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【イニング締め分析②】明徳義塾vs日大山形 2017年甲子園

さて、前回の続き。


2017年の夏の甲子園
明徳義塾vs日大山形


のイニング締めをみていこう。


試合のランニングスコアは


明徳義塾・110 001 000 003 6
日大山形・120 000 000 000 3


6回ウラ 明徳義塾3-3日大山形
「2番手市川、その力存分に発揮!3対3同点です!」

明徳は2番手の

2年生ピッチャー市川がマウンドへ。


中盤、同点に追いついた直後という重要かつプレッシャーもかかる場面での好投。


イニング締めコメントで市川の名前は必須だが、その後になんというか。

「その力存分に発揮!」

2年生が、プレッシャーのかかる場面で、なんとか抑えたシーン。

この一言にうまく学年や試合の流れを盛り込んでいる。


2番手ピッチャーがしっかりと抑えたときに、今後清水アナがどんなコメントを言うのか。

ここを意識して続きを見て欲しい。


7回表 明徳義塾3-3日大山形
「2番手、背番号14番中西翼!堂々たるピッチング!7回の表、明徳義塾は無得点です。」

日大山形もエース森田がマウンドを降りて、

2番手の中西がマウンドに上がったという場面。


テンポ良く打たせて取るピッチングを展開し、3人でしっかり抑える。

形としては6回ウラに似ている。
ただ、中西の好投に対するコメントは


「堂々たるピッチング!」

内容的に6回表とコメントが被りがちな状況でのこのバリエーション。引き出しの多さ。
ここからはこの2番手2人の好投が軸となり試合は進んでいく。


7回ウラ 明徳義塾3-3日大山形
「素晴らしいボール!力のあるボール!2番手市川、力投!快投が続いています。」

この回もフォーカスは

市川の好投。


前の回は

「6回表全体」

にピントを広く合わせていたが、

この回は

4番を打ち取ったインコースのストレート

にぐっとピントを合わせている。

広く目線を設定するか、ピントを絞って「このプレー」「この1球」に絞って実況するのか。
それが一つ一つのコメントに幅を持たせている。

広く見れば「力を存分に発揮」「堂々としたピッチング」といったイニングと押してのイメージ。


絞ることで、インコースのストレートで詰まらせたという事実が

「素晴らしいボール」「力のあるボール」

というコメントに繋がっている。
また「力投、快投が続く」というコメントで前の回に登板した2番手の活躍という点を線で繋いでいる。


8回表 明徳義塾3-3日大山形
「逃がした明徳義塾!しのいだ日大山形!依然としてゲームは3対3です。」

ここは

対比の妙。

チャンスとピンチは表裏一体。実況がどちらかに傾きすぎると危険である。


ましてや、同点のゲーム終盤。勝敗に大きく直結するシーン。

1アウト1塁2塁からショートゴロゲッツーでチェンジ。
実況のトーンも上がっている。
そこで、少し冷静になってのコメント。

「逃がした明徳義塾」と「しのいだ日大山形」

それぞれの思いをコンパクトに表している。
ゲッツーからの騒がしさのまま行くのではなく落ち着いて伝えている聞いていての気持ちよさ。
その上で手に汗握る展開、その空気感が伝わってくる。

「依然として」という言葉もこの試合のイニング締めで初登場。
2番手投手の好投により、始めはせわしなく動いていたゲームが膠着している様子を立体的に表現している。

チャンス、ピンチ、ゲッツーの話題で頭でっかちになりそうなところだが、この締めくくりにより

視点をぐーんと広げて試合全体へ。


視点を引くことで、ぐっと寄ったゲッツーの視点の重要性、どれだけビッグプレーだったかも伝えている。


8回ウラ 明徳義塾3-3日大山形
「勝ち越し点はまだ入りません。今度は明徳義塾守りました!3対3同点です。」

ピンチのウラにチャンスあり。
今度は日大山形が2アウト1塁2塁のチャンスを作り、9番板坂が初球打ち。
快音響くが浅いセンターライナーで得点入らず。

しびれる。非常にしびれるシーン。


ここでの注目は

「まだ」と「今度は」である。

「まだ」には「得点が入りそうなシーンはあるのに点が入らない。」という意味合い。
同点のゲーム終盤、淡々と進んでいるのではない、共にチャンス、見せ場は作っているよ!ということがわかる。

「今度は」があることで8回表との対比。日大山形に負けじと明徳も!といったニュアンスが含まれている。

ちなみCM明けは
「8回の表ウラの攻防は非常に見ごたえがありました。」

と8回の攻防の緊迫感、臨場感を再度視聴者に示した上で、9回で試合が決まるのか?

はたまた延長か?

