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【読書記録】GIFTED(小野伸二)

2023年のシーズンをもって引退した小野伸二が、自分が感じてきたことを形に残したい、という思いから出版したのがこちらの本です。

「GIFTED」は直訳すると「天才」。
天才と評されることの多かった小野が「果たして自分は天才だったのか?」と問いかけるところからこの本は始まり、そのルーツを幼少期から紐解いていく構成となっています。

(以下、ネタバレを含みますので、これからこの本を読まれる方はご注意ください。)


圧倒的なスキルはどこから生まれたのか?

小野伸二といえば、トラップやキックなど圧倒的なボールスキルを持った選手です。
では、そのスキルはどうやって身につけたのか?
この本の冒頭には、それについて象徴的な記述があります。

「サッカーはひとりでやるものだと思っていた」
「ひとりでも十分楽しかった」

小学校2年生でチームに入るまで、サッカーはみんなでやるものだということを知らなかった、というのです。
サッカーをひとりでやっていた小野少年は

  • 階段の1段ごとにボールを当てていく

  • 建物と建物の間の狭い隙間に、壁に当たらないようにボールを蹴る

  • 屋根にボールを蹴り上げ、落ちてきたところをトラップする

といった感じで、周りにあるものをうまく使いながら、ボールを自在に扱うことに夢中になっていたそうです。
どうやって遊ぶか、を自分で考え実践するところにクリエイティビティの源があったのだと想像できますし、実際にそれらをひとつひとつ究めていった結果としてあのボールスキルが培われたということなのでしょう。
今は決められた場所以外ではボールを蹴ることも禁止されるようなご時世ですので、そういった発想を持ち、実際に行動に移す子供というのはなかなか生まれづらいのかもしれません。
ただ、「工夫する」「夢中になる」といったことはサッカーに限らずものごとを習得する上でとても大切なことです。

自分に正直であるということ

本を読み進める中で感じたのは、小野伸二は自分に正直な人である、ということです。
例えば、高校卒業後の進路を決める時のエピソード。
周囲の誰もが地元の清水エスパルスに入団すると信じている中で、小野自身は「本当にそれでよいのだろうか」と逡巡していたそうです。
背景には当時のエスパルスの経営状況があり、なくなってしまうかもしれないクラブに入っても本当に大丈夫なのだろうか?それで幸せになれるのだろうか?
周りが大丈夫、心配するなと言っても、どうしても不安が拭えず、結果的に彼はその直感を信じて浦和レッズに入団することになります。
その他にも、

  • 高校時代、同級生の中で自分だけが特別扱いされることが嫌で、同列に扱ってほしいと先輩に直訴した

  • プロ入り後、海外クラブへの移籍交渉と仲間の結婚式が被ってしまった時に、海外移籍なんてしなくてもいいから結婚式に行かせてくれ、と怒った

といったエピソードも紹介されています。
自分の中に「こうしたい」というものが明確にあって、その意志をなんとなく置き去りにして別のことをするのが許せないのです。
それを貫き通すには強い意志が必要なのですが、彼はそこを曲げなかったからこそ、誰にも真似できないあの独創的なプレイを生むことができたのではないでしょうか。
(もちろん、それを具現化できる技術があってこそ、なのですが。)

天から与えられたものは

本書の結びに、彼は
「与えられたものがあったとしたら、それは『人』だ」
と語っています。
サッカークラブや学校で彼を指導した大人たちや、敵味方を問わず切磋琢磨した選手たち、そして身近で支えた家族やスタッフ。
サッカーはひとりでやるものだと思っていた小野少年の周りに「人」が与えられなければ、きっと今の小野伸二という選手は生まれなかったでしょう。
そして今後は(今すでにそうなっているとは思いますが)、彼自身が誰かにとっての「与えられた人」となり、成長を見届けていくことになります。

何年後になるかわかりませんが、小野伸二のような驚きを与えてくれる選手がまた現れるかもしれません。

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