作品振り返り『ヒロイックステージ』その1(追記あり)

作品詳細

2020年11月~12月製作 ネーム 42ページくらい
※データ残っていませんでした。

製作までの経緯

前回

40漫画賞で受賞したのをきっかけにドラゴンフラッグの製作が中断となった。
元々ドラゴンフラッグは新人賞に出す予定の作品だったので、賞を取ってしまったからには連載獲得に向けて戦略を変更する必要があったからだ。(最も当時の僕はそれがどういう意味なのか全くわかっていなかったのだが…)

連載までのステップとして
連載の試金石、パイロット版となるような読切を製作→それを編集部内である一定の評価得られたら商業で掲載→評判が良ければ連載用に再構成
という流れがある(らしい)

とはいえどこから責めたらいいのかがわからない。
そこで担当さんが「お仕事をテーマにした漫画の枠が空いているのですが、何かお仕事の体験などありますか?」と尋ねてきた。

そこでふと「元々ローカルヒーロー団体を運営していまして…」と話してみた所
「それで行ってみましょう」
という事になった。
当時は慣れ親しんだヒーローショーをテーマにした作品を描けるという事で最早自分の人生の目的を達成したくらいの勢いだったのだが、それは己の無力さに打ちのめされ続ける日々の始まりだった…。

あらすじ

元モデルの大学生、『佐倉雅』は、同じ大学のヒーローショーサークルの部長『小星勇美』に主役ヒーローのスーツアクターにスカウトされる。
ヒーローショーの事を何も知らないのにノリで承諾した雅だったが、その準備の大変さと充実感にやりがいを感じ始める。
しかし、ある出来事をきっかけに雅は勇美が起こした事件で部員の大半が退部した事を知る。
自身を喪失した勇美だったが、雅も過去にモデルの世界の競争の激しさに心が折れていた過去を、そして勇美との出会いでまた自分の輝ける世界を見つけた事を伝える。
雅のとりなしで団結した一同は本番に来る本番に挑む。

解説と講評

作品データが残っていないのが悔やまれる。
要するに『オタクに理解があるギャル』『女同士の友情』を描きたかった本作。
記憶が確かならばキャラは相変わらず多く、またそこまで活躍しないキャラも存在する。
そしてセリフもやはり多かった。

ヒーローショーを行う側という殆どの人になじみがない題材故に、それがどういったものであるのかの説明を挟まなければならない。作品が越えなければならないハードルは多かったが、それ以上にこの作品にも大きな欠点が存在していた。

それは
『主人公の悩みに共感できない』
という事だ。

本作の主人公『佐倉雅』は元モデル。モデルの世界で挫折したがヒーローショーを初めて自分が活躍できる場所を得る…というキャラだ。
この「元モデル」であることと「モデルを挫折したこと」。果たしてこの苦労を想像できる人は世の中にどれくらいいるのだろうか。
主人公の抱える悩みは決して普遍的なものではなく、共感できる読者が限られているものだった。

いや、当時僕は「挫折をした」ことが共感点のつもりで描いていた。
しかし…しかしだ。
世の中に本当に傷つくほど挫折をした人も一体どれほどいるのだろうか。

当時担当さんはこうも言っていた。
「挫折したと言えるくらい頑張れる事は、既に高度な(普遍的ではない)事かもしれません」
当時は全く意味がわからなかった。
例え挫折した経験がなくても、漫画を読む人であれば挫折した人の気持ちくらい想像できるのではないか…と。

しかし冷静になればわざわざ想像してもらわなければならない時点で、それはわかりにくい事だし、共感できていないという事ではないか。

そしてもう一つの問題点。
「モデル」と「ヒーローショー」は重なる部分が少ない事。

作中で主人公が元モデル故に優れていた事は「プロポーション」の部分のみで後は持ち前の人間性で物事を進めていく。
冷静に考えれば、もっとヒーローショー活かせる技能が身につく業界の方が明らかに良い作品になったと思う。
しかし当時の自分はどうしても思いつく事が出来なかった。
それは主人公たちが大学生である設定を中心に考えたが故に陥った袋小路だった。

作品自体は悪くないわけではない。笑えるシーンもあるし、キャラの動機や行動自体には矛盾はない。盛り上がり所もある。
しかし、どこが作品の完成度を落としているのかはわからない。
そして担当さんは決して「答えは」教えてくれない。
ネームを修正する中で何度も「こういう風に描いてください」と指示してほしいと思った。
しかし担当さんは決して自分の意志で作品の方向性を決めるような事はしなかった。
そして僕もそんな甘えた事はしたくなかった。毎週毎週悩みながらネームを修正した。
やがて2か月ほどネームを修正して年が明けるころ。
行き詰った僕は題材はそのままに丸ごと作品を1から作り直すことを決意した。

ヒロイックステージ その2に続く。

追記
本作の登場人物は全員女性であり、女性のみのサークルでヒーローショーを行うという内容だ。(次回記事の第二稿も同じ)
現実ではあまり例を見ないのだが、なぜその設定にしたのかと言うと「女の子がたくさん出てきた方が見てもらえる」「女の子だけの日常系趣味漫画アニメが流行っているからその文脈に載せたい」というのがあった。

が、担当さん的には「そこに必然性が感じられるなら良いんですけど…」と消極的だった。僕に深い狙いが無いことをしっかり見抜いていたように思う。
こういった浅はかさも当時の僕の作品づくりに如実に出ている。襟を正したい。

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