という目線を持たせて9回に入るよう視聴者を誘導している。


9回表 明徳義塾3-3日大山形
「落ち着いている!日大山形2番手中西翼のマウンドさばき!9回の表、明徳義塾は0点です!」

この回はノーアウトでランナーを出すものの、中西のバント処理、ゲッツーが飛び出す。
アルプスの歓声、明徳・馬渕監督の表情からも素晴らしいプレーであることがうかがえる。

そして3つ目のアウトも少し間を作ってバッターのタイミングをずらしてピッチャーゴロに打ち取る。

ここは中西にフォーカスを当てたい!


そして、好投を表現する言葉も

「落ち着いている」

という言葉で被り、重複がない。


デジャブ感がないから、実況を見ていても終盤のドキドキ感、臨場感がまったく損なわれない。

9回ウラ 明徳義塾3-3日大山形
「2年生市川が踏ん張る!3年生が良く守る!ゲームは延長戦です!」

ここは中西との対比で明徳・市川で締めている。

散りばめられた2つの対比に着目してみよう。

1つは

「踏ん張る」というコメント。


日大山形の中西は

「落ち着いて」抑えたのに対して、


2年生が9回ウラ、3つのアウトを取った。

これは簡単ではないこと。
様々な重圧も感じながらの3つのアウトだったことを物語っている。

2つ目は「2年生と3年生」

経験が少ない2年生ピッチャーに対して、先輩達の援護。
2年生の踏ん張りを3年生が支えている。
端的に言えば、「ピッチャーが抑えたシーン」だが、相手投手との対比や学年の話題が入ることで
高校野球そのものの面白さ、心にうったえかけるものがある。


10回表 明徳義塾3-3日大山形
「守った!日大山形!!レフト後藤の守備!微妙なところに打球が行きました!勝負に行った!うまく合わせた!!
一瞬の悲鳴が歓声に変わった1塁側アルプスです。延長10回の表が終わりました。」

ここはこの試合の中でもトップクラスのぞくぞくポイント!


再三ピンチ、チャンスを作りつつ、6回ウラ以降両チーム無得点。
「序盤の点の取り合い」を忘れさせるほどのこう着状態。度重なる好プレーでの記憶の上書き。

ここで明徳義塾が2アウト2塁と勝ち越しのチャンス。
5番今井の打球はレフトの前方へ。
ヒットになれば勝ち越し確定の中、

レフト後藤がスライディングキャッチ。


まず前半は好守備について実況。
そこから映像はファインプレーのスローに切り替わる。その映像に実況が見事に合わせているのだ。

≪映像:打球がレフトの前に飛ぶ。前進する後藤≫
「微妙なところに打球が行きました!」
≪映像:ボールが地面に落ちる瞬間、地面すれすれでグラブを出す様子≫
「勝負に行った!うまく合わせた!!」
≪映像:チア泣きそうな表情から喜びの表情≫
「一瞬の悲鳴が歓声に変わった1塁側アルプスです。」

まさしくこれ。これ!この通り!!!
このシンクロが気持ちいい!鳥肌がぶわーっとでる!

もう細かく語るのはやめるが、個人的に好きなフレーズは
「勝負に行った!うまく合わせた!」と
「一瞬の悲鳴が歓声に変わった1塁側アルプスです」だ。

1個目は1フレーズのコンパクトさ。
2個目はここでも悲鳴と歓声の対比が効いている。

10回ウラ 明徳義塾3-3日大山形
「守った明徳!守った明徳!明徳義塾守りました!!日大山形サヨナラならず!3対3同点です!」

この試合は本当にピンチとチャンス、見所が交互にやってくる。
2アウト2塁3塁という「サヨナラのチャンス」を作った日大山形。
ビッグプレーで明徳義塾の勝ち越しを阻んだ直後だ。

強いゴロがセカンドの左へ。センター前に抜けようかというところを、セカンドが好捕!
日大山形のサヨナラを阻むのだ。

10回表では

「守った日大山形」の1コール

だったが、今回はサヨナラの場面。


失点が負けに直結している。なので、1プレーの重みとしては表の後藤よりも大きくなる。
(どちらのプレーのほうが難しいか、ファインプレーだったかは別として)

