問い続ける時代の企業ブログ『Q by Livesense』でリブセンスに起きた変化#WORKDESIGNAWARD2021
「WORK DESIGN AWARD」は、働き方をアップデートするために奮闘する組織や人を応援したいという思いから創設されたSmartHR主催のアワードです。初開催となる2021年は、6部門を設け、合計で100を超える企業や団体から応募が集まりました。
そのなかでニューカルチャー部門に選ばれたのが、株式会社リブセンスの企業ブログ『Q by Livesense』です。縦書き、長文、写真なし。ただただキャッチーで読みやすいメディアを目指すのなら、なかなか選ばれないデザインでしょう。しかし、そんなスタイルながらQ by Livesenseはヒット記事を次々に送り出し、多くの読者を獲得しています。
この稀有なメディアがどのようにして誕生したのか。そして、どのような方針で運営されているのか。編集長を務めるニシブマリエさんに尋ねます。
社会課題を見つめ、「問い」を重ねていくメディア
「あたりまえを、発明しよう。」をビジョンに掲げ、ITの力で社会課題の解決を目指しているリブセンス。しかし、今や社会課題を扱うことはベンチャー企業の必須条件といえるほど、当たり前になりました。このタイミングであらためて、リブセンスらしさを考え、社員の“会社愛”を深めたい。そう考えた末、伸び悩んでいた広報ブログをリニューアルする形で2020年冬に生まれたのが、Q by Livesenseでした。
「ブログのリニューアルが動き出す前年から、社内で『経営デザインプロジェクト』という企画が動いていました。会社愛をもっと強めていくために、社員自身がリブセンスについて思考し、再定義していこうという取り組みです。私たちが感じる“会社のアイデンティティ”を言語化していくために対話を重ね、最終的に『わたしたちが変わるための9つの指針』を策定しました」
9つの指針には、たとえば『多様な働き方の実現』『差別、ハラスメントの根絶と平等の実現』『事業以外でも社会に貢献する』といった項目があり、この指針に基づいて、社内の制度や福利厚生なども見直されたそうです。
こうした流れがQ by Livesenseのコンセプト設計に大きく影響したとニシブさん。「オウンドメディア」ではなく、「企業ブログ」を標榜しているのもそのひとつといえます。
「新しいブログの在り方を話し合うなかで、私たちは“オウンドメディア”をつくりたいのか? という議論がありました。どれだけ佇まいがカッコよくても、宣伝のためにお手盛り感あふれるコンテンツが並んでいたり、制作委託によって現場との乖離があったりするメディアは、私たちの理想ではなかったんです。
そこで企業のメディア運営のセオリーに従うのではなく、あえて『企業ブログ』という言葉を冠しました。個人の視線や想いを大切に、等身大で伝える。“リブセンスを”紹介するのではなく、“リブセンスによって”社会課題を紹介し、読者と問いを共有できるメディアにしていこうと決めたんです」
私たちだからこそ見い出せる課題を、私たちならではの言葉で
コンセプトが固まったうえで、定めた編集方針は3つ。光の当たりづらい社会課題を扱うこと、リブセンスの社内にある課題に焦点を当てること。背伸びをせず、等身大で語ること。
「社会課題のなかにも、注目されやすいテーマとそうでもないテーマがあると思うんです。たとえば、今はジェンダーが人気だし、実際に有給生理休暇について書いた記事はいつもの10倍ほど読まれました。もちろんメディアにとって、PVは大切な指標です。でも、PVとテーマの重要度が比例しているわけではない。だからこそ企画をつくるとき、読まれるか・読まれないかだけで価値をつけてはいけないと考えています。むしろPVを取りづらいテーマこそ、社会でもっと語られるべきイシューなのではないでしょうか。
もうひとつ心がけているのは、テーマありきではなく、問いありきの記事をつくることです。先ほどの有給生理休暇の記事を例にすれば、制度そのものを取り上げるのではなく、『男性社員にとってはアンフェアなのか?』という問いを見つめる。問いが、テーマと人を結びつけてくれるようにも思います」
もちろん、そうした問いやテーマを見つけ、記事化していく作業は、簡単なことではありません。気になる問いやテーマが見つかっても、なぜそれをQ by Livesenseで取り上げるのかという接続が難しいことも。そんなときに頼りにするのが、社員の声だとか。
