レンズ越しの私の世界
「私を見つけてください。」
そう言って、ビデオは切れた。
*
彼女と出会った(一方的に見つけた)のは、
高3の冬。いつも勉強をするスタバで。
何をたどってどう見つけたのかは覚えていない。
ただ衝撃が走った。あまりの透明感。いまにも消えてしまいそうな儚さ。そしてしっかりと存在を確かめさせてくれる文章。
それが、藤野有理さん(ミスiD2016出身)のSNSだった。
SNSなんてただの文字の羅列でしかないのに、
どこか不思議だった。寄り添ってくれる気がして。
もう誰も信じれなくなった夜も、
一人で歌を歌った帰り道も、
自分はどこに行けばいいのか分からなくなったあの日も、
なぜかちょうどタイムラインに彼女は現れた。
これが運命なんだとかは思わない。
でも少しずつ少しずつ、私の中で彼女は
他の芸能人とは違う、
ただの憧れではない存在になっていた。
私もそんな表現方法をできたら…と、
漠然と考えていた。
*
大学に入学して2か月くらい経った頃、
京都の街で美容師さんに声をかけてもらい
"サロンモデル"を始めた。
スタイリングをして、写真をパシャパシャ撮られる。
ふーん、こうやって世の中の雑誌やホームページはできていくんだな。
のちに仕事用のインスタアカウントを設立し、
定期的に、依頼を受けた美容院へ撮影されに行くようになった。
雑誌の撮影にも関わり、
書店で自分の顔を見つけた時は、なんだか変な気分だった。
目標もできた。
「ar」に載りたい。
駅の看板のモデルになりたい。
もっと多くの人に見つけてもらいたい。
カシャ、カシャ、とシャッターを切られる度に、
願いを込めてレンズを覗く。
「私を見つけて。」
レンズの向こうには、もっともっと広い世界が
広がっているような気がしていた。
「私を見つけて。」
あの日から、今この瞬間までずっと。
*
まだ数える程しか来たことのない東京で、
慣れない有楽町線を乗り換えて護国寺駅の改札を出た。
キャリーケースを引っ張って、たった一人で。
エレベーターが無くて、重いな〜と思いながら
衣装などが入ったキャリーケースを持ち上げて、階段を登った。
一筋の光が見えた。
出口を出るとそこには、歴史と風格を感じさせる白い"あの"建物が、堂々とまた重々しく建っていた。
今まで漠然と夢見ていたものが、画面の中でしか見たことのなかった世界が、もんやりとした幻想から突然現実として迫ってきた。
ついに来たのだな。
私は一人、足を踏み出した