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現代の「和」を考える

「和」は足し算の文化だと建築家・横内敏人さんは話します。横内さんが出版された作品集「WA-HOUSE」というタイトルが意図するのは、伝統的な和ではなく、現代の和であることだそう。横内さんが考える「和」を聞きました。(「和モダンvol.8」(2015年8月発行)の内容を再編集)

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自然との共生が感じられる「安茂里の家」。

「横内さんの住宅は和ですか?洋ですか?」と聞かれることがあり、どう表現するのがよいか悩んでいました。「和風」という言葉は、「風」がつくのニセモノに感じられるのではと。「和」には次のような意味があると思います。

1)日本
2)和ませる
3)混ぜる、融合させる
4)足し算の結果

ここで特に考えたいのは、4)で、足し算の結果を「和」といいます。日本の文化は足し算の結果ではないかと思うのです。外から入ってくる外国の文化を足して混ぜ合わせ、そこにある対立や矛盾を包み込み、和やかで新しい秩序をつくってしまう。日本は古代に仏教を取り入れ、政治や都市計画を取り入れ、律令国家をつくりました。そして、平安時代にそれを日本化したのです。

また日本語は漢字に加え、話し言葉を訓読みとして、平仮名を生み出しました。明治以降は西洋文化を表現する役割をカタカナに与えましたが、漢字を捨てたわけではありません。さらに日本人は多神教です。八百万の神を信じていて、そのひとつとして仏教を受け入れたといっていいでしょう。

このように和の文化は、足し算の結果できていると思うのです。和の精神というのは古くさいものではなく、新しいものを生み出すときの創造的精神だと思います。対立する概念の両方を生かす、クリエイティブな精神が「和」だと思うのです。

アメリカで日本を再認識

明治以降、西洋近代建築が入ってきて日本の木造建築の歴史が断絶しました。日本建築と西洋近代建築ではまったく別のことを教わります。それを自分の中でどうしようかと随分悩みました。東京藝術大学(以後、藝大)時代に関西で古建築・古美術を見てまわる研修旅行があり、そのときの経験で改めて日本の建築のよさを実感することができました。藝大の後、アメリカに留学しました。ポストモダンの時代ですが、私は新しいものを見ても感動を得られず、大きくて表面的なだけと感じられました。そのときに日本を外から見る機会を得たのです。逆にアメリカ人から日本のことを教えてもらうことになりました。日本には素晴らしい伝統文化があるのになぜ新しい建築家は西洋の真似ばかりするのかと。それまでは日本の建築のよさを感じず、コンプレックスを持っていましたが、日本の建築文化の素晴らしさを受け継いでいけるような住宅作家になりたいとそこで改めて思ったのです。

自然との共生

京都へ行くことになったのは、大学の教員を募集していたからですが、日本のことを勉強するためには、やはり京都がいいと思いました。そしてまた、関西の古建築・古美術を見て歩いたのです。そんな中で日本の伝統に対する畏敬の念を感じるとともに、一方では西洋文化へのあこがれも持っていて、それをどう統合していこうかと考えていました。無意識のうちにその2つを足し合わせ、調和させて仕事に生かしていたということになるでしょうか。ただ、何でも足せばよいというわけではありません。先人たちも、何を融合させるかについて、取捨選択をしています。

その判断基準の中心となっているのが、縄文時代からのサステナブルな自然との共生です。それは、他のどんなものが日本に入ってきても外せない価値観でした。いまは、経済性・機能性・合理性が大事となり肥大化しています。そして、自然とのかかわりがなくても人間が暮らせるようになっています。しかし、それで本当に心が満たされているのかどうか。安価で機能的で便利であっても、そうした住宅は本能的な豊かさに訴えるものがないのです。

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日本的な素材で空間を

まわりの環境や生活スタイルの変化などにより、畳のよさがわかっていても、いまでは畳で生活するのは難しい状況です。江戸時代に確立した日本建築の形式を踏襲したものが、いわゆる「和風住宅」だと思います。それは一種の形式であり、いまの日本人の生活とずれが出てきています。純日本家屋は非日常的なものになってしまいました。ときどき旅館に行くのはいいけれど、日常の生活をそこですることは難しくなりました。

和の住宅建築には、2つの方向性があると思います。ひとつは日本的な素材で、水平に広がるプロポーションををもった西洋的空間をつくること。もうひとつは西洋文化の素材で日本的な空間をつくること。私がやっているのは前者です。日本の建築は柱と屋根の建築。屋根の下には水平に広がる空間があり、それが外部にある自然とつながっていきます。それに加えて、素材感というのが大きな要素で、日本では素材がもっている肌触りなどを大切にしています。木・石・紙・草がもっている素材感が日本にはしみついているのです。

寝室などは西洋的な壁の建築でいいと思っています。壁で囲まれた安心感。閉じるところは閉じ、開くところは開く。そうした意味で私の住宅は日本と西洋が1軒の中に融合しています。伝統(日本)と近代(西洋)、明るさと暗さ、開放と閉鎖、広い部屋と狭い部屋。そうした相反する性格を1軒の中に抱きかかえてるのがよい住宅だと思います。

どちらかを切り捨てると建築として格好よくなるのですが、どれを切り捨てることもなく受け入れる。それが和の設計作法だと考えています。伝統的素材を使い、日本の空間性を備えた西洋的空間が生まれると、いまの日本人にとって心地よい空間になると思います。

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(写真/小川重雄)

横内敏人氏による「現代の和を考える」は「和モダンvol.8」に掲載しています。巻頭特集は、家族をテーマに川口通正氏が解説。そのほか、建築家や地域の工務店の住宅事例もたくさん掲載しています。ぜひご覧ください!

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