作品振り返り『ヒロイックステージ』その4(完)

作品詳細

製作期間2021年3月~4月 ネーム 40ページ


製作までの経緯

前回

・この漫画は「ヒーローショーとは素晴らしい」という事を伝える作品である。
・この漫画は「主人公は魅力的な人物」という事を伝える作品である。

この二つに書くべき事を絞り、作劇もその二点がより良く見えるようにという事だけを考えて調整。

このネームが通り、読切が通れば次は連載企画作成…。それまでの人生で最も力を注いだ作品のネームが完成した…!

あらすじ

特撮もアニメも漫画も知らないギャル『佐倉雅』はヒーローに憧れてイベント会社にやってきた。
そんな雅に主役ヒーローのアクターの話が回ってくる。
ヒーローの力を信じる雅だったが、先輩の『小星勇』はヒーローに妄信的な雅が気に入らなかった。
主役にふさわしいかどうかを試す為に勇は自身が主役のショーの悪役に雅を抜擢するが、ショー本番中にかつてアクロバットで失敗した記憶が蘇りアクションに失敗してしまう。
落ち込む雅だが、それでもヒーローになる事を諦めない雅に勇は自身がヒーローを演じる意義に悩んでいる事を打ち明ける。
しかし雅はアクロバットに失敗して自信を喪失した時にヒーローショーを見て感銘を受けた事を語る。
雅の意気込みに感化された勇は雅の特訓に付き合う事に。
果たして雅はトラウマを乗り越え、ショーを成功させることができるのか!?

解説と講評

全体の流れはそのままに、変更したのは大まかに三つ

・主人公の雅はヒーローショーにポジティブな感情を持ち、終始明るく好感の持てる人物として描いている
・勇は雅に感化され、雅の主人公性に救われるキャラとして描く
・それに伴い、勇の過去を削除

ひとつ前と読み比べて頂くとわかるように非常に明るく快活な内容に仕上がった。
セリフも極力削り、とにかく画面も内容も見やすくしてキャラを好きになってもらいヒーローショーの魅力を伝える!

そしてネームも完成して掲載会議に提出する為にタイトルも考えた。

『ヒロイックステージ』

ヒーローとは、ヒーローショーとは何か。ヒロイズムとは何か。それを表現するヒーローショーの漫画のタイトルにきっとふさわしい。
タイトルを伝え、半年近くかけて担当さんと初めて一緒に制作したネームはついに連載会議に提出された。


数週間後


担当さんとの打ち合わせ。
神妙な面持ちで担当さんは僕にネームは選考に通らなかった事を伝えた。

主な評価点は二つ
・題材とキャラに広がりがなく。同じキャラ、設定で話を作りづらいと思われる
・「ヒーローショーは素晴らしい」以上のメッセージがない

という事だった。
正直ショックだった。いや、所詮新人。漫画を真面目に描き始めて1年も経っていないのだからプロと肩を並べられないくらいある意味当然の事だ。
それでもショックだった。
連載へのステップは一旦振り出し。また新たな作品作りに取り掛からなければならなくなった。

それまで僕は担当がついてからというもの毎週ペースでネームの修正を送っていた。
一から書き直す時もペースを落とさなかった。
しかし、流石にヘコんだ僕はついにそのペースを崩すことになった。

しかも、ショックな出来事がもう一つあった。
Twitterで漫画家の方が過去に雑誌に掲載されたヒーローショーの読み切りを公開していたのだ。
衝撃だった。画力も構成力も、作品のメッセージも、ヒロイックステージが届かなかった所にしっかりと届いていた。

これがプロの世界…。

ヒロイックステージ製作に取り掛かる直前、担当さんは俺にこう言った。
「ここまでは順調にいきましたが、ここからは今までのように行くと思わないでください。連載を経験したプロの方でも連載を勝ち取るまでの試行錯誤から抜け出せない人は山ほどいますし、そのまま漫画家を諦めてしまう人もいますから」

僕は小学生の頃からノートに漫画を描き、大学ではサークルでは漫画だけでなく大学オリジナルのヒーローショーの脚本も手掛けた。
社会人になってからはヒーローショーの団体を設立し、自分でヒーローのストーリーや世界観を考えた。
そして恐ろしい事にこれらの作品についてただの一度も「面白くない」と言われた事がなかったのだ。
だから調子に乗らないようにいつも自分で「まだ未熟だ」と思うようにしていたが、それでも「自分は面白い作品を作れる」という自負は積みあがっていた。

だがしかし、まさに痛感した。所詮自分がこれまで作ってきたもの、培ったと思った技術や経験は趣味の範囲のものでしかなかったという事を…。
今の自分ではプロに通用しないことを。

だから諦める事はできない。何故なら心はまだ全然折れてはいなかったからだ。
確かに結果的にはダメだったがその過程でネームを作る力は初期に比べればまだマシになった。
全てがダメだと作品を全否定された訳でもない。
そもそもこれはプロなら誰もが通った道。なら僕だっていつまでも乗り越えられないという道理はない。
むしろここから始まる、いや、始めなければらないのだ。

こうしてヒロイックステージの製作は終わった。

関係ない話になるが大学1年生の頃。
僕は大学の学園祭で初めてのヒーローショーで主演を演じ(伝統的に1年生が主演を任されていた)、数か月準備したヒーローショーを成功させたというかつて味わったことのない達成感を得た。
それからというもの、僕はそのショーの映像を何度も何度も見返して「僕はなんてすごい事を成し遂げてしまったんだ」と悦に浸り続ける増長の日々を送っていた。
そんな折、サークルOBが主催するローカルヒーロー団体がショーを行うので見学に来ないかというお誘いがあり、僕は喜んで足を運んだ。

そして目の前で繰り広げられた先輩たちのショーを見て愕然とした。
全てのクオリティが僕が悦に浸っていたショーを遥かに上回っていた。
ショーが終わるまでの僅か20分程の間に僕の世界は完全にひっくり返ってしまったという訳だ。

それから10年ほどの月日が流れ、今度は漫画で同じような経験をした。
自分の取り組みに対して謙虚でいる事。一生大事にしたいスタンスである。

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