見出し画像

【短編小説】翡翠の勾玉

『在りし日の記憶』  昔々、ある小さな農村にて


「ねえ、お兄ちゃん!」
 小さな少女は、その深緑のきれいな瞳を輝かせ、何個も年の離れた兄に、じゃれついている。
「どうしたんだい千代ちよ 、そんなにはしゃいじゃって」
「お兄ちゃんの作ったその勾玉。お兄ちゃんのおめめとおんなじ色で、とってもきれいよ‼」少女は兄の持つ、蒼色の勾玉を見ながら、可愛らしい頬を鮮やかな桃色に染め、可愛らしく笑う。
「でも、どおして勾玉って、こんなへんてこなかたちしてるのぉ?」少女は小首を傾げる。すると、兄の方も、青色の目を輝かせながら、得意げに話しはじめる。
「この形はね、魂や力を表しているんだよ。大昔の人たちは、これに願いを込めて、硬い石を削って、自分の魂を勾玉に移し込んだんだよ。そうして幸運を呼んだり、危機から自分たちを守ったりしていたんだ。」
「じゃあ、あたいの今度の誕生日に、とびっきりきれいな勾玉がほしい‼」
 兄はとても愛おしそうに、わしゃわしゃと少女の頭を撫でた。
「もちろんあげるよ‼ おまえの瞳と同じ、とびっきり綺麗な深緑の勾玉を‼」
 
――いつまでもおまえを、守ってくれるように――
 
 
 

『祟』    ある寺社マニア


 
二〇XX年X月X日。私は仕事の合間をぬって鬼神伝説で有名な、あのXXXX山の又助神社に参拝した。ちょうどその時期に参拝することは、地元では恒例の行事となっていて、多くの地元の参拝客が、私と共に登山道を歩いていた。参道は生い茂った木々が、人の頭上を覆うように伸びていた。
そんな中、見るからに異質な4人グループがいた。よく見るとカメラで自分達を撮影しながらへらへらとした口調で話している。立ち小便や、空き缶や煙草をポイ捨てするといった、彼らのモラルのない行為に対して、私は顔をしかめた。無論、地元の人々も冷たい視線を向けていた。
後日知ったことだが、彼らは心霊スポットを巡る、有名な〇〇という名前のYouTuberだったことが解った。がやかやと騒ぎながら、彼らは登山道の脇道に消えて行った。誰も通らないような、行こうとしても本能が拒絶するような、薄暗く気味が悪い道に。
ふと見ると、地元民らしき初老の男性が、彼らの後ろ姿を睨んでいた。そして、歪めた口を重々しく開いた。
「あいつら、鬼神様に、食われてしまうぞ……」
その日の晩、豪雨がXXXX山近辺を襲ったため、私は参拝後いそいそと宿に戻った。
 数日後、XXX山の中腹で、四体の惨殺死体が発見された。警察の鑑定の結果、私が見かけたYouTuber達であることが、ニュースで取り上げられていた。
そのニュースを見た日から、私は趣味だった寺社巡りをやめた。
 
 
 

『雨』    ???


 雨の降りしきる深い森の中、もぞもぞと動く、怪しい影があった。影の足元には、もはや原型を留めない屍が、四体ほど散乱していた。
ぽつぽつ ぽつぽつ 
〈雨が静かに僕の肩を濡らす。雨の雫の一つ一つが僕の古い、頭の奥にしまい込んだ、かび臭い記憶を呼び覚ましていく。あの時もこんな夜だった。そうだ、僕が人間をやめた日も、こんな夜だった。〉
真っ黒い毛に覆われた、単眼の異形は、真っ赤な血を両手から「ぽつぽつ ぽつぽつ」と不気味に滴らせながら、夜の闇に溶けるように
消えた。
 
 
 

