。
⭐️ Dmail Network
インターネットコンピュータ上で初となる分散型電子メール
『Dmail Networkは、DFINITYをベースにした新しい分散型のNFT電子メールインフラで、インターネットの最新の発展に伴う人々の新しい要求に応えるために、Web 3.0時代に向けて設計されています』
出典:https://medium.com/@dmail_official/dmail-a-new-infrastructure-in-the-web-3-0-era-7e4e26d77a57
Dmail(今はもう存在しないChromeブラウザ拡張機能のDmailとは別物)については、私もこちらの記事を読むまで知りませんでした。
https://www.coinspeaker.com/dmail-a-new-infrastructure-in-the-web-3-0-era/
Dmailは数ヶ月前から活動していたようで、2021年9月中旬には「10月に開催されるDFINITYの公式ハッカソンに申請した」というツイートがされています。
そして期待通り、DmailはDmailのデモ版を配信しただけでなく、Wanxiang Blockchainのハッカソンの1パートとして「スポンサー賞」を獲得しました。
では、Dmailはどんな問題を解決しようとしているのか、そしてそもそも、本当に問題は存在しているのか。
Dmailは、以下のようないくつかの問題があると考えています。
□サービスの継続性
『2007年、Mashable社はGmailではない75のメールサービスのリストを発表しました。その後、それらのメールサービスのうちどれだけが閉鎖されたか知っていますか? 59%です。つまり、リストに掲載されているプロバイダーのうち、5社に2社しか現在も運営されていないということです』
(出典:https://www.atmail.com/blog/email-services-shut-down/)
□データの所有権
『4月のある朝、私のYahooメールアカウントは理由もなく使えなくなってしまいました。アカウントが停止してから7週間の間に、私はYahooのカスタマーサービスに12時間ほど電話をかけ、少なくとも15回は同社とやり取りをしました。
しかし、いまだにメールアカウントは戻ってきません。
それ以来、問題はセキュリティ上の脅威ではないことがわかりました。所有権の問題だったのです。そして、もしあなたのメールアカウントが解約されたとしても、それを復活させることは期待できないでしょう』
(出典:https://www.reuters.com/article/us-yahoo-email-terminated-idUSKBN0EE22P20140603)
□プライバシーに関する懸念
『Gmailが収集し、広告主と共有している情報の多くは、メタデータ(データに関するデータ)です。しかし、Google の他のサービスからの Cookie を使用すると、Google マップや YouTube などの関連製品からユーザーの行動が関連付けられたり、「フィンガープリント(個人の特定)」されたりする可能性があります』
(原文:https://www.theguardian.com/technology/2021/may/09/how-private-is-your-gmail-and-should-you-switch)
□広告の氾濫
『企業はあなたに自社の製品を買ってもらいたいと思っており、メールはそれをあなたの目の前で見せるための優れた方法です』
(出典:https://www.theatlantic.com/technology/archive/2021/08/why-stores-send-you-so-many-emails-spam/619670/)
■「(現状の)Web3では分散型の電子メール標準が欠如している」
『Web3.0の時代の発展に伴って、従来のメールはブロックチェーンのアップグレードに追いついていませんでした。それゆえ、Dmailはこの問題を解決するために多くの研究を行い、より多くの伝統的なインターネットユーザーがより低い参入障壁でブロックチェーンにアクセスできるように、新しい方法で、Web3.0時代と伝統的なインターネットの橋渡しをしたいと考えています』
現時点では、従来の電子メールと分散型電子メールの間にはブリッジがないため、例えばDappとGmailの間で電子メールを送受信することは非常に困難です。(出典:https://dmail.ai/Dmail_litepaper.pdf)
それでは、なぜDmailをインターネットコンピュータ上に構築するのでしょうか?
