読む、 #ウェンホリ No.11「曖昧にしないことで変わるチームのあり方」
やりがい搾取にならない構造をつくりたい
堀井:じゃあ、いろいろとお話を伺ってきたんですけれども。ドラマのこれからのつくり方とか、ドラマの現場というのを佐野さんはどういうふうになっていったらいいなって考えていますか?
佐野:そうですね。いろんな課題があると思うんですけれども。ひとつは、ちゃんと日本のドラマが海外市場に出て、海外市場に出たらその分、お金が入ってくるっていう……今、日本の国内だけではやっぱり市場がどうしても小さいので。それがちゃんと海外市場に出ていくことで、きちんとお金が入ってきて。そのお金がちゃんと制作に回って。制作の現場にいる若い子たちが、ちゃんとそれだけで生活していけるような賃金を払いたいっていうのが本当に今、いちばんの目標で。
「いいドラマをつくろう」と思うと、どうしてもお金も労力もかかって。で、お金も労力もかかるようないいドラマをつくろうというチームだと「自分、ギャラはいいんでやります」みたいな、やりがいの搾取みたいなことになってしまうこともすごく多くて。やっぱり自分の人生というか、自分の生活を無視すればなんとかできちゃうみたいなところも身ひとつだとあったりするんですけども。本当にその風潮を変えたくて。どうにか、ちゃんと「またこの現場をやりたい」と思ってくれるような、若い人たちがたくさん入ってくるような。まあ、やっぱり……お金もすごい大事なことなので。ちゃんとギャラが払いたい。
本当にそこに尽きるなと思っていて。いろんな細かい問題はいろいろあるんですけど。やっぱりそこが発端になっていることがすごく多いなと思っているので。なので、やっぱりできるだけ海外市場に並べていけるような作品がつくれるように頑張ろうと思っているところでございます。
堀井:そして今、ちょうど過渡期かもしれない。今、ここで頑張らなきゃということでもあるんですけれども。ハラスメントとか……たくさん話題になりましたし、改善してるところもあるし。そういうところは佐野さんは現場にいて、どう思われますか?
佐野:そうですね。先ほど、「大声を出す人は嫌だ」っていうふうに言ったんですけれども。そういった意味では撮影現場で誰かが怒鳴られるみたいな、わかりやすいそういうハラスメントは減ってきてるなとは思うんですけれども。その分、なんというか、ちょっと質が陰湿な、一見そうとはわからないけれども傷つく人格否定的な発言がやっぱりあったりとか。どうしても密度が高くて狭いところでずっと現場をやっているので。「100人ぐらいのチーム」と申し上げましたが、本当の核のメンバーは、たとえば演出部だと10人にも満たないぐらいでやってるので。
そこのなかの狭い人間関係っていうのが、なかなか風穴を開けにくいところではあるので。そこをどうにか変えたいなとは思っているところですね。あとはやっぱり「女性が働きにくい」というのは間違いなくありまして。私も子供がいないのでなんとかこの仕事ができてるところはあるんですけれども。じゃあ実際問題、仮に自分に今、子供がいたとしたら、こういうような働き方はできないですし。ただ、たとえばNetflixさんとかは今、撮影現場に託児所につくるみたいな動きがあったり。実際にこの前、なにかひとつ、映画でそういう現場があったっていうことを噂で聞きまして。
それは素晴らしいことだし。なんかそれが当たり前になっていくといいなと思いますし。ちょっとずつ、その先陣を切る人がいると、なんとなく「今、こういうのをやらなきゃいけないんだね」っていう空気になってくるっていうのがあると思うので。自分も少しずつ風穴を開けられればと思っているところです。
インティマシー・コーディネーターによって守られるもの
堀井:はい。そして「インティマシー・コーディネーター」という話もね、最近よく言葉で出てきますけれども。これ、佐野さん、どういうお仕事というか、役割なんですか?