『変身』   昔々、深い森において


闇の中、雨で湿った木々の間を、風の様に駆けていく黒い影があった。それは、雨でぬかるんだ腐葉土に、構う事もなく、びちゃびちゃと音を立てながら、駆ける。やがてそれは、青臭い匂いの立ち込める、鬱蒼とした森から、小高い開けた丘に躍り出た。そこは異形の神像の乱立する、土着民の聖地……
その影の正体は、ほんの十代の青年だった。泥と血で、体は赤黒く染まり、まるで幽鬼の如き風体。ただ、鮮やかな蒼の瞳だけは、らんらんと輝いていた。
その青年は、両手を曇天に向け、憤怒の血涙を流しながら、吠える。
「嗚呼、神々よ、時に命を食み、時に恵みを与える祟り神よ! 私は命尽きるその時まで、汝らへの贄を捧げ続けよう! 故に奴らを! 妹の命を、無惨にも奪った奴らに! 報いる力を与えたまえ! 」
 そう唱えると、若者は懐にしまっていた、まるで夜の深い闇を削りだしたような、漆黒の勾玉を取り出した。そして「ごくり」と飲み込む。
次の瞬間、数多の神像は漆の様に真っ黒い涙を、どろどろと流した。その涙は生き物の様にずるずると地面を這い。彼の体を覆った。
毛穴、口、目、耳、鼻、体の穴という穴から、黒い何かが、ぬるぬると入り込む。とうとうすべてが、彼の体に染み込み、体内で蛆虫の様に這いまわる。
わが身を侵される、おぞましい感覚に悶えながら、彼は夜空を見上げる。彼の目に映ったのは、漆黒の空の雲の切れ目から、煌々と輝く、血の如く紅い月。
 
 
 

『昔話』   語り部の婆さん


 おうおう、みな集まったかのう。
昔々、まだ色んなところで殿様達が、しっちゃかめっちゃか殺し合いをしておった頃じゃ。ある殿様が、この辺りにも攻めてきた。しかし、その殿様も、兵士達も、一夜にして皆食い殺さてしまったのじゃ。里の人は、それは、困った。なんせ、恐ろしい者がさって、もっと恐ろしいものが現れたんじゃからな。そこで、助六神社の宮司様が、犯人を突き止める為に動かれたのじゃ。
血と、足跡を辿って、とうとう宮司様はある洞窟を見つけた。松明で恐る恐る中を照らすと、中に居たのは世にもおぞましい一つ目の鬼じゃった。鬼は宮司様に襲い掛かったが、宮司様も神通力で迎え撃ち、激しく戦った。
宮司様がとうとう鬼を降参させた後、ある提案をしなさった。“お前を退治する事はしない。その代わりにこの洞窟の中でおとなしくし、守り神として、この里一体を守ってほしい”というものじゃ。鬼はその提案を、渋々飲み、以後は鬼神様として祀られるようになった。それがXXX山の又助神社の始まりなのじゃ。
 しかし、鬼神様も神様とて、元は恐ろしい物の怪。非常に短気な神様なのじゃ。じゃから、XXXX山の参道を何があっても守らねばならんのじゃよ。もし参道を外れ、脇道に行ってしまえば、鬼神様の縄張りを侵すこととなる。そうなれば、きっと鬼神様の怒りに触れ、腹の中身を丸ごと引きずり出されてしまうぞぉ。
 
 
 

『転生』   ???


ひと目見ただけで、その刹那の間に、僕は悟った。“あの子”だと。この世の何よりも愛おしく、大切だった“あの子”なのだと。
あの子は生まれ変わり、この時代で生を受けたのだ。嬉しい。またあの子の笑顔を、あの輝く深緑の瞳を、この目で見ることが、出来たのだ。
だが、同時に、悲しみとやるせなさが、臓物を、キリキリと締め付ける。
僕は絶対、彼女に会えない。会ってはいけない。もじゃもじゃの体から、ぎょろりとした大きな一つ目が覗き、鋭く生えた二本の角。こんな姿、一体だれが受け入れてくれるだろう。
――こんなおぞましい、化け物を――
 
 