Dmailが上記で指摘された問題をどのように解決できるかを発見する前に、なぜDmailがインターネットコンピュータを活用してこれらの問題を解決するのかの理由を考えるべきでしょう。
『既存のサービスと比較して、Dmailの最大の利点は、高度なデータセキュリティである。
他のパブリックチェーンと比較して、様々なアプリケーションとのシームレスな接続を構築し、無限のパフォーマンスを発揮することが強みである』
(出典:https://medium.com/@dmail_official/why-did-the-new-generation-mailbox-dmail-choose-to-deploy-on-the-dfinity-network-f764f28c55e8)
しかし、ブロックチェーン上で構築されたDappsのほとんどは、先に指摘された問題の大部分に対応していることを考えると、なぜ他のブロックチェーンではなくインターネットコンピュータが選ばれたのかと思うかもしれません。取り急ぎ、インターネットコンピュータは他のブロックチェーンよりも少しだけ優れたことをしていると言っておきましょう。
特にDmailは、インターネットコンピュータ上に構築する主な理由として、以下の点を考えています。
(👉なぜDmailをインターネットコンピュータ上に構築するのか)
1. 低いガス料金
何かしらの操作やメールの送信のたびにお金を払いたい人はいないでしょう。インターネットコンピュータ上に構築されたDappsとの連携においては、逆ガス料金モデルにより、支払いの必要はありません。
(逆にメールの送受信のたびに(どんなに小さくても)料金を支払わなければならないことを想像してみてください)
2. 強力なスケーラビリティ
Dmailは、DFINITYがETH 2.0などに比べて優れていると考えています。これは、インターネットコンピュータ上のサブネット(またはシャード)を統合したり、削除したり、特にネットワーク需要の増加に応じて追加したりする際に、「拡張プロセス中にDappsのサービスを停止する必要がない」という点です。
3. 相互運用性(インターオペラビリティ)
連鎖鍵(チェーンキー)暗号方式により、インターネットコンピュータ上のDappsや、Ethereumを含む他のブロックチェーン上のDppsとの相互運用の可能性(インターオペラビリティ)が広がります(Ethereumとの直接統合が予定されているため、より一層の可能性が広がることが分かります)。
上記に加えて、Dmailは、Dmail(および/またはインターネットコンピュータ上の他の分散型電子メールアプリケーション)と従来の電子メールとの橋渡しをするために、特にMIMEに基づく新しい標準を開発しています。
『上記の問題を解決するために、RFC8555プロトコルをベースに完全なブロックチェーンデータ構造を定義しています。Dmailはこの規格と解決策をIANAに提出しています』
(出典:https://medium.com/@dmail_official/why-did-the-new-generation-mailbox-dmail-choose-to-deploy-on-the-dfinity-network-f764f28c55e8)
■Dmailはこれらの問題をどのように解決しようとしているのか
従来のメールプロバイダーのユーザーデータは、中央集権型のサーバーに保存されており、それ自体がDmailが解決しようとしているすべての問題の原因となっています。
これらの問題を解決するためにDmailは、ハイレベルで以下の提案をしています。
□サービスの継続性/データの所有権
Dmailは、そのロードマップによれば、2022年第2四半期にDAO(Decentralized Autonomous Organisation)として統治されることを計画しています。提案されているService Nervous Systemが開始される予定であることから、DmailがDAO化される可能性は非常に高く、中央集権的な機関がDmailをコントロールすることがないため、サービスの継続性が確保されることになります。
これは、Dmailがインターネットコンピュータ上に構築されているという事実に加えて、それ自体が、サービスを停止させることができる中央のサーバーや制御機関を持たないweb3分散型プラットフォームであるということです。
□プライバシーの問題/広告の氾濫
インターネットコンピュータのコア技術(VRFとBLS)は、データの安全性と速度を確保するコンセンサスメカニズムを稼働させるだけでなく、ユーザーのプライベートデータは暗号化され、後述するユーザーのプライベートキャニスターにオンチェーンで保存されます(これ自体ですでに非常高い安全性が担保されます)。
また、Dmailでは、ユーザーの実際のDmailアドレスの代わりに "Alias"(「エイリアス」)を使用することで、さらなるプライバシーの確保が可能です。
『ユーザーは、メール・アカウントとしてチェーン・アドレスを置き換えるためにエイリアスを設定します。ユーザーは、アセット以外のやりとりの際に、チェーンアドレスを他のユーザーに公開する必要はありません。例えば、alice@Dfinity.domain.com は、staghkhshsooxXmcg6HJuHvJJKougzt...@ Dfinity.domain.com と同じになります』
(出典:https://dmail.ai/Dmail_Deck.pdf)
Dmailとの機能の比較
■Dmailの特徴について
Dmailは、従来のメール空間にすでにあるものと同様のメール機能を持ったDappになるだけではありません。これに加えて;
・ユーザーは、(例えば)Internet Identityを使って安全にログインできる(パスワードは不要)
・各電子メールアドレスは、それ自体が完全に取引可能なNFTとなる。(作成され、各ユーザーに自動的に割り当てられるが、ユーザーは「チェーンアドレスの不必要な公開を避ける」ためにエイリアスを作成することができます)
・ユーザーは、従来の電子メールアドレスに電子メールをシームレスに送信することができる(添付ファイルを含む/その逆も同様に可能)。
・Dmailには、ICPだけでなくNFTも保存・送信できるウォレットが内蔵される(ユーザーのDmailウォレットに直接エアドロップすることもできます)。
