隠れた名庭園を訪ねる
日本庭園とは、自然の景観を人工的に構成した日本の造形空間のこと。基本的には観賞や散策などのため、住居の周囲に樹木や石を配置し、築山(つきやま)や泉池などを築きます。庭園のあり方、考え方など奥は深く、建築内部からの視線の移ろいや、回遊させることによる移ろいなど、視覚的効果を考えたつくりとなっており、四季折々に鑑賞できる景色がつくられます。
日本全国には、三千ほどの庭園があります。今回は知る人ぞ知る、ぜひ一度は見てほしい庭園を紹介します。
(監修:作庭家・小口基實)
大池寺(だいちじ)
江戸初期・甲賀市指定名勝
寛文年間頃の傑作。小堀遠州*(こぼりえんしゅう)の作とも伝えられる、サツキの大刈込みをした枯山水*(かれさんすい)。大洋の大波小波と、その真ん中に宝船を浮かべ、その中に七つの意思と小さな刈込みで七宝と七福神を見立てています。また、縁先右側には刈込みによる亀島を、中央には礼拝石が配されています。秋は紅葉、冬は紫褐色に染められるなど、四季を通じて趣のある姿が見られます。
*小堀遠州:江戸初期の茶人・造園家。豊臣秀吉、徳川家康・秀忠らに仕え、作事奉行を務め、建築・造園に才能を現した人物
*枯山水:池水を用いずに石や砂、植栽などを用いて山水の風景を表現する形式の庭園
大地寺
滋賀県甲賀市水口町名坂1168
一乗谷(いちじょうだに)朝倉氏庭園
室町時代 国特別名勝
織田信長によって滅ぼされた朝倉家の庭園。一乗谷朝倉氏遺跡は広範囲にわたっていますが、写真は諏訪館跡庭園。復原整備され、導水路の整備により、清水の流れる計画が再現されました。水は上段の滝石組みを通って下段の滝石組みへと流れ落ちます。正面の滝石組みは4メートルもの巨石を立てていて、日本でも最大規模。豪壮につくり上げています。
一乗谷朝倉氏庭園
福井県福井市城戸ノ内町10-48
聖衆来迎寺(しょうじゅらいこうじ)
江戸初期 滋賀県指定名勝
枯山水を基調に立華*(りっか)の構成を応用している庭。苔が水流をあらわしていると見られています。明智光秀一族で作庭・立華に長じていた千菜寺宗心の作。また、鶴島・亀島があるので、蓬莱式庭園*(蓬莱式庭園)ともいえます。ソテツを配した立華の形式は他に例がないそう。軒下にある手水鉢(ちょうずばち)は秀逸。
*立華:生け花の型のひとつ。江戸前期に2世池坊専好 (いけのぼうせんこう) が大成した最初の生け花様式
*蓬莱式庭園:不老不死の仙人が住む蓬莱山(蓬莱島)や、長寿の象徴である鶴や亀をモチーフにした島(鶴島、亀島)で構成されるのが特徴
聖衆来迎寺
滋賀県大津市比叡辻2-4-17
旧秀隣寺(しゅうりんじ)庭園
室町時代 国指定文化財
小さな岩を組み合わせた石組みが特徴的です。享禄年間、12代将軍足利義晴が3年間、難を逃れて当地に滞在した際、義晴の部下であった細川高国がつくったといわれています。曲水の池をもち、石組みにて鶴亀二島をつくっています。池には楠の化石の石橋を渡しています。
旧秀隣寺庭園
滋賀県高島市朽木岩瀬374
北畠(きたばたけ)氏館跡庭園(北畠神社)
室町時代 国史跡・名勝
足利義晴のため、北畠道晴具に援軍を頼みに来た細川高国が作庭。武将の手による庭らしく、素朴で豪放な魅力にあふれ、北畠氏の栄華をしのぶことができる、枯山水と池泉回遊式*(ちせんかいゆうしき)を組み合わせた室町期の名園。池は曲水式*で、池の形や築山*(つきやま)の位置など、優れた地割が見られます。写真の部分は枯山水の源流ともいわれています。
*池泉回遊式:江戸時代に発達した日本庭園の一様式。池とその周囲を巡る園路を中心に作庭するもの
*曲水式:古く中国で催された曲水宴の故事により、優美な曲線を持って流れる水の状態を庭園に表したもの
*築山:庭などにある人工の山
北畠氏館跡庭園(北畠神社)
三重県津市美杉町上多気1148
願行寺(がんぎょうじ)
桃山時代 奈良県文化財名勝
枯山水がひとつの様式として確立した時期、永禄年間に作庭。背景に刈込みを配し、穏健な石組みを主とし、大きめの玉石を敷きつめ、平坦地を水面に見立て枯山水的に見せています。枯山水の中でも、広々とした印象を受ける数少ない室町時代末期の庭園です。
願行寺
奈良県吉野郡下市町下市2952
作庭家・小口基實が監修した「隠れた名庭園を訪ねる」は「和風住宅2013」に掲載しています。
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