江戸・明治・大正の建築を今に伝える、日光田母沢御用邸
日光田母沢(たもざわ)御用邸は、江戸・明治・大正の3つの時代の建築を知ることができる数少ない本邸が現存する旧御用邸です。修復・整備も行われて公開されているので、誰でも訪れることができます(現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため2/7まで休園)。その建築としての魅力を紹介します。(「2008年版 和風住宅」掲載)
日光田母沢御用邸とは…
日光東照宮をはじめとして、世界遺産に登録された「日光の社寺」二社一寺をもつ栃木県日光は、北には男体山(なんたいさん)、女峰山(にょほうさん)などの日光連山を仰ぐ世界的な観光と保養の地。そんな地にある日光田母沢御用邸は、南に大谷川、西に田母沢川で区切られた閑静で風光明媚な場所にあります。
この御用邸は明治32年(1899年)に当時まだ皇太子だった大正天皇のご静養のために造営されたものです。大正天皇の即位に伴い、大正7~9年(1918~1920年)には大がかりな増改築が行われました。戦後昭和22年(1947年)の新憲法施行により、御用邸としては廃止となり、荒廃しかけた時期もありましたが、平成12年(2000年)まで3年をかけて修復・整備が行われ、現在は栃木県の管理のもと、日光田母沢御用邸記念公園として一般にも公開されています。平成15年には国の重要文化財に指定されました。
建物は、赤坂離宮から移されたものも使い、明治32年(1899年)1月から工事が始められ、同年6月末に本館その他の工事を終了。その後、大正7年から9年(1918~1920年)にかけて、大正天皇の長期滞在に伴って、大増改築が行われました。建物の広さは、4万5000㎡、部屋数は106あり、大正天皇は大正14年夏まで、毎年のように過ごされました。敷地面積は、大正11年(1922年)には約10万7000㎡(3万2000坪)ありましたが、現在は約3万㎡(9000坪)となり、当時と比べて約3分の1の規模となっています。
写真は上空からの全体俯瞰。
3階を除いて、すべてひと続きの屋根でつながっています。
「御用邸」という言葉から受ける印象は絢爛豪華な宮廷建築ですが、むしろ実際に受ける印象は、飾らない清らかでシンプルな美しさ。もちろん選りすぐった材料を使い、最高の技術を用いていることは間違いありませんが、デザインとしてはことさら飾り立てしているものではないのです。素材そのものの持つ美しさと構造的な力を最大限に生かしつつ、対面の場には最高の格式を用意し、プライベートなくつろぎの部屋には、数寄屋風の意匠を含めた自由な空間をつくり出しています。
この旧御用邸の持つ価値として、以下の4点があげられます。
①江戸・明治・大正時代の建築が融合し、建築学的にも大変貴重であること
②これほど大規模な木造建築は全国でも数少ないこと
③明治期に建築された旧御用邸のうち、本邸宅が残存するものは旧日光田母沢御用邸のみであること
④建築内部に施されている装飾・絵画など、建築全体に文化的価値があること
明治以降、多くの公共建築がレンガなどを用いた洋風様式で建築される中、木造の利を生かした和風建築で建てられたことは非常に大きな意味を持っています。一方、一部に絨毯やシャンデリアなどを用いた和洋折衷の生活様式が取り入れられ、和風建築の伝統を生かしながら、西洋文化との融合が図られています。
御車寄外観。格式ある格天井と、柱には几帳面の面取りがなされています。
旧紀州徳川家江戸中屋敷部分1階の「御学問所」。「梅の間」と呼ばれ、華やかな梅の絵が描かれています。書院様式に数寄屋風の意匠が取り入れられています。
大正期に増築した謁見所(えっけんじょ)。天皇陛下が公式の面会に使用されていた部屋。真の書院造りの床の間、床脇、平書院、天井で構成。柱と造作材には最高級の尾州檜(びしゅうひのき)を用いています。
謁見所南入側から御学問所にかけての廊下。謁見所部分には、竹の節欄間がつけられ、正面には梅の間の丸窓があります。
皇后御座所・皇后御寝室などがある旧小林家別邸部分の外観(上)と皇后御寝室(下)。柱や長押、鴨居には栂(ツガ)が使われ、洗練された栂普請となっています。
日光田母沢御用邸記念公園
住所:栃木県日光市本町8-27
開園時間:4月~10月 9:00~17:00(受付は16:00まで)
11月~3月:9:00~16:30(受付は16:00まで)
休園日:毎週火曜日(祝日の場合はその翌日)および年末年始
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