・他のDappsがDmailとシームレスに統合できるオープンAPI:外部のNFTマーケットプレイスへのアクセスも可能(可能性が高いものとして、ICPunks、Entrepot、クロスチェーンではOpenSeaなども)。
・ステーキングを含むDeFi機能の可能性。
・DAOを介したコミュニティによるガバナンス。
・分散型のクラウドストレージ。
・ユーザーは、プライベート・重要度の高い・長期保存が必要な添付ファイルなどをクラウドのディスクストレージにアップロードし、いつでも呼び出して照会ができる。
■Dmailの仕組みについて
キャニスターの割り当て
Dmailでアカウントを作成すると、ユーザーの個人情報の保存場所としてキャニスターが割り当てられます。キャニスターは、暗号化アルゴリズムによって暗号化されて保存されます。プライバシーやデータ主権の観点から、ユーザーに割り当てられたキャニスターのデータは、ユーザー本人のみが呼び出したり閲覧したりすることができます。
□Dmailのメッセージ
Dmailによると、ユーザーの電子メールは次のように分割されます。
・ヘッダー
これは電子メールのヘッダーで、電子メールのボディ(電子メール・メッセージを含む)とは別個に「オンチェーン」(「ハッシュ」の形)で保存されます。
・ボディ
実際の電子メールのメッセージ自体(本文)は、「トークン」を使って暗号化され、「Bigmap」を使って複数のキャニスターに分散して保存されます。Dmailによると、「複数のキャニスターを複数回バックアップすることで、迅速な容量拡張とストレージのセキュリティのバランスを実現する」とのことです。
電子メールの受信者は、同じ「トークン」を使って受信側で復号することができます。
Dmailはまだ開発中であるため、この「トークン」の仕組みが実際にどのように機能するのか、全体像との兼ね合いも含めて、今後の情報収集が必要である。
□Dmailの概要
出典:
■デモ・ウォークスルー
Dmailは、インターネットコンピュータ上で動作するDmail Dappのデモを開始しています。Dmailの多くの機能はまだ使用できませんが、Dmailや従来の電子メール・プロバイダーにメール送信・返信することはできます。
筆者は、自分のGmailアカウントにテストメールを送り、GmailからDmailに返信をしてみたところ、どちらも成功しました。
以下にDmail Dappの分かりやすいチュートリアル(音声なし)を掲載しています。
★電子メールの作成と送信
★その他機能の利用について
■プロジェクトのロードマップ
出典: https://dmail.ai/Dmail_litepaper.pdf
『ブロックチェーンのメールボックスは、従来のメールボックスと特に違いはないが、Dmailの開発ロードマップによると、単機能のメールボックスから資産取引プラットフォームへの転換を経験することにる』
(出典:https://medium.com/@dmail_official/how-to-transform-traditional-mailboxes-with-dmail-18ad4821e3b1)
Dmailは、非常にタイトなスケジュールではありますが、ロードマップを策定しており、今後1年ほどの間に、開発者が管理するメール送信型のDappから、コミュニティ/DAOが管理するマルチブロックチェーンプラットフォーム対応のメール送信・資産取引型のDappへと発展していきます。
DmailでNFTを保有・取引することは非常にエキサイティングなことですが、Dmailでは(現段階では)ユーザーが電子メールのコンテンツ(メッセージの本文に保存されたもの)からNFTを作成できるようにする予定はありません。
しかし、ロードマップが計画通りに進めば、Dmailはインターネットコンピュータのエコシステムにおける主要なDappsの1つになる可能性があります。
■Dmailの競合プロダクト
ここまで来ると、きっとどこかの誰かが、他のブロックチェーン上で完全に機能する分散型メールDappをすでに開発しているのではないかと思うはずです。そこで、Googleで検索してみたところ、最初にヒットしたのが "Ledgermail" でした。Ledgermailは、あまり知られていないXinfinブロックチェーンネットワーク上で構築された「世界初の分散型メールソリューション」を謳っています。
さらに調べてみると、Ledgermail(今年初めにローンチ)は確かにブロックチェーン上の初のメールソリューションではありますが、1つの大きな欠陥があることがわかりました。
「LedgerMailの唯一最大の問題は、クローズドループのシステムであるということです。つまり、ユーザーはLedgerMailのアカウントを所有している他の人にしかメッセージを届けることができず、しかも、その人が受信者の承認済み連絡先リストに載っている場合に限られるのです」
(出典:https://www.techradar.com/features/email-over-blockchain-the-best-bad-idea-ive-heard-this-year)
LedgerMailのウェブサイトによると、ユーザーは従来のメールプロバイダーからのメールを受信することができますが、「LedgerMailを介して送信されていないメールでも受信箱には届きますが、暗号化や分散化はされない」とのことです。
■結論
Ledgermailの「最初の分散型メールソリューション」という主張が妥当だとしても(他の分散型メールサービスをご存知でしたら、ぜひ教えてください)、いずれにせよDmailは(ローンチ後は)「完全に分散化された(そしてDAOに支配された)最初のメールサービス」となります。Dmailは、安全で分散化された方法で電子メールを(ユーザーが支払うべきガス代なしで)送受信します。
Dmailは、インターネットコンピュータと従来の電子メールプロバイダとの間のシームレスなサービスを可能にし、インターネットコンピュータのエコシステム内や他のブロックチェーンとの間でICP、ETH、NFTなどを保存し、取引することができるようになります。
従来のスタックからインターネットコンピュータに新しいユーザーを呼び込むなど、Dmailがインターネットコンピュータのエコシステムやブロックチェーン業界全体にもたらす可能性について、私たちは心から期待しています。
Dmail Networkは、web3時代の強化された、ハッキングされない、トークン化された電子メールとなり、私たちはそれを待ちきれないでいます。