佐野:ええとですね、私がインティマシー・コーディネーターについて、そんなに偉そうに語ることはできないんですけど。あくまでも私の解釈というか、私が経験したインティマシー・コーディネーターの方のお仕事というところで言いますと、たとえばベッドシーン……疑似性行為に見せるようなベッドシーンというのがあった場合に、台本を読んで、まずは監督とそのインティマシー・コーディネーターの方と、あとはプロデューサーチームとで「どういう演出をしたいのか? どういうシーンの描写にしたいのか? 役者さんたちにどこまで見せてほしいのか? どういう動きをしてほしいのか?」とか、そういったこと。まず、こちらのオーダーを伝えて。それに対して、ものすごく細かくインティマシー・コーディネーターの方が聞き取りをしてくださるんですね。
たとえば「ここは背中が見えますか? 『ブランケット』と書いてあるけれども、そのブランケットの薄さはどのぐらいですか? ライティングはどのくらいで考えてますか? 顔のどこまで映りますか? 肩は鎖骨も左右、映りますか?」とか、本当に細かいところまで聞いてくださって。そのことを踏まえたうえで、役者さんたちとそれぞれに……そこは私たち制作側は一切入れない場所で。
役者さん、マネージャーさん、そのコーディネーターさんという3者で、こちら側、制作側の要求……「こういうふうにしたいんだ」っていうことを伝えて。それで「どこまではやれる。どこまではやれない。これはやれるけど、やるときにはここを注意してほしい」とか。そういったことをそれぞれに聞き取り調査をしてくださって。それを踏まえて、いろいろな準備をして。場合によっては、弁護士も入れた同意書を事前に交わしたりして。
堀井:もう日本でも、そうなんですね。
佐野:ありますね。今回、私たちはそういうような同意書が必要なシーンではなかったので、やらなかったんですけれども。それは両者の判断でやらなかったんですが。そういったケースも過去にあったというふうに聞きました。で、そこで事前に、たとえば「編集のチェックをさせてほしい」とか、そういったようなことも含めてとにかく、撮影の前にきちんと同意をして。場合によっては契約書も交わした上で撮影をスタートできるというところで。
たとえば、役者さんの身体的接触を直接しないようにするために、ピラティスとかで使うボール……ソフトボールみたいな、ボールの少し空気を抜いたものを間に挟んで。それを映らないようなところに挟んで、実際は密着していないんだけれども密着しているように見せるとか。そういった、見たこともない道具とかも出てきたりして。「でも、これでものすごく役者さんたちのストレスが軽減されるな」という、そういった驚きがありましたし。あと本当に一番大事なことははっきりと「ここまではできる、ここまではできない」ということを事前に合意を交わすことで、現場でどうしても権力者になってしまう監督やプロデューサーが急に言い出すということができないようになるという。それは素晴らしくいいことだなと思いました。
堀井:これを(2022年)10月24日スタートのドラマ『エルピス』で取り入れてらっしゃるということなんですが。
佐野:なかなか今、地上波のゴールデン、プライム帯のドラマではやらない、ちょっとしたラブシーンみたいなものがありまして。そこの撮影を、あんまり私自身がそういうものをやったことがなかったので。「どうしようかな?」と悩んでいるときに、たまたまNetflixさんのドラマでインティマシー・コーディネーターさんが入って撮影をしたというニュースの記事を読みまして。
「ああ、こんなお仕事があるんだ。それはもう安心して……自分がこの撮影のとき、役者さんたちにどういうふうに接したらいいだろうと不安に思い、悩んでいたことを解決してくれそうだ」と思って、インティマシー・コーディネーターの方に今回のドラマのコーディネートをお願いしまして。これはもう、間違いなく続けていきたいなと思っているところですし。割と会社内でも「気になる方があったら紹介しますので、言ってください」と今、布教活動を今してるところなんですけれども。
私もまだ1回、ご一緒しただけなので。本当の「こうあるべきだ」っていうことを学び切ったわけではないと思うんですが。本当に一歩一歩だと思うので。
堀井:うんうん。いろんなことをね、曖昧にしないっていうのがすごい大事ですよね。
<書き起こし終わり>
文:みやーんZZ
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