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北海道真冬の旅 0泊?3日

真冬に、若きギタービルダーの頼みで、北海道は下川町まで、ギター用の材木である赤松の輪切り2本を取りに行ったことがある。
軽トラサンバーで八戸~苫小牧~下川を往復する。片道千kmの旅になる。

1日目は、八戸港まで3時間かけて行き、シルバーフェリーに乗る。
夜に乗れば明け方には着く。その間は、ゆっくりと寝ていればいい。
2日目は、明け方、苫小牧に上陸する。快晴無風で朝焼けが眩しいが、いやあ凍れるんじゃないかい。キンキンに冷えている。
内陸部で一昨日から昨日にかけて大雪が降って、高速が動いているかわからないので、国道を行く。
朝早いので、千歳付近までは雪も交通量も少ないので快調だ。
軽トラサンバーは当然四駆、小さいけれどパワフルなエンジンで雪道を疾駆する。国道を北上すると雪が増えてきて、岩見沢辺りは除雪した雪が大きな山のようになって、雪の回廊を進んでいるようだ。
旭川を過ぎると、雪の量は半端じゃなくなるが、雪国育ちだ、下川に向けてゴ・ゴ・ゴ~とアクセルを踏む。剣淵の辺りから東に向かい、目的地の材木屋に着いたのは昼過ぎだ。
突然現れた珍客に、材木屋の方々がみんなびっくりして、なんでこんな大雪の日に来たのと、あきれられるが、乗り掛かった舟(フェリー)は降りるわけにはいかない。大雪だから来ないと思って、丸太は雪の中にあった。
雪から掘り出した輪切りの丸太を2本積んで、すたこらさっさと下川を後にする。
今夜のフェリーに乗るので、時間がない。腹も減った。眠い。
周りは真っ白で、どこが道やらわからない所を、〇が四つの高級車が凄い速度で追い抜いていく。いくらサンバーが元気だといっても、あの速度ではついていけない。また一人ボッチだ。どこをどう走っているのかわからないまま走り続ける。2時間近く走り続けて、ようやく和寒に抜けた。長い。
ここからは、国道をまっすぐ南下するだけだから、気が楽だと思ったが、北上するときは圧雪だった道が、ツルツルのアイスバーンになっている。
軽トラの苦手な状態だ。ちょっと油断すると、すぐにスピンする。
なんとか今夜のフェリーに乗りたいと気は急くが、道のりは遠い。気も遠くなりそうだ。ようやく岩見沢に着き、高速に乗らずに東山町方向へ進む。しばらく走ると蕎麦屋の看板が有った。客は誰もいない。かけ蕎麦を頼んだら、しばらく待たされて、子供が真っ黒なつゆの入ったどんぶりを持ってきた。中にそばが沈んでいる。真っ黒なつゆをすすると、「しょっぺー」ぞ、これは何だ。
事件は丼の中でおきていた。腹は減ってるし、文句を言って言い争いになったら時間がもったいない。フェリーの時間が迫っているから、そばだけすすって、睨みながら金を払った。心の中で「俺を殺す気すか、もう二度と来ねえぞ」と、どすを利かせて毒を吐いた。小心者が情けねえなあ。
地獄はここからだった。塩分100%の蕎麦はやたらとのどが渇く。こんな時に限ってセイコーマートも自販機もない。真っ暗なアイスバーンの道、気は急くしのどは乾くし、泣きそうになって走っていたら、突然スピンして雪の壁に突っ込んでしまった。
車は壊れていないし、エンジンはかかる。ギアをバックに入れ、ゆっくりアクセルを踏むと、じわっと後退して脱出に成功した。
北海道の雪の軽さに助かった。地元だったら、氷の壁に激突して、救急車とレッカーを手配するところだった。
ヘロヘロになって苫小牧に戻った時は、フェリー出航間近。
乗船手続きにギリギリ間に合い、2日めが終わった。
フェリーの風呂に入って、真っ暗な海を見ていたら、ジワジワと怖さが滲み出てきて、手が震えた。
3日目は、何事もなく八戸に着き、通いなれた道をわが故郷へと向かう。
こうして、三日かけて北海道を往復して、高速を使わず、宿泊はフェリーのみという、超ダイハードな旅は終わった。

六十過ぎのおっさんと、軽トラサンバーの旅は、ハードボイルドだろう。
持ってきた原木が、どのギターになったのかはわからないが、誰かの手に渡り、末永く弾いてもらえたら嬉しいかぎりだ。

若きギタービルダーの一号機
注文は5年先まで埋まっているそうだ

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