『回顧』  内藤太郎左衛門義和


 少し前に、江戸に幕府が開かれ、世が平らかとなった。そして今、かつて私の身に起こった奇妙な出来事を、忘れぬうちに書面に残す為、ここで筆を進める。
 今こそ、そこそこの所領に安堵され、妻子を養っている私だが、以前は傭兵としてその身一つで血生臭い戦場に飛び込んでいた。その中でさる高名な大名様の家臣たる某の指揮の元、ある里の乱取りに向かった時の事だ。
我々の部隊は出遅れてしまい、もぬけの殻になった民家に残ったわずかな米や漬物を漁るぐらいしかすることは無かった。しぶしぶ本隊に戻ろうとした頃、どこからか荒い息づかいが聞こえて来た。はっと振り返ってみると、床の板が、一枚ずれているのだ。私は太刀を抜き出し、恐る恐る近づき、床板を蹴り飛ばし、中を覗き込んだ。
 すると中には、一人の少女が、隠れていた。少女は、血で着物を染め、荒く息をしている。少女には抵抗する力も、逃げる気力も残されていなかった。放っておけば勝手に息絶える。かまう必要もないとも考えた。だが、わたしは彼女を床下から引っ張り出し、楽な体制に寝かしてやり、水を口に含ませてやった。彼女の強張った表情が緩み、少し安らいだ表情を浮かべていた。だが、彼女の命は流れ出続け、とうとう息を引き取った。今際(いまわ)の際(きわ)に、彼女は私に微笑みかけ、その緑の瞳から涙をこぼした。その時の彼女の顔が、今でも私の脳裏に焼き付いている。
 彼女の亡骸に布を掛け、念仏を唱え終えた後、私は、やや遅れ気味に本隊のいる野営地に向かった。部隊長から拳骨一発でも食らうかと冷や冷やしながら、勢いよく私は野道を駆けた。しかし、結局私は拳骨を食らう事は無かった。数多張られた天幕を見つけた時、私はある異変に気付いた。戦の狂乱にかられた男たちの集まりである野営地では、いつも下品な笑い声が絶えない。しかし、その時の私の耳に入ってきた音と言えば、せいぜい木の葉の揺れる音ぐらいである。恐る恐る野営地の中を覗くと、恐ろしい光景が、私の眼球に飛び込んできた。
 
 辺り一面死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体
死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体。
 
