作品の振り返り「DEMON-X」と持ち込みの思い出

作品詳細

2020年製作 持ち込み用
使用画材 iPad pro10.2インチ /Apple pencil/アイビスペイント

https://www.pixiv.net/artworks/89392906


製作までの経緯

5月末締め切りの40漫画賞応募の原稿も終わった頃、40漫画賞の締め切りが当時のコロナ情勢を踏まえて7月末に延長。それに伴い本来7~8月頃だった結果発表も10~11月に延期となった。

当時夏の結果発表の結果で身の振り方を決めようと思っていたのでこの延長発表には動揺した。しかし黙って待っていても仕方ないという事でもし結果がダメだった時すぐ次に動けるように原稿を用意しよう。
それも、自分という作家のプロモーションとなるような好きなものを全部詰め込んだ作品にしよう。

そうして完成したのが本作だ。
2020年10月。40漫画賞の結果も出ない中、僕は本作のプリントアウトした原稿を持って集英社に持ち込みに向かった。

あらすじ

戦乱の魔界。
魔神デモノクスの力で他の国を圧倒していたデモン国は、周囲の国々と和平交渉を始める。
しかしその会談の最中、デモン国宰相『ミグ・ストロベリー』が謀殺されてしまう。更にデモン国に恨みを持つ国々が同盟軍『魔王連合』を結成しデモン国に侵攻を開始し、デモン国は一気に壊滅状態に陥った。
そんな中、ミグの妹『ララ・ストロベリー』はミグの安否を心配してデモン国魔王『デモン・アルティメット』と接触する。
ミグの死を責めるララだったが。そこに魔王連合が現れる。
かくして魔王デモン率いる5人しもべとララVS魔王連合50万騎馬戦の戦いの火蓋は切って落とされた。

解説と講評

新人がデビューするにあたってやるべき事ってなんだろう?そう考えた時に「面白いものが作れる」というのは前提条件。じゃあ後は?
となれば、編集の方々に「僕はこういうのが好きなんです!」とアピールする事だと考えた。

結果DEMON-Xには様々な要素が盛り込まれた。
特に打ち出したコンセプトは「バイオレンス」「敗北からのリベンジ」「ヒーローもの」だった。

バイオレンス!
主人公を筆頭に味方キャラはスーパー戦隊のカラーを意識している
主人公達が合体した姿『魔神デモノクス』は合体ロボ、合体ヒーローを意識。戦い方はスーパーロボットをイメージしている。

何故自分が好きなものをアピールする必要を感じたのか。理由は以下の通りだ。
・作家性と雑誌の色が合うかを確認してほしい
・好きなもの、得意なものを知ってもらうことで後々の打ち合わせや別作品制作にあたってのヒントにしてほしい

結果的に言えば現在も担当との打ち合わせは僕の得意なものや強みは何かという所を起点に話が進んでいる。

実はこの作品が完成した当初、持ち込みに行くのが怖すぎて先にマガジンデビューに投稿していたのだが…
「迫力はありますがキャラが多く世界観も壮大で読者にとっては情報過多でストレスです。まずは主人公を立たせましょう(要約)!」

…という講評を頂いた。
(ちなみにマガジンデビューとは講談社が運営する漫画投稿サービス。かならず編集者が目を通し、講評をつけてくれるという特徴がある)


キャラが多いだけでなく、出来事や相関、設定まで何もかも複雑…



おっしゃる通りです!キャラが多いのも重々承知です!けど、もっと…もっと意見が欲しい!これだけ好きなものを詰めたのだからもっと褒めてもらえる所があっても良いはず!

