赤信号で止まること
最期の夏の入り口に立っていたのは、
小さな野心の塊だった。
海辺に沈む夕日がだんだんせっかちになって、
夏の終わりを感じる。
空を見上げると、ひつじ雲が見えたから
もう次の季節がすぐそこにいるのを感じた。
時間の速さって、指数的に加速してるんだろうか。
そんなくだらないことを考えてみたりした。
夏って、なんだかパワフルになれる気がする。
ちょっとした、「なんとでもなる精神」。
たまに吹く心地よい風も、
ジリジリとした日差しも、
なんでも自分の味方をしてくれる気がする。
夏の始まりとともに、私は、なんとなく
ぶつけるアテもない野心で漲っていた。
何事にも縛られず、自由に生きたい。
あれもやりたい、これもやりたい。
「革命」を起こしたい。
どうやってそんな野心たちを消化するか、
この夏の間、ずっと考えていた。
何か残さなきゃ、結果を出さなきゃ、と
答えが見つからなくて、少し焦りを感じていた。
そんな風に過ごしていた この季節。
ひと夏を振り返ってみて残ったのは、
ちょっとした、「一つ一つのこと」。
赤信号で止まること。
目上の人に使う敬語。
言葉の語尾につける絵文字。
安全なだけの生活は、つまらないかもしれない。
けど、そんな「まだまだ足りない自分」ですらも
好きでいたいし、大切にしたい。
それもそれでいいだろうって。
攻めも必要だけど、まずは一歩一歩を着実に。
「当たり前」を見失わずに。
いつかこの「当たり前」にも終わりが来てしまうのだから。
そんな、夏
(photo: Ryotaさん)