「生の声が聞こえてくるだけで、そのテーマを私たちが書く理由が生まれます。たとえば、女性の化粧マナーについて考える記事では、社員同士がSlackで話していた過去の経験からヒントをもらい、等身大の記事ができました。逆に、テーマを決めてヒアリングをしても思うような結果が出ず、記事化を諦めることも少なくありません。
また、生の声が持つ熱量は、個人が書くブログやnoteに勝てないとも感じています。でも、一歩引いて客観的にテーマを見つめ、当事者の声も知識も踏まえて網羅的な記事をつくるのは、企業ブログだからこそできることだと思っているんです」
これからも自社らしさを追求して「場」の信頼感を育てていく
Q by Livesenseがこれまでに公開した記事は35本。人種差別、ジェンダーギャップ、発達障害、時短勤務、障害者雇用、左利き、反社チェックなど、多様なテーマを取り上げてきました。コンテンツの本数とクオリティのバランスは、多くのオウンドメディアや企業ブログの悩むところですが、Q by Livesenseでは、ライティングもデザインも、すべて社内のメンバーが担当しています。
「執筆している4人のうち、私以外はみんな職業ライターではないんです。つまり、もともとライティングをやってきた人でなくとも、しっかりと記事を制作できる。他社の方から『御社だからできている』なんてコメントをいただくこともあるのですが、意外と属人的な作業ではないと思うんですよね。編集として赤やコメントは入れますが『こう書いてください』という指示も出しません。納得できずに書く言葉はどうしても浮いてしまうし、浮いた言葉は響かない。だから、執筆する人の感じたことや書きたいことを尊重するようにしているんです」
過去の広報ブログに比べると、一記事あたりの平均PVは約10倍となり、社員のエンゲージメント向上にもつながっているといいます。
「これだけコンテンツがあふれている今、面白い記事はどこからでも見つけることができます。それは逆に『このメディアだから』という信頼感が持ちづらい、ということでもあるような気がしていて……だからこそ、Q by Livesenseという“場”の信頼感を確立していきたいと考えています」
Q by Livesenseが少しずつ、社員が自社を好きな理由のひとつになっているように感じるとニシブさん。発達障害や有給生理休暇などの記事では、悩みが可視化されたことで当事者から感謝の声も届き、とてもうれしかったとか。
Q by Livesenseが結果を出した要因を聞いてみると「きっと、リブセンスらしさがあったから」と、答えが返ってきました。
「リブセンスは、社会課題にまなざしを向けることが善である、という価値観をもっている会社です。それはこの数年間、社内の対話を通じてつくってきた9つの指針や制度設計にも表れています。その下地があったからこそ、社会課題を問うQ by Livesenseが地に足の着いた取り組みとなり、私たちらしい記事を発信できて、多くの方に読んでいただけたのではないでしょうか」
今後の目標は、コンスタントに記事を公開しながら、読者の輪を広げていくこと。実験的に、編集後記を音声コンテンツで提供する取り組みもはじめました。
「迷いや葛藤を書くというコンセプトなのに、記事ができあがってみると“かっこよく見えてしまう”ことが悩みのひとつなんです。本当はこんなことを考えたり悩んだりしながらつくっているんだよ、という空気を伝えるために、音声という方法を取ってみました。PodcastやSpotifyでも聞けるので、ぜひ『Q by Livesense』で検索してみてください」
「はじめの一年はとにかく記事をつくることに注力していたのですが、今後は他社とコラボしてイベントや記事をつくるのも面白いだろうと感じています。電子書籍化もしたい。野望はたくさんあるんです」
文:菅原さくら 撮影:田野英知
リブセンスが運営する「Q by Livesense」のWebサイトはこちら!
■働くの実験室(仮) 公式サイト
WORK DESIGN AWARDを主催する働くの実験室(仮) by SmartHRの最新情報や裏話、実験の種が届くニュースレター登録は下記ウェブサイトから。
■公式Twitter
随時、情報発信中です!