 血と臓物が、周囲に散乱し、噎せ返るような悪臭が鼻腔を襲う。一揆集にやられたか、と思考が駆け巡るが、甲冑を着たまま胴が引きちぎられた死体や、あばら骨が花の咲くように開き、臓物を食い尽くされた死体などを見るに、人に出来る芸当ではない。
 私は吐き気を押し殺し、死体の山に踏み入った。しばらく息をしている者を探して回ったが、骨折り損に終わった。私は淡い希望を捨て、一刻も早くこの不快な空間から、飛び出してしまおうと、踵を返した。
途端、私の視界が、闇に遮られた。木の葉でも被ったか! と慌てて顔を撫でるも、何もない。立ち眩みでもない。はっと視線を上げると、私は全てを理解した。
闇と思っていた物は、途轍もなく大きな生き物だったのだ。鱗とも毛とも見える真っ黒い何かが体を覆っている。胴体は、視界を覆う程幅広で、ずんぐりしている。両腕は直立したままで地に着くほど長く、首は蛇の様に長い。ぎょろりと大きい青色の一つ目が、こちらをじっと見つめている。
手から滑り落ちる太刀が、カランという、場違いに子気味のいい音を立てた。何百人というつわもののいる野営地を、いともたやすく蹂躙した者の前で、いったいこんな刃物が、なんの役に立つというのだろう。私は全てを諦め、成り行きに任せようと思った。その生き物は、右腕を、こちらにゆっくりの伸ばしてきた。掌には、小刀の様にきらめく爪が、四本も生えている。ああ、せめて苦しまぬよう一思いに……
ところが、その生き物は私を爪で引き裂きはしなかった。目の前に差し出された手には。紐を通した勾玉が、ひっかけてあった。状況を理解出来ず、目をぱちくりさせている私に向かって、その生き物は口を開いた。
「これを……受け取って……」
その声は、その凶悪な見てくれとも、行った残虐な所業とも、おおよそかけ離れた、落ち着いた優しい調子であった。恐る恐る、私は勾玉を受け取る。勾玉は美しい蒼色で、まるで空が溶け落ちた欠片のようだ。私がそれを受け取ったのを見て、その者は振り返り、この場所を去ろうとした。私の胸の内で、疑問と恐怖が、入り乱れた。そして思わず口から言葉が飛び出てしまった。
「なぜ、私を見逃すのだ⁉」
 それを聞くと、その生き物はすっと、長細い首を曲げ、こちらに顔を向けた。
「君は、妹を看取ってくれた……それは、感謝の印だ…」
なんということだろう、私がさきほど出会った少女は、この生き物の妹だったのだ。彼が元々人間だったのか、それとも初めから人ならざる者だったのか、それは解らない。
「これからお前は、どうするつもりなのだ‼ お前は仇を打ち滅ぼした‼ どこに行く‼ なにをする‼」
私は問うた。しかし彼の者は、悲しそうに首を振る。
「解らない……僕には、自分が誰かすら、忘れてしまった……僕に残っているのは、どうしようもない怒りと、憎しみと、悲しみだけなんだ……」
そう言ってその生き物は、深い闇に溶けて行った。
その後の記憶は、半ば夢をみているようであって、はっきりとは思い出せない。ただ、気づくと私は、人里にたどり着いていた。
 さて、この話には続きがある。あの日、蒼の勾玉を、もらってからというもの急に武勲が立つようになった。次第に御屋形様の覚えもめでたくなり。弱小の土豪だった私は、ついにはいっぱしの領主にまでなってしまった。あの勾玉についてだが、今も私の懐にある。この勾玉の、鮮やかな蒼を見ていると、いまでもあの奇妙な出来事を、昨日の様に思い出す。
 おっと、灯籠の油がじき、切れる頃だ、今日はここで筆を置く。

 
 

