孤独を愛する乙女たち

12月24日
世間が騒ぐクリスマスイブというやつだ。
サンタクロースなんてとっくに信じていないし、まして恋人はサンタクロースなんて最もありえない。

この日のためにどれだけの鳥が殺されて甘ったるい苺のケーキが用意されてどれほどの指輪やネックレスが売れているのだろう。

わたしは今日一人で銀座を歩いていた。何はともあれクリスマスの雰囲気は好きだから。
暖かな雰囲気と街中がキラキラしてて夢みたいな気分が味わえる。

黒の毛皮のコートにグレーのロングワンピース、エナメルのハイヒールを身に纏い、おろしたての真っ赤なルージュで唇を彩り目元にはいつもよりラメを多くした。
誰のためでもないわたしのためのお洋服とお化粧なの。
わたしを強く美しく見せる武器。
そんな女性を演じてる。

そう言えば、そんなわたしのことを慕ってくれる年下の子たちは「スマートでかっこよくて都会の女」と褒め称えてくれる。彼女らに映るわたしがそう見えるのではなく常にそうでありたい。

そんなことをぼんやりと思い出しながらイヤホンから流れる音楽に耳を傾けると
Friday night plans「plastic love」
竹内まりやのカバー曲。この曲さえ聴いて歩けば無敵ないい女になった気で歩ける。そして日はすっかり落ち真冬の寒さに晒されて肩を震わせながら辺りを見渡すと寒さもお構いしに幸せそうな恋人たちばかりだ。クリスマスだから当たり前なのだけど。

クリスマス前だから、寂しいからと焦って恋人を作ったなんて人達もこの中にいるのかしら…。
そういうのすごいダサいしやめればいいのにって心の中で皮肉って笑ってやってる。もうそれ契約じゃないかしら。
彼氏からのプレゼントの品評会を始める女の子たち。
「欲しいものはあれだったのにな」「ちょっとセンス無いよね(笑)」
そんなこと言ってるなら自分で買えよ。
わたしは、プレゼントそのものよりわたしのために時間を作りわたしがいないのにわたしのことを考え選んでくれたという事実がとても喜ばしいと思うの。

だから、そんな恋人たち見ても嫉妬はしないし、愛とか恋なんて東京に来て何年か経ちどうでも良くなってしまった。
セフレソフレなんかじゃないし友達以上恋人未満なんてワードじゃ括ることができないし、そんなことを人に話しても理解されないだろうしいいんだけど。
どこかでわたしは間違えただろうか。いいえ。間違ってない、はずと言い聞かせる。そもそも正しい正しくないなんて間違った感情よ。

わたしは欲しいものは自分で手にする。
男の子になんて買わせない。
今、指輪が欲しい。
女の子が喜びそうな4℃やティファニーなんて華奢なデザインじゃわたしを守ってくれない。

お上品、でも、とがったものがあるもの…。悩んだ結果、エルメスへ意を決して向かった。

店内へ入ると真っ直ぐ指輪のショーケースの前へ立った。
大きく包み込んでくれて存在感のあるデザインのものに惹かれた。
号数を合わせわたしの小学生みたいと言われる小さな手と短い指にはめてもらった。
うん。わたしの求めてたもの。
わたしの手とのアンバランスさがいい。
わたしは何でもアンバランスなものばかりを愛してしまう。
バランスの取れない危うさが毒で魅了されてしまってるらしい。

決めた。
「これください」とソプラノの領域に声を当てにこやかに言えたと思う。

これからわたしの一部としてわたしを守ってちょうだいね。
買ったばかりの指輪が入ったショッパーをなぞり大事に持ち
支払いを済ませお店を颯爽と後にした。

傍目から見たら恋人なんていないしブランド物に頼るただの孤独な人なのかもしれない。

でも

男の子が迎えに来てくれなくてもどんなに帰りが遅くなって終電を逃しても訳もなく涙流しても何があっても大丈夫。

わたしは一人でも歩けるの。

わたしの思想をまた一つ身につけた都会の女だから。

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