ある人のある日のこと (リバイバル)
【ある人のある日のこと 佐藤さん(仮名)】
金が腐った。私が今まで貯めてきたものは全て腐ってしまった。
私に原因があるわけではない。銀行が倒産したとか、国の経済が破綻してしまったとかそういうことでもない。私にはまずもって理解しがたいことであるし、テレビもネットも教えてくれない。私だけが夢を見ているのかもしれないし、周りの人間全てが私に嘘をついているのかもしれない。とにかく何が何だか分かりはしないが、金というものはどういうわけか腐るようになってしまった。
金は今や生モノだ。今がまだ少し肌寒さが残る3月だから良い方だが、どうやら夏場には1日かそこらで腐ってしまうという。
信じられない。今までの自分の人生が何のためにあったのか分からなくなってしまった。
今思えば比較的裕福な家に生まれた。子供のときは習い事を掛け持ちしていたし、塾にも通わせてくれた。高校と大学は私立に通わせてくれた。
まあまあ良い企業にも就職できた。もう今年で20年目だ。
最近会社の一大事業を任せてくれる立場になった。
妻と子どもにも少しは誇れる父親になったと思った直後だった。
全てが崩れ去った。明日からは日銭を稼ぎながらその日食べるものをやりくりしなければならないという。
もはや今まで築き上げてきた何もかもが意味もなく腐ってしまったようだ。
【ある人のある日のこと 田中さん(仮名)】
なんだか毎日が大変だ。
金というものは2、3日で使えなくなったようで、もちろん俺の持っていた金もお釈迦になってしまったが、それよりも周りの変わりようには驚く。
これは人間の脳波に反応して行われる宇宙人の攻撃だとか、資本社会の格差を見かねた神の天罰だとか、全人類が一斉に感染した全く新種の流行り病だとか、ともかく狂ったようなやつらが狂ったことを言い続けている。
隣町の海近くに住んでいるやつらが貝殻を集めて金がわりに使ってみたみたいだが、結局それも通用しなかったようだ。
俺もこの生活にはいつまで経っても慣れない。
前までは1万も入れば1週間は働かずに済んだものだが、今は2日に1日は働いてその1万を使い切らなければならない。
前より食べるものが幾分かマシにはなったが、それにしても週3労働は体にこたえるものがある。