なのでここでは

「守った明徳!」の2コールで、試合の山場であったことを伝えている。


11回表 明徳義塾3-3日大山形
「今日3打点、斎藤史弥捕りました!延長10回明徳義塾は3人で攻撃終了です!」

まず、イニングの入りのトーク。


「明徳義塾、馬淵監督は6番の久後から攻撃が始まると点数が入りやすいと語っていた」

これがこのイニングの話の軸になるわけだから、点数が入っても入らなくても、この種は刈り取らないといけない。
そこを刈り取っているのが


「明徳義塾は3人で攻撃終了」という実況である。


また、「明徳義塾は」の「は」に、対して日大山形はそのウラどんな攻撃を見せるのか、といった
含みを持たせている。

3つ目のアウトを捕った選手がその日のキーマンであれば、触れてあげるのがセオリー。
日大山形の全得点を叩き出している斎藤史弥のついて紹介している。

ここで

すごいのが斎藤の紹介を入れるタイミング。

センターとセカンドの間のフライで明徳はこの回を終えている。

清水アナは「センターか?セカンドか?セカンドが手を挙げている」と言った後、

斎藤がキャッチする瞬間に合わせて「今日3打点~」というコメントを入れている。

要するにプレーの後の補足しているのではく、プレーそのものに描写と説明を入れているのだ。


11回ウラ 明徳義塾3-3日大山形
「11回のウラ、日大山形も三者凡退です。」

両チームが下位打線で三者凡退に終わったイニング。
しっかり明徳義塾と日大山形の対比も効いている。

テンポ良く明徳義塾も日大山形の7、8、9番を抑えた。

シンプルに締めているからこそ今後の延長での得点シーンでのメリハリが効く。

次は上位打線に回るので、あえてシンプルに締めているからこそ視聴者も12回の攻防に視聴のピントを合わせることができるのだ。

12回表 明徳義塾6-3日大山形
「延長12回の表、明徳義塾ついに勝ち越し、6対3です。」

6回ウラ以降得点が入らなかった両校。
明徳義塾に3点が入る。

この「3点」の重みをどう感じ、表現するかが難しいところ。

まだ試合は終わったわけではないが、かなり大きな勝ち越し点。
もしこれが1点であれば、「ようやく取った1点」と「ウラにそれを返せるか日大山形」が大テーマになる。

しかし今回は守備の乱れからまず1点が入り、その後、打ち取ったフライが深めのライトの前に落ちる2点タイムリーと奇麗な形での得点ではない。

視聴者の気持ちとすれば、「ああ、ここで勝負ありかな。」と思ってしまう。
※あくまで一視聴者の目線で見たときに

そんな中で日大山形のウラの反撃をあおりすぎても、視聴者とのギャップがあるし、
明徳の勝ち越しを称えすぎても、日大山形の立場で考えるとかわいそうだ。

ここで清水アナのコメント。事実を正確に伝える。
「ついに」という言葉を入れて、なかなか点が入らなかった中盤、終盤の流れを伝えている。
あまりここでトーンを上げすぎたり、明徳寄りの言葉を入れすぎると冷めてしまうので、一言入るぐらいが非常にちょうど良い。


試合終了 明徳義塾6-3日大山形
「スリーアウト!試合が終わった!!延長12回の大熱戦!6対3!
高知の名門明徳義塾、日大山形をやぶりました!
良く投げ、良く守った両校!甲子園の舞台にふさわしい、最高のゲームでした!!!」

まずシーンから。
2アウト1塁2塁、日大山形もホームランが出れば同点というチャンスを作る。
しかし、内野フライで試合が終わる。

自分が試合終了の瞬間だったらこのゲームをどうまとめるか?どう表現するか?


最初に出てくる単語は?
フォーカスを投手に当てる?
得点を取った打者・打線に当てる?


清水アナが最初に持ってきた大枠は

「延長12回の大熱戦!」

という単語だ!


確かに、一番に伝えるべきは「延長」までもつれ込む「好ゲーム」だったこと。
このコメントが序盤にぱっと入ることで、視聴者はこの試合全体を振り返ることができる。

その後、早いタイミングで明徳義塾の名前が出る。これも、勝った高校名は早い段階で伝えてあげたい。
ただ、すぐさま日大山形の名前も出てくるところが、好ゲームゆえに両チーム称えたい!という思いを感じる。

最後の

「甲子園の舞台にふさわしい最高のゲームでした!!!」

という実況も全体を上手くまとめていて、爽快感がある。

高校球児らしく、レギュラーの選手も途中出場の選手も甲子園の舞台でハツラツとしたプレーを見せた、そんな試合だったことを一言でまとめている。

試合自体が好ゲームなので、それだけでも見ていて興奮する中継なのだが、

高校野球中継というパッケージでみたときにこの締めコメントが効いてくる。



以上が明徳義塾vs日大山形戦のイニング締めコメントの考察である。

この試合は先制、同点、勝ち越し、均衡、延長など野球のシーンで想定される多くの場面が随所に散りばめられているため、分析するには非常に良い試合だと思った。

さて、今年の夏は甲子園球場でセンバツ出場校による交流試合の開催が決まった。

形は違えど、今年の夏も甲子園が見られることに喜びを感じる。
もちろんメインは球児たちの繰り広げる試合だが、もし実況中継があるのであれば野球実況にも大いに注目したい。

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