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レンズ越しの私の世界

「私を見つけてください。」
そう言って、ビデオは切れた。



彼女と出会った(一方的に見つけた)のは、
高3の冬。いつも勉強をするスタバで。

何をたどってどう見つけたのかは覚えていない。
ただ衝撃が走った。あまりの透明感。いまにも消えてしまいそうな儚さ。そしてしっかりと存在を確かめさせてくれる文章。

それが、藤野有理さん(ミスiD2016出身)のSNSだった。

SNSなんてただの文字の羅列でしかないのに、
どこか不思議だった。寄り添ってくれる気がして。

もう誰も信じれなくなった夜も、
一人で歌を歌った帰り道も、
自分はどこに行けばいいのか分からなくなったあの日も、
なぜかちょうどタイムラインに彼女は現れた。

これが運命なんだとかは思わない。

でも少しずつ少しずつ、私の中で彼女は
他の芸能人とは違う、
ただの憧れではない存在になっていた。

私もそんな表現方法をできたら…と、
漠然と考えていた。



大学に入学して2か月くらい経った頃、
京都の街で美容師さんに声をかけてもらい
"サロンモデル"を始めた。

スタイリングをして、写真をパシャパシャ撮られる。
ふーん、こうやって世の中の雑誌やホームページはできていくんだな。

のちに仕事用のインスタアカウントを設立し、
定期的に、依頼を受けた美容院へ撮影されに行くようになった。

雑誌の撮影にも関わり、
書店で自分の顔を見つけた時は、なんだか変な気分だった。

目標もできた。
「ar」に載りたい。
駅の看板のモデルになりたい。
もっと多くの人に見つけてもらいたい。

カシャ、カシャ、とシャッターを切られる度に、
願いを込めてレンズを覗く。

「私を見つけて。」

レンズの向こうには、もっともっと広い世界が
広がっているような気がしていた。

「私を見つけて。」

あの日から、今この瞬間までずっと。



まだ数える程しか来たことのない東京で、
慣れない有楽町線を乗り換えて護国寺駅の改札を出た。

キャリーケースを引っ張って、たった一人で。

エレベーターが無くて、重いな〜と思いながら
衣装などが入ったキャリーケースを持ち上げて、階段を登った。

一筋の光が見えた。

出口を出るとそこには、歴史と風格を感じさせる白い"あの"建物が、堂々とまた重々しく建っていた。

今まで漠然と夢見ていたものが、画面の中でしか見たことのなかった世界が、もんやりとした幻想から突然現実として迫ってきた。

ついに来たのだな。


私は一人、足を踏み出した



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