『小さい頃の思い出についての作文』  二年三組 二十番 芽木 百々子


 それは、私が五歳の夏の話です。知っている人もいるかもしれませんが、私はその夏、一か月行方不明になっていました。その時の記憶は、まるで霧がかかったように朧気で、今までうまく思い出せませんでした。でも、今になってやっと、はっきりと思い出せるようになりました。これから、その時なにがあったのか、書いていきます。
 その日、私たちの家族は、神社を参拝し終え、山道を降りている途中でした。すると、いきなり私の目の前に、黒曜石の様に黒く、美しい蝶が現れました。その蝶は、なんとひらひらと私の鼻に止まってきたのです。しばらくその蝶は、クルクルと羽を動かした後、またひらひらと飛び去って行きました。わたしは、家族を置いて、わき目も振らず、その蝶を追いかけました。その時の私は、なぜかどうしてもその蝶を、捕まえたくなったのです。その衝動は、とても理屈では言い表せません。
 木々をかき分け、岩を飛び越え、私は必死に蝶を追いかけました。しかし途中、下草に足を取られ、転んでしましました。顔を上げたその時、私は気付きました。自分が蝶に連れられ、森の深い所に、迷い込んでしまったことを。父も母も、祖父母もおらず私は泣きだしてしまいました。するとどうでしょう、飛び去っていたはずの黒い蝶は、向きを変え、私の方に飛んできたのです。蝶は、黒い羽根を輝かせながら、私の目の前で、くるくると円の描くように舞っていました。
私は蝶の異変に気付きました。羽を羽ばたくたび、蝶の体は、まるで、セーターの毛糸がほどける様に、するすると細い何かを、体から出していました。その軌道は、何やら人型の何かを形づくっていきました。とうとう、蝶の体はほどけ、蝶の軌道を示した、黒い糸の集まりだけが残りました。次の瞬間、黒い糸は、ぎゅっと集まり、しっかりと生き物の形を成しました。
 私の目の前には、碧い綺麗な色の一つ目を持ち、二本角を生やし、人の倍ほどの背丈の、黒い生き物が現れたのです。そして、私を見て「綺麗な緑色のおめめ……」と、懐かしそうに呟きました。驚きで、涙はとうに引っ込んでいました。私は思考が追い付かず、ただただぼおっとしていることしかできませんでした。しかし、不思議と恐怖はありませんでした。その生き物は、そんな私を心配したのか、そのナマケモノのように長い腕で、すっと私を抱きかかえました。その生き物の毛は、私が包まってきたどんな毛布よりもふわふわで、心地よかったのです。その生き物は、私を、まるで赤ん坊をあやすように優しく揺らしながら
「よしよーし……よしよーし」
と、優しく囁きかけてくれました。その生き物の腕の中で、わたしはすっかり安心し、うとうとと寝入ってしまいました。
 それから一か月、私とその生き物は、洞窟で一緒に暮らしました。私はその生き物を「かみさま」と呼び、かみさまは私のことを「チヨ」と呼びました。私はかみさまと一所に川で魚を捕まえたり、木苺狩りをしたり、かくれんぼをしたりして遊びました。その時の時間は、なぜ今まで忘れていたのか、自分でも解らないほど、楽しくて心地いいものでした。
 私がかみさまと出会ってから、三十回目の夜、その日は満月でした。いつもの様に寝入っていた私を、かみさまはゆすって起こしました。そして、かみさまは私を抱きかかえると、疾風の様に素早く、獣道を駆けて行きました。あっとゆう間に私達は、参道の出口の鳥居前までたどりついてしまいました。かみさまは、私を優しく地面におろすと、その長い手を伸ばしてきました。手には、なにやら光り輝くものが、糸でつるされていました。
「受け取って……これ……お守りに……」
 それはとても美しい緑の勾玉でした。その鮮やかな色は、まるでその中に、青々とした森が、閉じ込められている様でした。かみさまは私の首の後ろに手を回し、首にそれを掛けてくれました。そして、かみさまは、鳥居の向こうを指さしました。
「ここをまっすぐ行けば、君のおうちに帰れる……さあ、もうお家に帰りなさい……」
 
「かみさま、あたい、かみさまとまた会える? また一緒に遊んだりしてくれる?」
私は急に寂しくなって、泣いてしまいました。そんな私の両頬を、かみさまは両手の肉球で、ポムポムと撫でながら、こう言って慰めてくれました。
「もちろんだよ……ぼくは、いつだって君のそばにいる……たとえ姿が見えなくとも、君が忘れてしまっても、いつでも僕は君を見守っているよ……だから泣かないで……」
 私は涙を必死に堪え、無言でこくこくと頷きました。
「さあ……お父さんと……お母さんの元に……早く帰ってあげなさい……」
 私は踵を返し、鳥居に向かって歩き出しました。そして、ちょうど鳥居を抜けたあたりで、私はかみさまに手を振ろうと、振り返りました。しかし、鳥居の向こうに、かみさまの姿は、もうありませんでした。名前を呼んでも、返事はありません。すると突然、目の前で紅い火花が散りました。次の瞬間、私は、かみさまと過ごした一か月間の記憶を、きれいさっぱり失っていました。
 しかし、ある事がきっかけで、記憶が戻ったのです。それはちょうど、都市開発計画の為に、又助神社周辺の、取り壊しが行われていた日でした。その日の夜、なんだか胸騒ぎがして、私は眠れませんでした。外の空気を吸って、気分転換しようと窓御開けたのですが、その時、私の目にはとても不思議な光景が飛び込んで来ました。XXXX山の、森の中から、青色の綺麗な光が、天に向かって登って行ったのです。その時、目の前で突然ぱちぱちと紅い火花が散り、私は今回書いた、かみさまと過ごした、一か月間の記憶を取り戻したのです。
 私とかみさまが遊んだ森も、神社も、洞窟も、今ではすっかり開発が進み、跡形もなく消えてしまいました。でも、時々感じるのです。どこかで、あの真黒でふわふわのかみさまが、私をずっと見守ってくれていると。



いいなと思ったら応援しよう!