フライフィッシャー犬 レビーのいた渓 Ⅱ
いつもの渓、遠野の早瀬川、寒さでふるえている。
林道を十何キロも走って、やっとたどり着いた南本内川の支流。
いったいここはどこなのか、わからないほど山が深い和賀川。
水温2℃の中に潜む、魚たちの気配。
桜の花びらで染まった水面。
山笑う、雨上がりの原っぱ。
全周を緑に囲まれた、濃密な橅の森。
トンネルの向こうに、桃源郷がある、マヨイガへの迷路。
真っ赤に染まった雑木林の向こうに、熊の気配が。
いつでも、どこにでも、おまえと一緒だ。
「あたりまえだろう。おれたちは最高の相棒だ」と、一言「ワン」。
鎖につながれている人間はいない。
一生、鎖につながれている犬がいる。
相棒なら、鎖から解き放して自由に走らせる。
「おれは、おもいっきり走り回ると、すごく興奮するぞ」と、「ワン」。
「どんなに深くて速い流れでも泳げるのが自慢だ」と、「ワン」。
「そして車の中で昼寝するのが大好きだ」と、「ワン」。
「ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン」
ワン、ワンって、これが本当の「wonderfull!」だと、親父ギャグ。
「ケ、つまんねえなあ。だから家族に嫌われるんだぞ」と、「ワン」。
思いっきり抱きしめて、頭をゴシゴシすると、水の香りがした。