世界で一番幸せな子ども達
昨年、うちの子達が通うオランダの小学校でお昼の見守り指導員(「Overblijfjuf」と呼ばれる)を半年ほどやっていた。週に2度、12時から13時まで、小学4年生と小学3年生のクラスが私の担当だった。その一時間は、オランダの小学生 およそ15-20人を、自分一人で相手にしなければならない。
ー 正直に言おう。
毎回、若干憂鬱な気持ちになりながら、私は学校に向かっていた。なんで、こんな仕事を自ら引き受けてしまったのか、後悔の気持ちを抱えながら。
でも、結論としては、やってみて本当に良かったと思っている。オランダに無数とある小学校の中のたった1つであり、それもお昼休み時間という限られた時間ではあるけれど、オランダの子ども達の素顔が見れた。
それは決して楽しい経験だけではなかったからこそ。
世界で一番幸せな子どもたちの素顔
世界で一番幸せな子ども達と言われるオランダの子どもは、素朴で荒削りでワイルドだ。飼い慣らされていないとでも言おうか・・。優しく言い聞かせて、素直に「はいはい」と聞く人たちではない。
そして、目上の人を無条件に尊敬するみたいな態度は期待できない。
常に理屈が求められる。「それはだめだ、だって○○だから」というように、こっちの態度をクリアに、その時、その場で、タイミングを失わずに示す必要がある。
そもそも、オランダの子たちと言っても、オランダ生まれではない外国籍の子も一定数いて、文化も考えも異なる子ども達が一空間に集められている。動物園の中でずべての檻が開け放たれて、まぜこぜになっている状態でも言おうか、みんなが納得する理屈を見つけ出すこと自体が難しい。
基本はルールに照らし合わせて、もしくは、「監督者である私が認めないから」とう理屈で押し切っているが、そうでなくても、私はオランダ語が不自由な外国人。どうしたってなめられる。こっちが分かってない事をいい事に、あちらの主張を押し通されそうになるから、気が抜けない。常に、力と力、野生と理屈の勝負をさせられている気分だった。
「世界で一番幸せな子ども達」を育てるのは、大変な事である。
Overblijfjufの役割
さて、私の役目は、子ども達にルールを守らせつつ見守ることで、
お昼休み時間のルールというのは:
みたいな、非常にシンプルなことだ。
ところが、それは思うほど簡単じゃない。ちょっと目を離すと、小競り合いが始まったり、誰かが泣いてたり、廊下を走り出したり、食べ物やものを投げはじめたり、する。日本なら学級崩壊と言われてもおかしくないんじゃないか。
細かいことをいちいち言っても、もともと軽んじられている(気がする)私の存在はさらに軽くなるだけなので、一応「ここは」と言うところに絞って介入したり、注意する。
そもそもエネルギーを有り余らせている20名近い小学生を、ずっと静かに、大人しく、ルールをきっちり守らせるなんて無理なんである。私もそこは途中で開き直って、多少は好きにさせておけばいいと考えを変えた。
それで学校側が私を使えないと思うなら、やめりゃいいだけの話しだ。
こちとら、ボランティアでやっている。
ある日、事件は起こった
ある日、小学校4年生クラスのある生徒と正面衝突をした。女子生徒二人が笑いながらアジア人差別的なことを私をからかう様に言ってきたのだ。
私:「ちょっと、あなた、今、なんて言ったの?」
ー 私は若干感情を露わにして言った。
女子2名:「いや、何も言ってないよ(笑」
私:「いや、言ったよ。私には聞こえた。
あなた達が言ったことは、差別用語だよ。
分かる?それは人種差別って言われるものなの」
私はかなり頭にきて、ブロークンなオランダ語で一気にまくし立て、その場は気まづい雰囲気に包まれた。言うことを言い終えて、私は自分の席(教壇の前)に戻った。
その子達はTikTokとかやってそうな、すでにティーンの領域に入っているイケてる系の女子で、もともと私のことは少し軽く見ているところがあったので、やっぱり、と言う感じだった。担任の先生に言いつけて帰ろう、と思った。
しかし、しばらくして、その子達は順番に私の席に来て、
「ユーフ(先生)、ごめんなさい」
と謝ってきた。
どの程度伝わったか分からないけど、あんまり怒らなそうなアジア人でも、怒る時は怒るんだということは伝わったのだと思う。それ以降は、彼女達もそういう舐めた態度は少なくともあからさまには見せなくなった。
まとめ
こうして自らがオランダの教育システムの中に、週にたった2時間でも片足を突っ込んでみると、うちの子ども達は本当によくやっているなと感心する。こんな有象無象なところに放り込まれてるのに、毎日ちゃんと学校に行ってるんだけでも、本当に偉い。尊敬する。
それまでも口ではそう言っていたし、そう思っていたつもりだったけど、この時になって初めて本気でそう思った。
異国で暮らすと言うことは、マイノリティとして不利なポジションに置かれるわけで。ちゃんとやってさえすれば上手くいく事ばかりじゃない。それなりに戦略も必要になってくる。
逞しく育ってくれることを、親の勝手だけど、期待している。
私の方も、お陰さまで動物的な感が磨かれるというか、神経が前よりは図太くなってきた。得たものは大きい。
オランダの子ども達と時間共にすることで私が得た経験はこういう感じだった。引越しで、学校が遠くなり息子達も転校したのをきっかけに、このボランティアはやめた。キリのいいところでやめられて、ホッとしていることは認める。