【イニング締め分析①】明徳義塾vs日大山形 2017年甲子園
今回は一つの試合を例にイニング締めコメントについてまとめていく。
見ていくのは
2017年 夏の甲子園
明徳義塾 vs 日大山形
実況はテレビ朝日 清水俊輔アナウンサーである。
試合のランニングスコアは
明徳義塾・110 001 000 003 6
日大山形・120 000 000 000 3
さて、全イニングの「イニング締め」を見ていく前に
このランスコを見てどんな試合だったかをなんとなくイメージして欲しい。
試合の序盤・中盤・終盤とそれぞれに色があるのがわかると思う。
それでは全イニング締めを見ていこう。
勝手ながら各実況コメントに分析をつけてみたので参考にして欲しい。
1回表 明徳義塾1-0日大山形
「明徳義塾、2年生の4番谷合のタイムリーヒット!1点を先制しています!」
先制タイムリーを放ったのが「2年生4番」ここが大きなトピックになってくる。
短いコメントの中に、
先制・打順・学年
が過不足なく盛り込まれている。
1回ウラ 明徳義塾1-1日大山形
「同点で食い止めた。明徳のエース北本佑斗。日大山形、斎藤史弥のタイムリーヒット!1対1同点です!」
まず
「同点で食い止めた」
に、
「日大山形がなおも得点のチャンス」
だったことがわかる。
「明徳のエース」
という一文にも
「名門のエースはそう簡単に逆転まで許さないぞ!」
といった深みも感じる。そしてすぐさまタイムリーを打った打者の名前も入ってくる。
2回表 明徳義塾2-1日大山形
「ここは打たれた相手に強気で攻めていきました!明徳義塾すぐさま勝ち越し!2対1です。」
ここも前半と後半の文がそれぞれ秀逸。
前半はただ抑えただけでなく
「打たれた相手を抑えた」
というところに日大山形側の踏ん張りが感じ取れる。
後半は
「すぐさま」
という4文字に「めまぐるしく動く試合の展開」「ずるずる同点で行かないよ!」「明徳のそつのなさ」が伝わる。
2回ウラ 明徳義塾2-3日大山形
「日大山形3番斎藤の2点タイムリーヒット!3対2逆転しています!」
まだ2回の表。落ち着かない試合展開。
しかも、逆転タイムリーが同点タイムリーの斎藤。
入れ込みたい要素は山ほどある。が、
あえてのコンパクト。
ここに視聴者に対して、「おお~、この試合どうなるんだ?」と考える余韻を残している。
語らない美学。
3回表 明徳義塾2-3日大山形
「この試合初めて得点が入らないイニング、明徳義塾0点です。」
どんなバッターをどのように抑えたのか、ということよりもこのイニングだけは
「スコアボードに0が入ったこと」
が大きい。
そこにしっかりとフォーカスを当てている。
しかも明徳義塾は1回表に先制、2回表に「すぐさま逆転」と常に流れを作って序盤を戦ってきた。
その明徳が0に終わったことがこの試合の中で中盤どうなっていくか、という考察ポイントを作っている。
3回ウラ 明徳義塾2-3日大山形
「今井の守備光ります!日大山形もこの試合初めて無得点に終わりました。3回が終わっています。」
好プレーに対して「光ります」というコメント。
日大山形も、の「も」が一文字だがそれ以上も効果をもたらしている。
そう、このイニングは両校0だったよ、ということを、「も」一文字で表現しているのだ。
4回表 明徳義塾2-3日大山形
「リズム良く、自分の持ち味変化球!3人しっかりアウトをとりました!エースナンバー森田南々斗です。」
三者凡退に抑えたイニング。
このピッチャーは「変化球で打ち取るタイプ」という情報。
「エース」を
「エースナンバー」
ということで「山形の強豪の中で1番を勝ち取ったピッチャー」という深み。
つまり、「剛速球ピッチャーではないながらも変化球を駆使してエースになり、甲子園の舞台で明徳義塾相手に好投!」という内容を
イニング締めの短い文章の中で伝えている。
4回ウラ 明徳義塾2-3日大山形
「ランナー出しましたが、しっかりと0に抑えています。ゲームが落ちついてきました。」
三者凡退で抑えた日大山形に対して、明徳義塾は「ランナーを出しても落ち着いていますよ」ということがわかる。
また
「ゲームが落ち着いてきました」
というコメント。
これは試合を見ている人、中継を観ている人が感じる感覚。
明確な裏づけがあるわけではなく、いくつもの試合を見てきた中で感じる
「野球勘」
に近い。
こうした「感覚」がコメントに入っていることが重要で、実況を聞く人がなんとなくそこを意識しながらCM明けの5回表を見ることに繋がる。
これが短いコメントに垣間見える巧みさ。「厚み」と「精度」である。
5回表 明徳義塾2-3日大山形
「この回センター鈴木が2つのプレー!5回の表、明徳が3人で攻撃終了です。」
試合が落ち着いてくると、イニング締めのコメントも被りがちになってくる。
そんな中で、ここでは「3つのアウトがどうとられたか」に着目。
センターが2つアウトを捕った。1個目は右中間に抜けようかというライナーをランニングキャッチ!
2個目は2アウトから正目のセンターライナー。
自ずとカメラはベンチに戻るセンター鈴木を映し、CMへと入っていく。
さりげないことだが「2つのプレー」というコメントに、見る人に「あ~、そういえばそうだ!」と思わせるコメント。
高校野球に関しては選手の名前を極力紹介してあげたい。一見単純に終わった攻撃でもしっかりコメントに意味を持たせている。
5回ウラ 明徳義塾2-3日大山形
「踏ん張った明徳義塾のバッテリーです。3対2、1点差です。」
この回は日大山形4番の舟生に対して徹底したインコース攻め。
そして2アウト1塁2塁のピンチでツーベースを打っている7番の鹿野。
清水アナも解説者と
「バッテリーどう攻めるか」
を軸にトークを展開している。
そのため視聴者の目線も「バッテリーで抑えた!」という見方になっている。
自らまいた種をイニング締めコメントでしっかり刈り取っている。
視聴者を置き去りにしていない。
「1点差です」にも序盤と比べて一つ一つのピンチ・チャンスの持つ意味が大きくなってきていることを示唆している。
6回表 明徳義塾3-3日大山形
「明徳義塾チャンスを生かした!同点に追いつきました!」
ここまで7人連続で凡退の中、イニング冒頭に
「何とかきっかけが欲しい明徳義塾」
と振っている。
その中で先頭がフォアボールで出塁。
送りバントで2塁に進め、シングルヒットが出るも、センターから好返球があり捕殺。
その後もランナー2塁の形を作り、同じようにシングルヒットで同点に。
日大山形側の好守もありながら「チャンスを生かした明徳義塾!」
両チームの攻め合い、守り合いがひしひしと伝わってくるイニング締めコメントである。
さて、ゲーム中盤に明徳義塾が同点に追いついた。
いや~、面白くなった!わくわくしてきた!!!
ここから先どうなるのか、試合終了までは次回。