そう思った僕はやはり直接持ち込みにいって直に編集者と会話して良かった所、改善点を聞きたいと思った。
元々心が折れるまでやろうと決めた事だ。これで折れるならそれでも良かった。


そして持ち込み当日。天気は雨。
アポを取った編集の方からのSMS。「申し訳ございません。ご指定いただいた時間よりも遅くなりそうです。オンラインか別の日に改めて持ち込んでいただく事も可能ですがご都合いかがしょうか(要約)」
え!やだやだやだやだやだ!仕事あんまり休みたくないし今日が良い今日が良い今日が良い今日が良い!!!!
「かしこまりました(要約)」

集英社のビルはこの時間からは使えないという事で先方が指定した近くの喫茶店へ。コーヒーを注文していても良いと言われたのでカフェオレ的なものを注文して(カフェオレだったはず)待つこと1時間後…。

編集の方が恐る恐るやってきた。軽く挨拶した後「お待たせしましたから、何かお食事を注文して頂いても大丈夫ですよ」と勧めていただいたが、もしこれからお見せする漫画がクソ面白くなかった場合、逆にそれこそ無駄金無駄足を踏ませてしまい失礼だと思い遠慮してしまった。
コーヒーだけ頼んで早速原稿を渡す。
待っている間に渡されたアンケート用紙に記入する。
年齢は…投稿歴は…受賞経験は…どんな作品を書きたい?…好きな作家は…?好きな漫画は…?
ぶっちゃけそんな事冷静に考えたり思い出したりする余裕はない。(確かこのとき好きな漫画にジョジョ、ベルばら、デビルマンをあげた。おっさんか?
)

空腹のはずだが緊張で何も感じない。心臓だけ異常にバクバクなっている。言うなら好きな人に告白する時のあの感じに近い高揚感を伴う激しい緊張…。

「迫力はあるけどキャラが多い」
もしそんな以前にも言われた事と同じ内容で講評が終わったらどうしよう…いや、それでも食い下がる。作品がダメなら人間性アピールして食い下がる(多分意味ない)。とにかくここは自分と自分の作品を命がけでアピールする!

と息巻いてる間に読み終わる。
編集さんが一言。

「キャラ多いですね」

来た…

「…けど」

…けど!?

「これだけの登場するキャラ全てに存在意義を持たせて、作品の中で裁ききれているのは凄いですね」

これだけの登場するキャラ全てに存在意義を持たせて、作品の中で裁ききれているのは凄い!!!!!!!?

この時に頂いた講評はおおまかにこうだ。(二年前の事なので正確ではない)

○良かった点
・キャラが多く登場する新人の読み切りは登場したものの活躍しなかったり意味がないキャラがいるものだがそれが無かった
・女性キャラが多く登場するが、きちんと描き分けた上で可愛くかけている
・ジャンプ系の主人公は「欠落」「喪失」があり、そこを挽回させていくキャラ作りがセオリーだが、それを現時点で踏襲できている
・描きたい事が明確。話も整合性が取れて構成ができている

○改善点
・キャラが多いこと、世界観が複雑である事自体はやはり読者にストレス。設定を整えれば味方サイドは主人公とヒロインだけでも成り立つので情報と設定を整理すべき。このままの状態のこの作品では受賞などは難しい。
・画力はもっと鍛えよう

との事だった。
他に聞きたい事はありますか?と聞かれたが、そんな場合ではない。事態を呑み込めなかった。これは良かったのか?悪かったのか?
ただ、「見てほしい所を見てもらえた。褒めて欲しい所を褒めてもらえた」という感動が確かに在った。

そして
「次の作品のネームが出来たら連絡をください」
と名刺を頂いた。
こうして初めての、夢にまで見た、担当がついてくれたのだった。

祝砲

という風にこのDEMON-Xは持ち込みとセットで語られる作品であり、この作品に対して言うべきこと担当さんが述べてくれているので取り分け語り直すこともない。
ただ、この時点で指摘された欠点はその後かなりの期間改善に苦労する事になるし、ここから「デビューする前」と「デビューした後」の壁の厚みの差を痛感し続ける事になる…。 

それと漫画家志望でまだ担当がついていない人と話をする時、僕は必ず持ち込みを推奨している。
出張編集部や賞に応募した後の講評、オンライン講評サービスも使ってみたがやはり対応時間などの制限が多く直接持ち込みに比べれば中々徹底的に講評を頂く事が難しいように感じる。
もちろん地方に住んでいるなどの制約がある方もいるだろうが、都内に公共交通機関で迎える程度の距離ならば何がなんでも持ち込みに行くべきだと今後も強く推していくつもりだ。

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